組織の問題を効果的に解決し、イノベーションを促進するためには、組織が向き合う「問い」をデザインすることが必要です。書籍『問いのデザイン』では、問題の本質を問い直し、解くべき課題を設定するスキル、そしてファシリテーターとしてチームに問いかけ、創造的対話を促進することで、課題解決を牽引するスキルについて、体系的に解説しました。
正しい問いの設定を阻む敵は、組織自身が囚われている「固定観念」や、チームに蔓延している「関係性」の固着化です。したがって、問いのデザイナーは、自分が所属する組織に身を置きながらも、なかば第三者的に組織をメタ認知し、固定観念を問い直しながら、目指す方向性をリフレーミングする批判的な視点が必要です。これを『問いのデザイン』では「天邪鬼思考」と位置づけ、解説しました。
他方で、特定の誰かが「問いのデザイナー」「ファシリテーター」を担っている限り、組織学習としての「問いのデザイン」の習熟は進みません。持続的にイノベーションを生み出し続けるためには、組織における一人ひとりが「問いのデザイン」に熟達し、それが集団の共通基盤となり、「問い続ける組織」となっていくことが肝要です。
本記事では、組織全体で「問いのデザイン」を実践していくためにできる工夫として、すぐに実践しやすいプロジェクト設計レベルの工夫から、チームの指針レベルの工夫、制度設計レベルの工夫、経営戦略レベルの工夫まで、4つの視点から解説します。後半になればなるほど、実践のハードルは高くなりますが、組織へのインパクトは高くなります。いまあなたが置かれた立場にとって、実践しやすいものから試してみてください。
目次
(1)プロジェクト設計レベル:プロジェクトの開始時に、全員参加型で問いをデザインする
(2)チーム指針レベル:全員がファシリテーターであることを意識する
(3)制度設計レベル:ファシリテーションスキルを評価項目に組み込む
(4)経営戦略レベル:両利きの経営を推進し、ボトムアップ型のアンラーニングを奨励する
(1)プロジェクト設計レベル:プロジェクトの開始時に、全員参加型で問いをデザインする
最も実践しやすい工夫として、普段のプロジェクトのなかで、全員が問いをデザインする経験を共有することは効果的です。具体的には、プロジェクトの初期設計の段階で、全員で「解くべき課題」を対話によって検討します。書籍『問いのデザイン』の第2章〜第3章にあたるプロセスを、プロジェクトチームの全員で協力して行うのです。
おすすめのやり方は、役割分担をすることです。「素朴思考を意識する人」「天邪鬼思考を意識する人」「構造化思考を意識する人」など、問題を捉える思考法を分担して、全員で「問題の本質は何か」について対話をすると、意見が立体的に交錯し、盛り上がることでしょう。
あるいは「道具思考」を活用する前提で、チーム一人ひとりが異なる領域の知識や事例(=道具)をインプットしておくことで、あえて問題を多様な視点から捉えられるようなセッションをするのもよいでしょう。
ほかにも、「課題設定の罠」のチェックリストをチームで共有し、全員で定期的に検討する時間を設けるなどもよいかもしれません。
ファシリテーションスキルの高い誰かが代わりに「解くべき課題」を定義するのではなく、全員で「問いのデザイン」の考え方を共有し、全員でプロジェクトの問いをデザインする活動を設計することで、「問い続ける組織」へと一歩近くはずです。
(2)チーム指針レベル:全員がファシリテーターであることを意識する
前述したプロジェクトレベルの工夫に通じますが、並行して、チームの行動指針として「全員がファシリテーターである」ということを大切にすることは重要です。もしあなたがチームリーダーであれば、「なぜそうするのか」の理由とセットで、メンバーに指針を共有してください。もしあなたがリーダーでなければ、チームに行動指針の導入を提案してみるとよいでしょう。
昨今、経営学において「リーダーシップ」の概念が問い直され、上司やマネージャーだけじゃなく、全員がビジネスの基礎的な態度とスキルとして、リーダーシップを獲得すべきだという考えが主流になっています。筆者は「ファシリテーション」についても同様に、プロジェクトメンバー全員が持っているべき技能だと考えています。
