問いの因数分解:連載「問いのデザインの思考法」第7回

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問いの因数分解:連載「問いのデザインの思考法」第7回

人と組織の創造性を高めるファシリテーター、マネージャーにとって「問いのデザイン」のスキルは必要不可欠です。連載「問いのデザインの思考法」では、日々の業務において良い問いを立てるための手がかりや、問いのデザイン力を総合的に鍛えるためのトレーニングの方法について解説していきます。今回のテーマは「問いの因数分解」です。

問いを構成する「パーツ」に分解する

デザインした問いを吟味する眼を磨く上で、問いを「因数分解」するという考え方が役に立ちます。半分「お遊び」のようなエクササイズなのですが、自分がデザインした、あるいは誰かがデザインした「問い」を分解してその構造を探ることによって、問いが持っている効果や性質を分析するのです。

試しに、ワークショップのアイスブレイクなどでよく活用される「朝ご飯に何を食べましたか?」という問いを題材に、因数分解をしてみましょう。

サンプル(1)朝ご飯に何を食べましたか?

まず日本語の文章として丁寧にみると、「今日」という時間の指定「あなたは」という主語が省略されていることに気がつきます。これらを復元すると、「(今日、あなたは)朝ごはんに何を食べましたか?」ということなります。

サンプル(1’)(今日、あなたは)朝ごはんに何を食べましたか

問いは、認知的な「探索」を誘発する

この問いを問われた側は、何を考え、どのように答えるでしょうか。おそらくその日の朝、起きて最初に口にした食事をふりかえり、そのメニューを回答するはずです。起きた時間が遅ければ、これは”朝食”といえるだろうか、それとも”ブランチ”だろうか、と悩むこともあるかもしれません。なんらかの事情で朝ごはんが食べられなかったか、もともと朝ごはんを食べない主義であれば、「食べていません」と回答するかもしれません。

いずれにせよ、この問いは、問われた側に対して「個人の経験」について探索させる機能を持っていることがわかります。そして探索の範囲に「今日」という制限がかかっています。

問いのサンプル(1)の因数分解

以上を一般化すると、以下のような問いの基本的な構造が見えてきます。

  • 「問い」は、問われた側に何らかの認知的な探索を誘発する。
  • 多くの場合、「制約」によって探索の範囲が限定されている。

続いて、別の問いを例に考えてみます。同じく朝ごはんシリーズで「今月食べた最も美味しかった朝ご飯は何ですか?」という問いはどうでしょうか。

サンプル(2)今月食べた最も美味しかった朝ご飯は何ですか?

この問いは、探索の期間が「今月」に拡がり、「最も美味しかった」という評価基準が追加されています。メニューの内容だけではなく、食べたときの印象も含めて経験をふりかえる必要があるため、答えを出すまでには少々の時間を要するかもしれません。それでも、さきほどと同様に、「個人の経験を探索させる問い」をベースに、2つの「制約」がかかっている問いとして、構造をとらえることができます。

問いのサンプル(2)の因数分解

一つの問いに、見えない複数の問いが含まれる場合

少し問いの性質を変えて、サンプル(3)「今月食べた最も豊かな朝ご飯は何ですか?」という問いはどうでしょうか。

サンプル(3)今月食べた最も豊かな朝ご飯は何ですか?

一見すると、さきほどの例と同じ構造をしているようにみえますが、答える難易度はすこし上がった印象を受けます。その原因は、「最も豊かな」という抽象度の高い制約に、「“豊かな朝食”とは何か?」という別の問いが内包されているからではないでしょうか。

これは「個人の価値観を探索させるタイプの問い」で、単に具体的な過去の経験を探索するだけでは、解を特定することができません。問われた側は、「今月」という探索の範囲内で、朝ごはんに関する「経験」を探索し、同時に豊かな朝食に関する「価値観」に対しても探索をかけ、それらを往復しながら納得のいく解をみつけださなければなりません。

問いのサンプル(3)の因数分解

このように、見た目は「一つの問い」にみえていても、制約のかけ方によっては問いの中にいくつかの小問が包含されている場合があります。これは問いを意図せず複雑なものにしてしまう要因の一つでしょう。

グループの合意点を探索する問い

さて、これまではアイスブレイクで扱うような「個人」を対象とした問いをみてきましたが、ワークショップのグループワークのお題になりそうな問いも考えてみることにしましょう。

サンプル(4)豊かな朝食の3つの条件とは?

