動詞に言い換える:連載「問いのデザインの思考法」第3回

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動詞に言い換える:連載「問いのデザインの思考法」第3回

人と組織の創造性を高めるファシリテーター、マネージャーにとって「問いのデザイン」のスキルは必要不可欠です。連載「問いのデザインの思考法」では、日々の業務において良い問いを立てるための手がかりや、問いのデザイン力を総合的に鍛えるためのトレーニングの方法について解説していきます。

今回のテーマは「動詞に言い換える」です。

これは拙著『問いのデザイン』でも、目標のリフレーミング方法のひとつとして提案した考え方です。名詞型を用いて固定的に捉えれられていた目標を、動詞型に言い換えて再設定することによって、視点を変えることができます。

書籍『問いのデザイン』第3章より引用

この考え方は、問いをデザインする上で、普段からトレーニングしておきたい、汎用的に役立つ思考法です。書籍『リサーチ・ドリブン・イノベーション』においても、探究型の問いを立てる軸足をつくる際に、問いの範疇を「モノ」に閉じずに、関連する「行為」まで広げておく考え方を提案しています。

モノに潜在している可能性を想像する

名詞を動詞に言い換えることで、問いの焦点が変わるであろうことはなんとなく理解できますが、「動詞型を活用した問い」のほうが、”良い問い”だといえるのでしょうか?必ずしも、そうではないように思います。

それではなぜ、動詞に言い換える思考法が、問いのデザインに役立つのでしょうか。その理由は、問いを立てるファシリテーター自身と、対話に参加するメンバーの視点を、対象の「人工物(モノ)」そのものに閉じさせないためです。

そもそも問いを立てることは、課題もしくは関心の対象となっているテーマについて、「どの切り口から掘り下げるか」についての戦略を考えることに他なりません。たとえば「未来のオフィスの椅子はどんなものか?」と問うのと「オフィスの椅子の歴史を変えた名作とは?」と問うのとでは、同じ「椅子」でも、切り口のベクトルが大きく異なります。

しかしいずれも「椅子」という名詞を使っている限り、思索の幅は「椅子」という人工物に閉じてしまいかねません。現状の課題解決が目的にせよ、価値探究型のイノベーションが目的にせよ、対象の本質を洞察し、対話を通して新たな「変化」を生み出していくことが「問い」をデザインする目的です。問いを固定的な名詞に閉じてしまうことは、対話のポテンシャルを抑制してしまうリスクがあるのです。

イノベーションは、人工物そのもののアップデートから生まれるものではありません。”椅子の歴史”とは、単なる椅子という人工物の「形状のアップデートの履歴」ではありません。使い手にとっての行為の意味、すなわち「椅子を取り巻く文脈の変化」の歴史です。現在の椅子の課題や、未来の椅子の価値について思いを巡らせることは、椅子に潜在している行為の意味について考えることなのです。

名詞型に固定化された対象を、動詞型で捉え直す思考法は、対象に潜在している可能性を想像するトレーニングになります。そのプロセスで得られる気づきが重要なのであって、結果として、最終的な問いの表現に「椅子」を採用することは、必ずしも悪いことではないのです。

映像を思い浮かべ、物理的な動作で捉える

実際に「椅子」を題材に、「動詞に言い換える」思考法を練習してみましょう。まっさきに思い浮かぶのは「座る」という行為ですね。

日本語には不思議なもので、同じ意味合いの言葉に無数の類義語が存在します。「服を着る」と「衣を纏う」とでは思い浮かべるイメージが異なるように、表現を変えると、想起される意味も変化します。したがって、思いつく限りの動詞表現に変換しておくことが重要です。

「座る」の類義語であれば、たとえば「腰をかける」「腰を下ろす」「席に着く」などでしょうか。あなたがオフィスに求める椅子は、腰をかけたくなる椅子でしょうか?それとも腰を下ろしたくなる椅子でしょうか?そんな想像力が刺激されます。

名詞に潜在している動詞を精緻に捉えるコツは、「椅子」が登場する具体的な場面を「映像」で思い浮かべながら、そこで見えてくる人間の行為を記述してみることです。そうすると、「もたれる」「肘をかける」「足を組む」「引く」「立つ」など、具体的な行為が実はいくつも関連していることが見えてくるはずです。

名詞にまつわる社会的な行為に拡げる

他方で、映像を思い浮かべて動作を拾う方法のデメリットは、動詞がミクロな具体的動作に限られてしまうことです。

動作としては目には見えにくい「社会的な行為」を表現した動詞にも目を向けると、解釈が広がります。すなわち「椅子」という人工物を通じて人々は何を経験しているのか、を考えるのです。

すると、たとえば「集中する」「根を詰める」「立ち寄る」「安らぐ」「だらける」「居座る」といった行為も、「椅子」に潜在している意味として浮かび上がります。

このように動詞を拡げていく過程で、仮に「根を詰める」と「だらける」という相反する行為が目に留まったとしましょう。直感的に気になった動詞には、新たな意味の兆しが隠されているかもしれません。そのような嗅覚を大切にしながら、気になった動詞は、具体的な「問い」に変換してみるとよいでしょう。たとえば「オフィスにおける適切な”モードの切り替え”とは?」といった塩梅です。

このように、対象を動詞に言い換えることで、対象に潜在している可能性の想像を広げ、問いの切り口を探っていく。これが「動詞に言い換える」思考法です。是非活用してみてください。

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問いのデザインの思考法

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人と組織の創造性を高めるファシリテーター、マネージャーにとって「問いのデザイン」のスキルは必要不可欠です。特集「問いのデザインの思考法」では、日々の業務において良い問いを立てるための手がかりや、問いのデザイン力を総合的に鍛えるためのトレーニングの方法について解説していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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