困難を学習資源に変える、チームレジリエンスの基本プロセス:連載「チームレジリエンスの科学」第5回

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困難を学習資源に変える、チームレジリエンスの基本プロセス:連載「チームレジリエンスの科学」第5回

エースメンバーの突然の離脱、取引先の無茶な要求、パンデミックによる業績不安……チームは様々な困難に直面します。こうした困難の中で今までと変わらぬパフォーマンスを発揮する、あるいは、今まで以上の高業績をあげるためには、チームで困難状況を乗り越える力である「チームレジリエンス」が欠かせません。

この記事では、チームレジリエンスが発揮されていくときには具体的にどんなプロセスが踏まれるのか、6ステップに分けて説明します。

チームレジリエンスのプロセス

チームレジリエンスのステップは、下記の6つからなり*1、自分をケアする「セルフレジリエンス」から、チームで課題解決をする「チームレジリエンス」のプロセスへと進みます。すぐにチームの課題解決に向かうのでなく、まずはセルフレジリエンスで自分のHPを回復させるプロセスを挟むことがポイントです。

「セルフレジリエンス」フェーズ

セルフレジリエンスのフェーズは、①セルフケア と ②問題の解釈 からなります。

①セルフケア

チームがストレスフルな局面にある時、まず第一に行う必要があるのが、自分のストレスを緩和させ、チームの問題を解決するための余裕や冷静さを担保することです。自分に余裕がなければ、チームメンバー間の問題に向き合う余力も生まれず、見ないふりをせざるを得ません。また、密なコミュニュケーションをとり働くチーム内では、お互いのストレスが伝染すると言われていることからも、個々がストレスにうまく対処できていると、冷静に話し合える土壌が生まれやすいと推測されます。

Leykin et al. (2012)によると、ストレスケアのアプローチは、Belief(信念)、Affect(感情)、Social(社会的)、Imagination(想像)、Cognition(認知)、Physiology(身体的)の6つに分類されます(下記画像参照)。例えば、感情をあらわにすることでストレスを発散できる人は友人に愚痴ることが、身体を使った活動によりストレスを軽減できる人はジムに行くことが、ストレスを減らす上で有効かもしれません。自分にあったアプローチで、まずは自分のストレスを発散させることが、チームレジリエンスの第一歩です。

②問題の解釈

二番目のステップは、そもそもチームで解決が必要なことか、自分一人で解決に向けて行動できることかを検討する「②問題の解釈」です。一度、心の余裕を取り戻したら、今起きている課題を整理&分解し、この課題は自分一人で解決できることなのか、チームみんなで解決するために取り組む必要があることなのか検討します。チームみんなで取り組む必要があることの例としては、エースメンバーが抜けて、業績の回復のために個々が頑張る必要があるケースなどが挙げられます。自分一人で解決できることの例としては、メンバーに情報が行き届いていないがゆえに問題が発生しているケースにおいて、連絡回数を増やす、週に一度確認のMTGを設けるなどが挙げられます。

現状の課題の全体像が見えない時は、情報を取りに行くことも欠かせません。例えば、先の例のようにチームメンバーが対立している時に、なぜ二人が対立しているのかわからない場合は、それぞれに話を聞いたり、周りの人に話を聞いたりしながら、対立の構造やその理由を掴みにいく必要があります。

「チームレジリエンス」フェーズ

②問題の解釈 で、マネジャー1人で解決できないと判断されたら、チームで課題を解決すべく、チームレジリエンスのフェーズに進みます。チームレジリエンスのフェーズは、③景色の共有 ④課題の定義 ⑤対処の実行 ⑥教訓の獲得 からなります。

③景色の共有

第2回の記事でもお話ししましたが、チームが困難に直面している時、「解決すべき課題」の認識はチームメンバーによって異なります。

例えばチームで「エース社員が突然抜け、売り上げ目標が達成できなくなった」という挫折を経験したとしましょう。その際に、マネジャーは「エース以外の社員のスキルが低いこと」を解決すべき課題だと考えているかもしれません。一方で、チームメンバーのAさんは、「ナレッジがシェアされていないこと」を、Bさんは、「そもそも売り上げ目標を達成せよ!というプレッシャーが強すぎてソワソワして働きにくい状況」を問題視しています。

このように、チームで困難から回復する際は、解決するべき課題の認識が個々で異なり、そこに、回復への難しさが生じます。なので、まずは対話によって個々の背景にある前提や価値観について話し合い、どういう価値観から今の状況をどのように捉えているのか共有する必要があります。

※対話についてはたくさんの研究や議論の蓄積がありますが、下記の記事などで詳しくまとめられています。

対話と議論の「交差点」はどこにある?関係者が納得する合意形成に至るためのプロセスを探る

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④課題の定義

個々の背景にある価値観や、課題意識が共有されたら、次は課題の定義のステップに進みます。課題の定義とは、現状の問題を読み解き、関係者の間で「解決すべきだ」と合意された課題へと落とし込むことです。

例えば、先のエース社員が突然抜けて売り上げ目標が達成できなくなったケースついて考えてみましょう。個々が問題視していることは、「メンバーのスキルが低い」「ナレッジがシェアされていない」「プレッシャーが強すぎる」と多様であるため、個々のメンバーがそれぞれに売り上げ目標の達成に向けて動き出したとしても、バラバラに行動がなされてしまいます。そのため、チームで問題状況を解決する上では、解決すべき課題をすり合わせること、すなわち、同じ方向に向けて動き出すための基盤作りとしての課題の定義が欠かせません。

