組織に向き合う上で、経営学や組織開発の理論、考え方を理解するのはとても大切なことです。けれども経営学や組織開発の方法論は課題や痛み(ペインフル)に着目するものが多く、楽しさや遊び心など人間の根源的な部分(プレイフル)が軽視されがちではないか? そんな問題意識から、CULTIBASE LabではCULTIBASE編集長の安斎勇樹と立教大学経営学部准教授の舘野泰一が「プレイフル経営ゼミ」(2020年11月より「遊びのデザインゼミ」に改名)を主宰しています。
同ゼミではこれまで「プレイフル」をテーマに、経営・組織づくりに役立つ内容を提供してきました。10月は、これまでのゼミの内容を振り返りながら、プレイフルな「人材採用」「人材育成」「組織開発」「組織設計」の各論についてディスカッションを行いました。本記事では、前半の「人材採用」「人材育成」の議論を一部ご紹介します。
目次
不要不急の探索型人材を採用する
同じ基準で採用し続けない
知の深化ではなく探索に投資する
研修設計において、学習目標と活動目標をひねる
今回のゼミは、前回のゼミの振り返りからスタートしました。『プレイフル・シンキング』の上田信行さんをゲストに迎え、そもそも「プレイフル」とはどういう状態なのかをさまざまな角度から議論。参加者の方からも「神回」と好評でした。
「プレイフル・シンキング」は”真剣勝負”?更新を続ける概念の現在地
変化し続ける「マリアブル」な組織から発明が生まれるープレイフル経営を基盤とした組織論
不要不急の探索型人材を採用する
話題は今回のメインテーマに移ります。まずは「プレイフルな人材採用」に関して。「こうすればプレイフルな人材採用がうまくいく」のではなく、思考実験であることが前提と前置きをした上で、安斎はプレイフルな人材採用とは、シンプルに「プレイフルな人材を採用すること」としました。そしてプレイフルな人材を採用するために「不要不急の探索型人材の採用」と「採用基準を年に2回、必ず変えること」を挙げます。
安斎:採用の一つの考え方に「必要な採用」があります。会社の方針に沿ってこんな人材が必要など、どうしても「必要な人材」ばかりを採用する傾向があるんです。しかし、あえて「不要不急の探索型人材」を採用してみてはどうでしょう。
アーティストを雇ったり、哲学者や社会学系の研究者、文化人を役員として採用してみたり。スキル・経歴的には合わなくても日常を異化するエキスパートを年に一度くらい採用すると面白いのではないでしょうか。組織を揺さぶる方法として、異分子を入れてしまうんです。
舘野:なるほど、いいですね。人材要件の定義に全く当てはまらないとか、一番遠い人を採るとどうなるのか。単純に不適合で辞めてしまう可能性もあるけど、入ってくる人に組織が全力で合わせて、組織がいい意味で振り回されることがあってもいいかもしれない。新しく入社した人の言うことを尊重する部署を作るのもありかもしれませんね。
同じ基準で採用し続けない
安斎:プレイフルな人材採用に関してもう一つ提案したいのは、「採用基準を必ず年に2回変える」こと。同じ基準で採用し続けると、求心力の高い組織を作れるし、人の性質も揃ってきます。でも、あえて年に2回は採用基準を変えるのもありなんじゃないかと。
過去のゼミのスライド。
「プレイフルとは何か?」を5つのキーワードで説明
安斎:今、チャット欄に「異能採用」と打ってくださった方がいますね。以前のゼミで「プレイフルとは何か?」を5つのキーワードで表した際、「心理安全」を挙げました。『心理的安全性のつくりかた』の石井遼介さんが掲げる心理的安全性の4要素の一つに「新奇歓迎」とあるんですよね。異能人材・個性的な人材を歓迎できるかどうかで、心理的安全性は決まる。
CULTIBASE | 「心理的安全」なチームの4つの条件: 学習する職場をつくるための「心理的安全性」入門
「効果的なチームにとって、圧倒的に重要なのが心理的安全性」 グーグル社の発表したリサーチ結果によって、「心理的安全性」という言葉が注目を集めるようになりました。グーグルだけではなく、20年以上の歴史のある「チームの心理的安全性」に関する研究では「業績向上に寄与」「意思決定の品質向上」「チームの学習が促進される」など、 ビジネスにおいて有効であるという 結果が次々と報告されています。 …
安斎:チャットで「そこにいるだけでいいからと労働契約を更新していたときはプレイフルに働いていた気がします」という意見もいただきました。ちなみに、弊社の話をすると、金銭的には2年前より今の方が余裕があるんですよ。でも初期の方が不要不急人材を積極的に採用していたんです。
「今その業務必要? でも面白いからやってみようぜ」って、ベンチャーの初期はやりやすいんですよね。お金があろうがなかろうが、「いてくれるだけでいいから一緒にやろう」という感覚です。
舘野:時間と金の余裕があったとしても、組織が成熟すると不要不急の人材が採りにくくなる?
