企業経営を行なっていく上では、さまざまなパラドックス(矛盾)と向き合う必要があります。例えば、既存の主力商品によって短期的な目標を達成すると同時に、中長期的な目標を追求するためには研究開発にも注力する必要があります。特に、自社が外部や内部の環境の変化にさらされ、急激な変化に迅速に対応する必要がある組織変革の時には、こうしたパラドックスに直面することが避けられません。
本ウェビナーでは、今日の企業経営や組織変革時における「新時代のリーダーシップ」とはどのようなものか、矛盾を乗りこなすための鍵は何か、『パラドックス思考』(ダイヤモンド社)の著者である安斎勇樹と舘野泰一がお伝えします。
経営者の方はもちろんのこと、既存事業と新規事業の両立への葛藤を抱えている事業責任者、組織と事業を担う経営企画やHR部門の担当者、目標達成とヒューマンマネジメントにお悩みのマネージャー等、企業経営や組織変革におけるパラドックスに直面している皆さま必見の講義をお届けします。
組織変革のパラドックスを乗り越える「新時代のリーダーシップ」のチャプター
00:00:11 組織の「矛盾(パラドックス)」を捉える
00:17:18 リーダーが抱える矛盾(パラドックス)とは?
00:24:52 感情パラドックスの発生装置(1):組織のハコの問題(ヨコの理解)
00:42:46 感情パラドックスの発生装置(2):組織のトキの問題(時間軸の理解)
00:50:49 感情パラドックスの発生装置(3):自分のココロの問題(役割のタテの変化を理解する)
00:57:27 リーダーが発揮すべき「パラドックス思考」とは?
01:15:23 アフタートーク
組織変革のパラドックスを乗り越える「新時代のリーダーシップ」のポイント
■リーダーが抱える矛盾(パラドックス)とは?
- 組織のリーダーは多くの矛盾(パラドックス)を抱えている。例えば「(目指すべきは)短期的な成果か、長期的な成果か?」「既存事業の強化か、新規事業への投資か?」「自らが成果を上げるべきか、部下や後継者を育成すべきか?」など。こうしたリーダーのパラドックスは、組織変革に取り組む際には特に直面しがちである。
- また、こうしたリーダーの葛藤は部下からは見えにくいものである。特に複数のハコ(チーム・部署など)をマネジメントする立場になると、全体にとって最適な意思決定を総合的に下することが求められる。しかしながら、それぞれのハコだけに所属する部下からはその全体感が見えていないため、意思決定の困難さを分かち合うことができない。組織にはこうした“感情パラドックスの発生装置”ともいえる構造的な問題が随所に存在する。
矛盾に満ちた世界で“二者択一”の抜け道を探る「パラドックス思考」とは何か?
■感情パラドックスの発生装置(1):組織のハコの問題(ヨコの理解)
- 舘野は組織内でリーダーの感情パラドックスが生み出される要因として、「(1)組織のハコの問題(ヨコの理解)」「(2)組織のトキの問題(時間軸の理解)」「(3)自分のココロの問題(役割のタテの変化を理解する)」の3つがあるという。
- まずは(1)の「ハコの問題」について。いちメンバーとして単一のハコに所属するだけでは比較的パラドックスを感じることは少ない。しかし、リーダーになり、異なる目的を持つハコ同士のつながりやシナジーを生み出すことが求められるようになると、「(ハコ同士に)競争してほしいが、強調してほしい」など、矛盾した感情を持ちやすくなる。こうした状況下においては、メンバーにハコ同士の関係性を丁寧に説明し、お互いの立場や前提を理解し合えるようなコミュニケーションの機会を設けることが重要となる。
- 組織内ではこのような矛盾が大小さまざまに日々発生している。舘野は、こうした矛盾すべてに対応しようとすると、それがまた新たな矛盾を引き起こすこともあるとして、時には矛盾の存在を理解しながらも、無理に対処せずにあえて揺らがしておくような判断も必要になると述べる。あるいは何かしらの措置を講じる場合は、「組織図などを再設計する」「リーダーやメンバーのハコに対する認識の再学習」などの方法が効果的だと解説し、組織のハコによるパラドックスを乗りこなすための視点として、以下の5つを提唱する。
