組織の問題を悪化させる「課題設定」の5+2つの罠

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組織の問題を悪化させる「課題設定」の5+2つの罠

組織開発にせよ、事業開発にせよ、人材育成にせよ、組織の課題を解決するためのプロジェクトの出発点は、問題の本質を捉えて「何が本当に解くべき課題なのか」を特定することです。これを拙著『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』では「課題のデザイン」として、手順を解説しています。

課題のデザインが難しい理由は、いくつかあります。大前提として、組織のステークホルダーの一人ひとりがとらえる”問題”は、たとえ同じチームに所属していたとしても、それぞれの認識によって解釈が異なるため、合意形成が困難であるからです。上司にとっての問題設定は、部下にとっての解くべき問題とは限りませんし、階層が同じでも、これまでの経験や役割によって問題の解釈は異なります。課題をデザインする際には、組織に多様な立場と暗黙の前提が存在することを想像しなければなりません。

また、もし仮に「これが解くべき課題だよね」と組織内で合意が形成されていたとしても、その設定が適切とは限りません。往々にして、問題の渦中にある人が課題設定を行うと、狭い視野から設定されていたり、重要な視点が抜けていたりするケースが多く、課題設定の段階で失敗している場合が少なくないのです。

そうしたケースに目を向けてみると、うまくいかない課題の設定の仕方にはいくつかの共通項があります。今回の記事では、『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』で紹介している5つの失敗パターンに新たに2つを加え、よくある7つの失敗パターンを紹介します。

課題設定の罠(1)自分本位

課題を設定する際に、設定者にとっての利害にフォーカスしすぎているために、関係者全員にとって建設的な課題になっていなかったり、解決する社会的意義が欠如していたりするパターンです。

どうすれば売り上げがあがるか?どうすれば地域に人が呼び込めるか?といったような自分の利益を守るための課題設定は、外部の協力者が得難いほか、最終的にユーザーや観光客など課題解決の価値を享受するステークホルダーの視点が抜け落ちるリスクがあります。多様なステークホルダーにとって建設的であり、社会的意義のある課題に再定義する必要性があるでしょう。

課題設定の罠(2)自己目的化

本来の目的について十分に検討せぬまま、手段が自己目的化してしまうパターンもまた、少なくありません。最初は何か目的があって具体的なツールやソリューションの導入を検討していたはずなのに、気づかないうちにそれが自己目的化してしまう..というのはあるあるですね。たとえば

「イノベーションのために「デザイン思考」の研修パッケージを導入したがうまくいかない。どうすれば、デザイン思考が現場でワークするか?」

みたいなケースですね。”流行りの手法”を導入したい場合などには起こりがちです。

課題設定の罠(3)ネガティブ・他責

課題の設定が後ろ向きになっているパターンです。同じ問題状況であっても、それに対峙した際に状況をポジティブに解釈するのか、ネガティブに解釈するのか、人によって異なります。

たとえば「潰すべき組織の問題は何か?」「我々はこのままで良いのだろうか?」と問うのと「この状況を楽しく乗り越えるために、私たちはどのようなコラボレーションが必要か?」と問うのとでは、目の前の出来事に対する見え方は変わるはずです。関係者を巻き込みながら創造的に問題を解決していくためには、関係者の多くが「前向きに取り組みたい」「解決したい」と思える課題設定にしておくことが重要です。

また、ネガティブパターンのうちよくあるのは、他責的な考え方で課題を設定してしまうパターンです。人材育成などの現場で起こりがちです。つまり、問題の原因を、学び手の努力や能力不足として捉えてしまうパターンです。

課題設定の罠(4)優等生

課題の設定が前向きなのだけれど、ファシリテーションがうまくいかないケースもあります。それは、課題の設定が”お利口さん的”というか、誤解を恐れずに言えば”優等生的”になっているケースです。たとえば「持続的な社会を作るにはどうすればいいか」「ポイ捨てを減らすにはどうすればいいか」といったような課題設定です。大事な問いではありますが、社会通念的に「良し」とされていることが前提になりすぎていて、「わかっちゃいるけど..」となりやすく、それらしい意見は多数でるものの、議論や対話がブレイクスルーしないのです。こういう課題設定でワークショップをやると、どのグループも似たような結論に着地することが多いです。

課題設定の罠(5)壮大

設定された課題が壮大すぎるパターンです。組織の問題は複雑ですから、根本的に解決しようとすればするほど、本質的な課題設定になるため「100年後の人類を幸せにするプロダクトを作る」「全社員を巻き込んで理念を刷新し、さらに評価システムも作り替える」など、問題のサイズが大きくなりがちです。

課題設定が壮大すぎると、当事者にとって自分ごとになりにくく、具体的にどこから考え、何からアクションすればよいかわからないため、現実的な解決に向けて対話を進めていくことが難しくなります。もう少し当事者の目線で言い換えたり、現実的な時間スケールで捉え直してみたり、問題をいくつかに分割するなど、課題のサイズを現実的なサイズに落とし込む工夫が必要でしょう。

課題設定の罠(6)考え続けよう

ここからは書籍『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』では紹介していない失敗パターンです。

これは「課題設定の罠(5)壮大」の派生系になります。「環境問題」や「これからの働き方」など大きな問題をテーマとしている場合、そのテーマを構造化したり鋭く切り取ったりすることなく、そのままワークショップで引き取ってしまい、「この問題についてみんなで深く考えよう」という「思考」そのものが目標になっているパターンがあります。

こうした場合、どんなに対話をしても、落とし所が「SDGsについて考え続けることが大事」「withコロナ時代の在り方を考え続けることが大事」といった着地しかできず、かえって思考停止を招いてしまいます。考え続けることはとても重要ですが、課題解決を前進させるためには思考の「切り口」が必要です。

課題設定の罠(7)矮小化

同様に「コロナ時代を乗り切る」など、大きな問題に切り込もうと、問題をブレイクダウンしていくうちに「チームワークが重要」といった切り口に着地し、結果として「みんなでパスタを高く積むことを通して、チームワークを高めよう」といったワークショップに着地してしまうパターンがあります。

チームワークはたしかに重要ですし、パスタを積むのはアイスブレイクとしてはいいかもしれませんが、パスタを積んでコロナ時代を乗り切れたら苦労しません。問題が大きなままでも解決できませんが、些末な部分だけ切り出して小さくまとめても、本質的な解決にはつながりません

このような失敗パターンに陥らないように注意するだけでも、問題の本質を見誤らず、課題を定義する際の建設的な指針になるでしょう。

組織の問題の本質を見抜き、適切な課題を定義する思考法については、書籍『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』で体系的に解説しています。是非ご覧ください。

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連載

問いのデザインの技法

問いのデザインの技法

2020年6月、CULTIBASE編集長の安斎勇樹の新刊『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』が出版されました。特集「問いのデザインの技法」では、問いのデザインにまつわる技術や理論の解説を行います。

2020年6月、CULTIBASE編集長の安斎勇樹の新刊『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』が出版されました。特集「問いのデザインの技法」では、問いのデザインにまつわる技術や理論の解説を行います。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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