たとえば、上記に示した「豊かな朝食の3つの条件とは?」という問いはどうでしょうか。ベースはサンプル(3)と同様ですが、グループワークという文脈から、「(グループで考える)」という制約が省略されています。

問われたメンバーは、「誰と一緒に食べるかが大事じゃないか」「時間をかけて食べることも大切だ」「やはり味と値段も条件からは外せない」「自分は季節の食材を楽しみたい」「朝は胃を休ませるじゃないか」などと、各々の意見を出しあいがら、話し合いを進めることになるでしょう。全員がとことん納得するまで話し合いを続けるか、いくつかの候補に投票をすることで多数決で決めるか、答えの決め方はいくつか考えられますが、いずれにせよ「集団の合意点」を探りあてない限り、話し合いは収束しません。

問いのサンプル(4)の因数分解

サンプル(4)は「個人の過去の経験」「個人の価値観」「集団の合意点」を一度に探索させているため、シンプルなようで、グループワークの課題としてはやや負荷が高いかもしれません。

負担を下げるならば、問いを分割して、まずサンプル(3)「今月食べた最も豊かな朝ご飯は何ですか?」を個人に尋ね、その後でグループにサンプル(4)に取り組んでもらうなど、問いのデザインの工夫で段階を踏むことで複雑さが解消される場合があります。このように、問いの構成を整理する上でも、因数分解は役立ちます。

問いの背後に隠れた、暗黙の制約

次に、サンプル(5)「美容のためには、朝ごはんに何を食べるべきか?」という問いを考えてみましょう。想定する対象は、個人でもグループでも構いません。このサンプルは、問いのデザインの難しさについて、いくつかの示唆を与えてくれます。

サンプル(5)美容のためには、朝ごはんに何を食べるべきか?

まず、あなた自身がこの問いを問われた場合に、どのような思考のプロセスをたどることになるか、想像してみてください。

もしあなたが過去に美容について情報を集め、食生活の中で工夫をこらした経験があれば、その「知識」や「経験」を探索することで、この問いに対する解が得られるかもしれません。

ところが、もしあなたが美容に関してまったく予備知識や経験を持ちあわせていなければ、おそらく、なんらかの方法で情報を収集するほかないでしょう。ウェブサイトや書籍に書かれている「外部の情報」を探索することになります。

このように、同じ問いであっても、問われた側が保持している知識や経験の程度によって、「探索先」はまったく異なるものになります。

問いのサンプル(5)の因数分解

そしてさらに、もしあなたが「疑り深い性格」であれば、こう考えるかもしれません。

「そもそも、朝食のメニューは、どれほど美容に影響するのだろうか?」
「昼食と夕食について検討する必要はないのだろうか?」
「食事以外に、すべきことはないのだろうか?」

どれも、もっともな指摘です。ここから考えられることは、しばしば問いには、明文化されていない「暗黙の前提」が存在する場合があるということです。そしてやっかいなことに、問いを立てたファシリテーター自身も、この前提を自覚していない場合が多いのです。

ここで押さえておかなければいけない問いの基本性質は、問いの背後にある暗黙の前提は、場合によっては「制約」として働く場合があるということ。そして、問われた側は必ずしもその前提に従うとは限らない、ということです。ファシリテーターが投げかけた問いの前提を、参加者が問い直し、そこから新たな問いが生成されるという展開は、創造的な対話の場面ではしばしば目にする光景です。

因数分解から見えてくる問いの基本性質

さて、ここまでの因数分解で明らかになった、問いの基本的な性質について、以下にまとめておきます。

1. 「問い」は、いくつかの「前提」「制約」「小問」によって構成される
2. 「小問」は、問われた側に対して、なんらかの探索を誘発する。
3. 「制約」は、「探索」の範囲に制限をかける。
4. 「前提」は、問いに明文化されていない場合が多い
5. 参加者は、必ずしも「制約」と「前提」に従うとは限らない。

これ以外にも、問いはまだまだ様々な特徴を持っています。身の回りの問いを因数分解してみることで、問いが持っている豊かな性質を探究してみてください。問いの因数分解については、拙著『問いのデザイン』の第4章でも解説しています。

「問い」は、未知数を照らす「ライト」のようなものであり、どの未知数にライトを当てるかによって、促される「反応」は変わります。​​以下の動画コンテンツ「問いかけの作法:チームのポテンシャルを活かす技術」では、チームのポテンシャルを引き出す「良い問いかけ」の基本的な原則や、実際のコミュニケーション場面で「問いかけ」を機能させるための方法について解説しています。ぜひ併せてご覧ください。

問いかけの作法:チームのポテンシャルを活かす技術

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問いのデザインの思考法

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人と組織の創造性を高めるファシリテーター、マネージャーにとって「問いのデザイン」のスキルは必要不可欠です。特集「問いのデザインの思考法」では、日々の業務において良い問いを立てるための手がかりや、問いのデザイン力を総合的に鍛えるためのトレーニングの方法について解説していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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