- また、株式会社MIMIGURIが提唱する「Creative Cultivation Model(CCM)」などを引き合いに出しながら、こうしたハコ同士の関係性を俯瞰的に理解することの重要性について語る。
▼CCMについて詳しく知りたい方はこちらのコンテンツをご覧ください
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■感情パラドックスの発生装置(2):組織のトキの問題(時間軸の理解)
- 経営リーダーを悩ませる二つ目の観点として「時間軸(トキ)」の問題が挙げられる。中長期での目標や戦略にコミットするリーダーは、長い時間軸の中で、「短期」と「長期」の両方の観点を踏まえて意思決定を行う必要が生じる。相反する観点を同時に考慮しなければならず、とたんに感情パラドックスに襲われるようになる、と舘野は語る。
- こうした状況下のリーダーが陥りがちなのが、短期的な成果を出すためにこれまでの「得意技」に頼り切りになってしまい、新しいやり方を試さなくなり、長期的な成長が見込めなくなること。そうした状況を脱するためには、長期と短期のどちらかではなく、どちらも重要であることを認め、「どちらかに偏りすぎていないかどうか」に目を向けることが肝要だという。時間にとらわれ、「A or B」の二者択一の状況に陥るのではなく、過去・現在・未来という一連のストーリーの中で、「A and B」を実現する方法を探ることが重要である。
■感情パラドックスの発生装置(3):自分のココロの問題(役割のタテの変化を理解する)
- また、経営リーダーを苦しませる要因は、組織だけではなく、自らのココロの内にもあると舘野は言う。例えば権限委譲においては、「部下に仕事を任せたい」という気持ちと、「自分なしではうまくいっては困る(躓いた時に巻き取って自分の有能さを示したい)」という気持ちの両方が混在することがある。
- 後者のような「救世主でありたい」という気持ちは心理学の用語で「メサイア・コンプレックス」と呼ばれ、組織変革の場面においても、「組織を変革したい」という気持ちと同時に「問題が未解決であるほうが都合がいい」という真逆の感情を生み出すことがある。リーダーはまず自身の感情を深く掘り下げながら、こういう感情を抱いていないかどうかなどをチェックし、丁寧に向き合うとよいだろう。組織変革を成功させるには、時にはこうした個人の内面の感情の問題にも目を向けたアプローチも重要であり、だからこそ難しいのだと舘野は語る。
■リーダーが発揮すべき「パラドックス思考」とは?
- こうした感情パラドックスの発生装置の存在を踏まえたうえで、リーダーにはどのような思考が求められるだろうか。舘野は書籍『パラドックス思考』の内容を踏まえながら、直面した矛盾を以下の3つのレベルをもとに徐々に手懐けることが大切だという。
- また舘野は「リーダーは見えない『ハコ』と『バトン』が見える人」だと語り、その役割は「目に見えないハコを見て、ハコ同士の関係性を作る」ことなのだと語る。
▼動画内で解説された事例はこちら
https://mimiguri.co.jp/ayatori/paj/
- また、「新時代のリーダーシップ」においてもう一つ重要なポイントは、「過去の『見えないバトン』を受け取りつつ、『未来』へ繋げること」だと舘野。長年かけて形成してきた自身のアイデンティティと向き合いながら、今後に向けてどのような変容が必要なのかを考え、新しい挑戦をしていくこと。その舵取りを行うことがリーダーには求められている。
▼動画内で解説された事例はこちら
https://www.don-guri.com/works/mish/
- 矛盾と向き合い、自身のアイデンティティの変容に取り組むプロセスは、常に揺らぎながら行われるものである。しかしながら、そうした揺らぎこそが、組織の創造性の源泉になると舘野は言う。矛盾を原動力としながら創造性を促進させ、組織を必要な未来へと導いていくことが新時代のリーダーにとって重要な資質になるだろうとして、舘野は講座を締めくくった。
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