問いのデザインの技法の真髄の一つは、組織の問題の本質を捉えて「本当に解くべき課題」を定めることです。イノベーションプロジェクトにおいて、この課題設定の段階で失敗してしまうと、その後どんなにファシリテーションを工夫しても、成果にはつながりません。
プロジェクトの課題とは、目標と現場の差分、また目標の阻害要因などによって定義されます。このことは問題解決のあらゆる教科書が指摘してきたことですが、実践するのは簡単ではありません。
目の前の問題状況をどのような視点から捉えて、どのような方向性に向かって前進しようとするのか、その「まなざし」のようなものです。けれども多くの場合、組織における「認識」や「関係性」の固定化の病いによって、チームの「まなざし」そのものが凝り固まってしまい、適切な目標が立てられないのです。
このような時こそ、「問いのデザイン」の技術を生かして、既存の「まなざし」に揺さぶりをかけて、目標や課題を再設定することが重要です。このことを「リフレーミング」と呼びます。リフレーミングには、いくつかの成功パターンが存在します。
商品開発における2つのリフレーミングのパターン
たとえば、商品開発のプロジェクトにおけるまなざしのリフレーミングには、大きく「A.当事者の近視眼的な視座を遠くに拡げる」パターンと「B.強固な固定観念をずらして揺さぶる」パターンがあるように思います。チームの状況や問題によっては、その合わせ技も有効でしょう。
当事者の近視眼的な視座を遠くに拡げる
強固な固定観念をずらして揺さぶる
たとえば、筆者が実施したKDDI研究所に対するケータイサービスデザインのワークショップを例に紹介しましょう。これは筆者がまだ大学院生のころ、企業のワークショップ経験があまりなかった時代の、懐かしの事例です。
ケータイサービスデザインのワークショップ
このときは、KDDI研究所のエンジニアの方々が、自身が専門としている「技術」に縛られてしまい、生活者起点の発想ができなくなっている(A.近視眼)という状況と、「ケータイ=(情報や人間との)通信の手段である」という暗黙の前提(B.固定観念)の複合的な問題状況でした。
- A.近視眼:自身が専門としている「技術」に縛られてしまい、生活者起点の発想ができなくなっている
- B.固定観念:「ケータイ=(情報や人間との)通信の手段である」という暗黙の前提
解説をわかりやすくするために、やや乱暴に、初期段階の当事者のまなざしを以下のように規定しましょう。
技術や目先のアイデアに近視眼的になっていることを踏まえると、「A.当事者の近視眼的な視座を遠くに拡げる」パターンで、リフレーミングを試みることが必要です。場合によっては、「そもそも”ケータイ”とは?」と、端末やサービスの存在意義から問い直すような視点も有効です。
プロジェクトデザイン次第では、この「遠くに広げた問い」を題材に、チーム全員で対話を深めるワークショップを実施することも、有効かもしれません。しかしながら、2009年に実施した事例では、ワークショップを何度も繰り返すスケジュールの余裕がなかったため、もう少しインパクトのある仕掛けが必要でした。
そこで、「ケータイ=(情報や人間との)通信の手段である」という暗黙の前提に対して、「B.強固な固定観念をずらして揺さぶる」パターンでリフレーミングを試みました。
このときはストレートに固定観念を相反した制約を設定し、「つながらないケータイとは?(=通信を遮断することで価値が生まれるサービスとは?)」という問いで課題をデザインし、ワークショップの設計に落とし込みました。
以上のように、イノベーションプロジェクトにおいて凝り固まってしまった「既有のまなざし」について分析して、それをどのようにリフレーミングする必要があるかによって、目標や課題の設定の仕方は変わります。拙著『問いのデザイン』では、このようなリフレーミングのテクニックをこのほかに10パターンほど紹介しています。ご関心のある方は、ぜひご覧ください。
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