ファシリテーターの”芸風”の構造

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ファシリテーターの”芸風”の構造

ファシリテーターとして熟達するためには、苦手なスキルを鍛えるだけでなく、自分の得意とする強みを伸ばすことが欠かせません。筆者が行った、熟練したファシリテーターの暗黙知に関する調査研究でも、当日の立ち振る舞いや、背後にある価値観は、ファシリテーターによって多種多様であることが確認されています。

筆者は、こうしたファシリテーター固有の技、その背後にある価値観を含めた強みのことをファシリテーターの「芸風」と呼んでいます。ファシリテーターの「芸風」は、「コミュニケーションスタンス」「武器」「信念」の3つに分解することができます。

(1)場に対するコミュニケーションスタンス

ファシリテーターと一口にいっても、よく喋る人もいれば、ほとんど喋らない人もいます。まず参加者の日常の悩みを聞くところから始める人もいれば、自ら口火をきって非日常の世界へと誘っていく人もいます。 論理的な整理を好む人もいれば、場の感情を第一に進行する人もいるでしょう。

これらは、場に対するコミュニケーションのスタンスの違いです。ファシリテーターのコミュニケーションスタンスの違いは、以下の2軸のマトリクスで整理しています。

場に対するコミュニケーションのスタンス

縦軸は、「参加者に対して自ら働きかけ、触発しながら進行していくタイプ」か、「参加者の意見やコミュニケーションに耳を傾け、それを共感的に受け止めながら進行していくタイプ」かを表しています。

横軸は、「場に関わる際に論理的なコミュニケーションを重視するタイプ」か、「場に関わる際に感情的なコミュニケーションを重視するタイプ」かを表しています。

興味深いことに、初心者であればあるほど、自分の元々のコミュニケーションの特性とは真逆のタイプに対してファシリテーターとしての憧れを抱く傾向があります。しかし、自分の苦手なコミュニケーションスタンスを無理にとろうとすると、不自然な立ち振る舞いになってしまいます。自分がパフォーマンスを発揮しやすいコミュニケーションスタンスを理解し、その特性を生かしてファシリテーションするとよいでしょう。

(2)場を握り、変化を起こすための武器

第二に、実際にワークショップや会議の場をホールドしたり、学習や創発の変化を生み出していく際に、ファシリテーターとして何を武器にしているか、というところも、芸風に大きく関わります。

前述したコミュニケーションスタンスそのものを武器にしているファシリテーターもいれば、たとえば「グラフィカルに図解できる(グラフィックレコーディング・グラフィックファシリテーション)」「生活者リサーチに習熟している」「ビジネストレンドに詳しい」「漫談が得意」など、特定の技術や専門知を「武器」にしているファシリテーターも少なくありません。

筆者の場合は、大学の教員であるという職業特性と、「触発×論理タイプ」というコミュニケーションスタンスを生かした芸風を武器にしています。

(3)学習と創造の場づくりに関する信念

最後に、ワークショップの実践や場づくりの背後にどのような価値観や信念をもっているかも、ファシリテーターにとって多種多様であり、芸風に大きく影響します。

信念とは、言い換えれば、ワークショップや場づくりにおいて何を望ましいと思うか、学習や創造のプロセスはどうあるべきか、ということに関する価値観です。

たとえば、「アイデアは個人の頭の中にあり、ワークショップや会議はそれらをうまく引き出して情報を収集するための場である(個人主義)」という信念を持っているファシリテーターと、「アイデアはコミュニケーションによってしか創られない(社会構成主義)」という信念を持っているファシリテーターでは、プログラムの設計や、場の振る舞いに大きな差がでます。

参考:ファシリテーターはなぜ「対話」を重視するのか:社会構成主義入門

目の前で「特定の1人ばかりがアイデアを出していて、グループワークが盛り上がっていない」という状況に直面した際に、その出来事をどのように解釈し、どのように介入するかは、上記の信念の違いによって大きく変わるでしょう。

他にも「この場において何を”参加”と捉えるか」とか「ファシリテーターはどれぐらい介入すべきか」とか「プログラムはどの程度自由であるべきか」などの考え方にも、ファシリテーターの実践観や信念はよくあらわれます。

このような、場づくりにおいて「何が望ましいのか」を規定する信念は、幼少期から形成された価値観に加えて、場づくりの実践経験を積んでいくなかで磨かれ、獲得されていくもので、熟練したファシリテーターであれば必ず複数の信念を保有しています。自分自身のスタンスや武器をどのように使うか、の背後にある判断基準といってもよいでしょう。

以上、ファシリテーターの「芸風」を「コミュニケーションスタンス」「武器」「信念」の3つに分解しながら、「芸風とは何か」について整理してきました。

「芸風」の意味を調べると「芸の仕方」や「持ち味」というふうに出てきます。個人に本来的に内在している特性だけでなく、後天的に獲得した技術や方法論が入り混じったもの、として捉えられる言葉です。

“個性”というとなかなか変えられないし、変える必要がないものであるような印象を受けますが、「芸風」は試行錯誤によって学習可能である、というところが重要です。俳優や芸人がキャリアの熟達の過程において芸風を変えることがあるように、ファシリテーターもまた、己の芸風を大切な拠り所にしながらも、変容可能なものとして芸風をアップデートし続けることが重要なのではないかと思います。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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