ファシリテーションスキルとは、単なる司会進行のスキルではありません。チームの可能性を引き出し、解くべき課題を定めて、そこに向けた変化を推進していく態度と技能のことです。組織と事業の成功にコミットする全てのメンバーが、持っているべき素養です。
この指針を共有していないチームでは、会議やプロジェクトにおいて「ファシリテーションされる側」が、ファシリテーターに対して受動的になりがちです。ときに「円滑に進まないのはファシリテーターのせいだ」といわんばかりに「このアジェンダじゃ話しにくいよ」「で、次は何すればいいの?」と、他人任せの参加態度が誘発されるケースも少なくありません。
ファシリテーションとは全員が持つべき態度であり、メンバー一人ひとりがお互いに発揮しあうためのスキルである。この前提を、チームの指針として明確に共有することが重要です。
(3)制度設計レベル:ファシリテーションスキルを評価項目に組み込む
前述したチームの行動指針がルーティンに馴染んできたら、評価制度を見直し、再設計することをお勧めします。全員でファシリテーションスキルを磨こう!と号令をかけていても、そのことが実際の評価につながらないのであれば、組織全体のアクションとして根付かせていくことは困難です。
マネージャーとして人を管理すること、プレイヤーとして業務で成果を発揮することだけでなく、ファシリテーターとしてチームの可能性を拡げること、変化を生み出すことを、組織が明確に「習得すべきスキル」として提示し、公式に評価をすること。つまり「問いをデザインすればするほど、評価される」制度を構築することが、「問い続ける組織」を実現するための手取り早い施策です。
(4)経営戦略レベル:両利きの経営を推進し、ボトムアップ型のアンラーニングを奨励する
もしあなたが経営層であれば、経営戦略を明示的に「両利き」にすることが、「問い続ける組織」をデザインする最もインパクトのある施策です。
両利きの経営とは、既存事業を持続的に深めていく「知の深化(Exploitation)」と、実験と学習を繰り返して新規事業を開拓する「知の探索(Exploration)」の両輪を同時に回していくことで、継続的なイノベーションとサバイバルを実現していく考え方です。
CULTIBASE | 「両利きの経営(ambidexterity)」を推進する3つのアプローチ
イノベーションのジレンマを乗り越える方法として近年「両利きの経営(ambidexterity)」という組織学習の概念が注目を集めています。”両利き”という名の通り、既存事業を持続的に深めていく「知の深化(Exploitation)」だけでなく、実験と学習を繰り返して新規事業を開拓する「知の探索(Exploration)」の両輪を同時に回していくことで、継続的なイノベーションとサバイバルを実現…
両利きの経営のアプローチはいくつかありますが、上記の記事でも紹介した「両利きの文脈的アプローチ(Contextual Ambidexterity)」と呼ばれる、組織の全員に「知の深化」と「知の探索」の両立を推奨する経営戦略を推奨できると、「問い続ける組織」を推進する上では効果的です。
なぜならば、いくら問題を問い直し、課題をリフレームする思考プロセスを組織のルーティンに組み込んだところで、経営戦略が既存事業重視のトップダウン型であれば、上から落とされた「枠」の中で考える癖がついてしまい、既存のやり方をアンラーニングしにくい風土が助長されてしまうからです。
他方で、組織全体が「両利き」を推奨していれば、既存事業を改善して安定化させながらも、常に業務のなかで一定の割合で「実験」をすることが奨励されるようになるため、目の前の前提を「問い直す」ことに、ポジティブな意味を見出しやすくなるのです。
立場によっては、経営戦略レベルで変革をすることは難しいかもしれませんが、もと提案できる立場にあるならば、組織を両利きにすることが、問いを大切にする組織文化の形成に大きく寄与するはずです。
組織イノベーションに「問い」はもはや欠かせません。アクションしやすいレイヤーから、積極的に実践してみてください。
CULTIBASEでは「問いのデザイン」にまつわるコンテンツを随時更新しています。ぜひ以下の特集より合わせてご覧ください。