また、ここで大事になってくるのは、課題に対して、チームメンバーの「納得感」があることです。納得感のない課題に向けて、挑むのはなかなか難しいことです。そのため、③景色の共有で仕入れた、個々の価値観や課題意識の中で、特に譲れないポイントを大切にしながら、チームで解くべき課題を見つめ直していく必要があります。

※課題の定義の仕方については、プロジェクトにおける課題デザインの記事でも詳しくまとめられています。

どうすれば“目標設定”の解像度を高められる?プロジェクトにおける課題デザイン3つの方法

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⑤対処の実行

解くべき課題が決まったら、チームで問題状況の解決を進めます。対処の実行プロセスは、解くべき課題について、計画を立て、人員を配置して、実行していく「プロジェクト」です。そのため、ゴールに進んでいる感覚を得られるようなタスクを設計、目的・目標達成にこだわる姿勢などが重要になります*2。

また、課題によって対処方法は異なりますが、解決に向けて個々の個性や専門性を生かす、ユニークな解決方法を導入する勇気を持つ、などの作戦を取ることは、問題状況の解決にとって有効だと言われています(Williams,et al. 2017, Hartwig, et al. 2020)。

⑥教訓の獲得

最後に、チームがレジリエントでいる上では、同じような困難が生じた時にダメージを最小限にできるよう、「振り返り」を行い、教訓を得ることが欠かせません。詳しくは、連載の第4回の記事で紹介しましたが、チームが教訓を得るためには、①良かった点も振り返る ②目標の見直し ③チーム内の役割変更の3つを意識する必要があります。

“できているつもり”になりがちな「振り返り」に潜む落とし穴:連載「チームレジリエンスの科学」第4回

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チームの困難の多くは解決が難しいものです。けれども、難しいからといって、チームメンバーが解決に向けて動かなければ、ずっと本質的な問題が解消されず、ストレスフルな状況が続いてしまいます。また、難しいからこそ、誰か一人に任せてしまっては、その人が折れてしまいかねません。チームがそんな困難から立ち直るためには、上記の6つのステップを踏みながら“チームで”前に進んでいくことが不可欠です。所属しているチームが、なにかしらの困難に直面した際は、まずはセルフケアをして個々のストレスを発散し、心身の調子を回復させながら、上記のステップで困難からの回復に挑んでいきましょう。

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なぜ今「チームレジリエンス」が必須科目なのか?:個の力に頼らず、不確実性に対処するための方法論

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*1:チームレジリエンスのプロセスモデルは、Alliger et al. (2015) やStoverink et al. (2020)な度をもとに池田と安斎が作成

*2:“PMの暗黙知”を解き明かす:プロジェクトを推進させるファシリテーション

“PMの暗黙知”を解き明かす:プロジェクトを推進させるファシリテーション

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参考文献

Alliger, G.M., Cerasoli, C.P., Tannenbaum, S.I., & Vessey, W.B. (2015). Team resilience: How teams flourish under pressure. Organizational Dynamics, 44, 176-184.
Hartwig, A., Clarke, S., Johnson, S., & Willis, S. (2020). Workplace team resilience: A systematic review and conceptual development. Organizational Psychology Review, 10(3-4), 169-200.
Leykin, D., Krkeljic, L., Rogel, R., Lev, Y., Niv, S., Spanglet, J., … & Shacham, Y. (2012). The” BASIC Ph” model of coping and resiliency: Theory, research and cross-cultural application. Jessica Kingsley Publishers.
Stoverink, A. C., Kirkman, B. L., Mistry, S., & Rosen, B. (2020). Bouncing back together: Toward rhetorical model of work team resilience. The Academy of Management Review, 45(2), 395–422.
Williams, T. A., Gruber, D. A., Sutcliffe, K. M., Shepherd, D. A., & Zhao, E. Y. (2017). Organizational response to adversity: Fusing crisis management and resilience research streams. Academy of Management Annals, 11(2), 733-769.

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連載

チームレジリエンスの科学

人生100年時代。働く期間が長期化するなかで、「決められたゴールに向け邁進する、短距離走形の働き方」から、「変化を楽しみ、ストレスとうまく付き合いながら創造的であり続ける長距離走型の働き方」へのシフトが求められています。こうした長距離走型の働き方をする上で外せない要素の1つに、レジリエンスがあります。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、挫折から立ち直り、前進し続けることができることや、それに必要な力を意味します。本連載では、レジリエンス入門をパワーアップさせ、職場において、チームのレジリエンスを高める方法を紹介していきます。

人生100年時代。働く期間が長期化するなかで、「決められたゴールに向け邁進する、短距離走形の働き方」から、「変化を楽しみ、ストレスとうまく付き合いながら創造的であり続ける長距離走型の働き方」へのシフトが求められています。こうした長距離走型の働き方をする上で外せない要素の1つに、レジリエンスがあります。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、挫折から立ち直り、前進し続けることができることや、それに必要な力を意味します。本連載では、レジリエンス入門をパワーアップさせ、職場において、チームのレジリエンスを高める方法を紹介していきます。

著者

筑波大学ビジネスサイエンス系助教/株式会社MIMIGURI リサーチャー
東京大学大学院 学際情報学府博士課程修了後、同大学情報学環 特任研究員を経て、現職。MIMIGURIではリサーチャーとして、組織行動に関わる研究に従事している。研究キーワードは、レジリエンス、ジョブ・クラフティング、チャレンジストレッサーなど。著書に『チームレジリエンス』がある。

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