会議やワークショップにおけるファシリテーターは、プログラムをデザインする事前段階で用意しておいた問いを投げかけながらも、その問いを活かすための補足の問いを重ねたり、参加者の反応に合わせて別の問いを投げかけたり、状況に応じた問いかけを臨機応変に駆使することが求められます。
このような、ファシリテーターの即興的な問いかけは、その目的や機能によって、以下の4つのバリエーションに分類されます。
①シンプル・クエスチョン:
参加者の意見に対する素朴な疑問
②ティーチング・クエスチョン:
参加者に意図的な気づきを与えるためのフィードバック
③コーチング・クエスチョン:
参加者の意欲、思考、価値観を引き出すための問いかけ
④フィロソフィカル・クエスチョン:
学習テーマをより深めるための探究的な問いかけ
①シンプル・クエスチョン
いわゆる「素朴な疑問」です。特にプロセスデザイン上の意図はなく、参加者の発言や行動、グループから発表されたアイデアなどに対して、わからなかったことや、素朴に気になったことについて、ファシリテーターから質問するパターンです。会議やワークショップの目的にあわせた「変化を起こすための意図的介入」ではなく、単に「わからないから尋ねる」類のものです。偶発的に、これがきっかけとなって、コミュニケーションが深まるきっかけとなることはありえます。
②ティーチング・クエスチョン
企業内人材育成や学校教育など、思考や対話を深めるべき方向性や視点がそれなりに明確である場合に、教育的な意図を持って介入されるパターンです。純粋な会議やワークショップではあまり発生しませんが、インストラクショナルデザインとの複合で作られたワークショップ型の研修などにおいては頻発されます。
参加者が活動に没入しているうちに、検討されていない視点があったり、学習目標に至っていない点があった場合に、ある種の教育的な意図を持って介入し、問いかけを通して参加者に「欠けていた視点への気づきを促す」ためのフィードバック的な機能を持っています。
③コーチング・クエスチョン
コーチングのスタンスのように、参加者のなかにある意欲や、思考、価値観などをより引き出すための問いかけです。会議やワークショップにおいては、ティーチング・クエスチョンよりもこちらのほうが頻出するのではないでしょうか。気づかせたい視点や誘導したい意見があるわけではなく、参加者の意見を引き出すことで、コミュニケーションを前進させたり、気づきを深めるための介入です。
④フィロソフィカル・クエスチョン
設定したテーマをより深めるための探究的な問いかけです。たとえば「新しいオフィス家具をデザインする」ワークショップにおいて「そもそも現代におけるオフィスの意味とはなんでしょうか?」「未来において、オフィスは存在しているのでしょうか?」といったような問いかけです。商品開発などイノベーションプロジェクトにおいては、このような問いかけは重要です。
会議やワークショップの最中に「答え」が出せなかったとしても、長期的に考える価値のある問いを場に投げかけることで、本質的な議論を促すことができます。イントロダクションで投げかける場合もあれば、後半〜終盤で、議論の経過を踏まえて長期課題として場にあぶり出される場合もあるでしょう。
以上の4パターンは、質問や発問との比較表と同じ構造で、問いかけの答えの在り処が異なり、以下のようにまとめられます。
自分の得意パターンをメタ認知する
この整理を実践者に紹介すると、多くの場合「自分は②の問いかけばかりしている..」とか「③が得意かもしれない」とか「④を考えるのがワクワクする!」などと、人によって異なる反応や傾向がみえてきます。自分のファシリテーションにおける得意パターンをメタ認知しながら、意識的に苦手なパターンを練習して幅を広げたり、場の目的に合わせて問いかけの仕方を調整したりすることが有効でしょう。
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