チームの目標が実現されない5つの要因とパターン別の戦略

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チームの目標が実現されない5つの要因とパターン別の戦略

チームの問題が解決されないときは、目標が精緻化されておらず、正しく課題設定ができていないケースが大半です。ただし目標だけがうまく整理できたとしても、その目標がなぜ実現されないのか、目標の阻害要因について分析しなければ、課題は正しく設定できません。

目標が実現されない要因はさまざま考えられますが、よくあるケースは以下の5つの要因です。

目標の実現を阻害する5つの要因
(1)そもそも対話の機会がない
(2)当事者の固定観念が強固である
(3)意見が分かれ合意が形成できない
(4)目標が自分ごとになっていない
(5)知識や創造性が不足している
書籍『問いのデザイン』第3章 p.93より

問題によっては、複数の要因が複合的に絡まっている場合もあるでしょう。どの要因に該当するかによって、課題設定やプロジェクト設計の戦略は変わります。本記事では、チームの目標が実現されない5つの要因とパターン別の戦略について、書籍『問いのデザイン』の第3章をベースに解説します。

要因①そもそも対話の機会がない

目標を達成するためには、チームメンバー同士の「対話」が必要不可欠ですが、そもそも対話をする機会がない、という場合があります。時間がない、機会がない、場所がない、コロナのせいで..など色々な言い訳が考えられますが、とにもかくにも「みんなで話しましょう」とリーダーシップを発揮して提案する人がおらず、劇的にコミュニケーションが不足しているパターンです。

このような場合には、誰かが手をあげてファシリテーターを買って出るか、外部のファシリテーターに依頼をするなどして、「話し合いの機会を設ける」だけで、目標に向かってコトが前進していきます。とにかく、まずはちゃんと対話しましょう、というパターンです。

要因②当事者の固定観念が強固である

チームメンバーのあいだで目指すべき目標に合意はされ、話し合いの機会も設けられており、試行錯誤もしているのだけど、もともと持っていたチームメンバーの暗黙の前提が強く、固定観念として邪魔をするケースです。古い業界、歴史ある企業、メンバーの専門性が高い場合には、このようなことはよくあります。

このような場合には、阻害要因である固定観念をアンラーンさせる機会をプロジェクトに組み込まないと、目標が実現されません。ひねりのある問いを設定したり、異分野のソースや人材に触れる機会を作ったり、何らかの「揺さぶり」が必要です。

要因③意見が分かれて合意が形成できない

目標に向かって話し合いの場を設けると、チームメンバー一人ひとりの考え方が異なり、多様な意見が飛び交うために、合意の形成が困難であるケースもよくあります。「良いアイデアがたくさんでて、まとめられない」という”嬉しい悲鳴”である場合もありますが、一人ひとりの価値観に相互理解がないまま、お互いに「わかりえない」という認識が強まってしまい、対話がうまく噛み合わない場合もあるでしょう。

このパターンでは、多様な立場のメンバーを考慮して、フラットに取り組むことができる課題設定に落とし込んでおくことが重要です。あるいは、そもそもの目標に対する価値基準(例:何をもって”良いアイデア”とするのかの判断基準など)にすれ違いがある場合もあるので、「私たちのチームにとっての”良いアイデア”とは?」といった問いで、キックオフの際に丁寧に対話をしておくことも有効です。

要因④目標が自分ごとになっていない

メンバー一人ひとり感覚に対して目標があまりにも壮大であったり、上司や経営者からトップダウン的に与えられたものであったりする場合、目標が「自分ごと」にならないことが、目標実現の阻害要因になる場合があります。

例えば、プロジェクト目標が「会社の20年後のビジョンの実現に向けて、働き方を改革する」といったものだった場合、頭では目標の重要性を理解できたとしても、人によっては目標が”腹落ち”せず、本音で話し合えず、自分の行動レベルで変化する動機が生まれないかもしれません。

当事者一人ひとりが「自分にとっての目標の意味」について考えられるように、プロジェクトの前半において「私」を主語に考えたり話し合ったりすることができる時間を設けて、個人の目線から捉え直せるようなプロセス設計に落とし込んでおくとよいでしょう。

要因⑤知識や創造性が不足している

目標に対して前向きに取り組むモチベーションや関係性はあるものの、創造的な目標が設定されているがために、実現するためには専門的な知識や特定の技術が必要であったり、当事者たちが創造性を発揮したりする必要があるケースです。

たとえば「最新のIoTの技術を活かして福祉業界の課題を解決するサービスを開発する」ことに取り組もうと思ったら、IoTや福祉業界の専門知をある程度はインプットしなければ、目標が達成できないはずです。

課題を定義したり、プロジェクトを設計する際に、効率的に知識を収集する活動を組み込んだり、異分野の外部人材をプロジェクトに招聘してしまうなどして、ナレッジを補填する必要があるでしょう。

また根本的にチームメンバーの創造性の発揮を促す場合には、メンバーが心から「考えたい」と思える内発的動機を刺激する課題を設定し、プロジェクト設計やファシリテーションを工夫することも重要になります。

以上、目標の実現を阻害する5つの要因のパターンでした。書籍『問いのデザイン』では、第2章と第3章にかけて、このあたりの課題デザインの方法を体系的に解説しています。よろしければ本文をご覧ください。


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問いのデザインの技法

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2020年6月、CULTIBASE編集長の安斎勇樹の新刊『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』が出版されました。特集「問いのデザインの技法」では、問いのデザインにまつわる技術や理論の解説を行います。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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