安斎:そうですね。満場一致採用になりやすいですし。プレイフル採用は他にもいろいろとやり方がありそうですよね。最終面接で賛否が割れた人材をあえて採るとか。
舘野:みんなが良いと思う人を採るべきなのか。意見が割れた人材のほうが良いのか、全員が割れたとしても採用担当者が絶対欲しいから採用するなど、細かいところで見るとすごく重要な分かれ道ですよね。
知の深化ではなく探索に投資する
安斎:プレイフルな人材育成に関しては、まずシンプルに「知の深化ではなく探索に投資すること」を挙げました。
「両利きの経営」でいうところの「深化」と「探索」では、深化は低次学習を指します。つまり目の前のことを上手にやっていくための学習です。既存業務の改善をするような着実な学習だけではなく、枠から外に出ていく探索的な学習にどれだけ投資できているかが重要です。
「両利きの経営(ambidexterity)」を推進する3つのアプローチ
安斎:CULTIBASEでは、どう学んでいったらいいのかを説明する際に4象限に分けて解説しています。まず、学習には現場の困りごとを解決する「実用的関心」と、一見役に立たないけれど実践をより深くしてくれる抽象的・価値探究的な「概念的関心」があります。
そして、今必要だから学ぶ「深化」寄りの「計画的学習」と、思いもよらない知識と出会う「創発的学習」があります。研修設計やビジネス書などお金を払ってちゃんと学ぼうとした際、左下の象限に閉じやすいんですよね。
あえて右上の、役に立つかよくわからない理論的学習に投資することが、組織の長期的な視野を広げることに繋がるのではないでしょうか。プレイフルかどうかはわからないけど、僕の中ではプレイフル経営に位置付けられます。
舘野:採用にしても人材育成にしても、余裕がないと厳しいのではと素朴に思ってしまいますね。
安斎:個人の趣味もそうですよね。余裕がないと遊びから真っ先にカットされてしまう。
舘野:でも、トータルで考えるとデメリットがありますよね。実用的な時間を重視して遊びの時間をカットしてしまうと、余白の時間がなくなり、最終的には仕事にも悪影響を及ぼしかねないんです。
安斎:僕は自分の中でガイドラインを作っています。ウィークリーレベル、デイリーレベルではしかたないにしても、忙しい時期が2週間以上続いてマンスリーレベルになったら、緊急で何かを改善して余白を作るようにしています。
舘野:それは組織のルールにもしやすいですよね。余白アラートがあるというのは興味深い。そのアラートをどこに設定しておくかでしょうね。
研修設計において、学習目標と活動目標をひねる
安斎:続いて人材育成に話題を変えていきましょう。ワークショップデザインにおける本質の一つだと思うのですが、学んで欲しい学習目標をそのまま設定して学んでもらうのは、遊びを大事にするワークショップデザインとは言えません。
結果として学びたくなってしまう。あるいは学ばざるをえないような面白い活動になるよう、ひねった学習目標と活動目標を埋め込むことが、ワークショップデザインの肝なんですよね。
舘野:これに尽きますね。例えば、「リーダーシップ」をテーマとしたワークショップでは、自己認識を高めるために周りの人に自分自身についてヒアリングし、ワークシートに記入。その上で自分自身を振り返るといった方法論がよくあります。理論的には確かに正しいけど、うまく機能しないことが多い。リーダーシップを体現するまでには至らないわけです。ワークショップをデザインするなら、真の意味で、設定した目標を実現するまで導かなければならないはずなんです。
安斎:まさにそうですね。「これは大切なことだから」「やるべきものだから」と説得して、みんながイヤイヤ学ぶような学習に、果たして意味はあるのだろうか、と。哲学者のジョン・デューイが、「人間の学習は経験を通して生じる。そして経験の起点は衝動である」と100年前に言っています。衝動に蓋をする人材育成というのは、デューイからすれば真の意味で学習とは言えません。
CULTIBASE Labでは「プレイフル経営ゼミ(遊びのデザインゼミ)」のようなイベントに加え、毎週配信される動画コンテンツやメルマガ、また会員専用のオンライングループでの交流を通じて、ワークショップデザインや周辺領域に対する学びを日々深めています。興味のある方は、まずは下記リンクより詳細をご確認ください。
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執筆:佐藤まり子
編集:大矢幸世