準備なき対話は失敗に終わる。チームレジリエンスのための、対話の土台づくり:連載「チームレジリエンスの科学」第6回

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準備なき対話は失敗に終わる。チームレジリエンスのための、対話の土台づくり:連載「チームレジリエンスの科学」第6回

エースメンバーの突然の離脱、取引先の無茶な要求、パンデミックによる業績不安……チームは様々な困難に直面します。こうした困難の中で今までと変わらぬパフォーマンスを発揮する、あるいは、今まで以上の高業績をあげるためには、チームで困難な状況を乗り越える力である「チームレジリエンス」が欠かせません。

連載「チームレジリエンスの科学」の第5回では、チームレジリエンスのプロセスは、個人のストレスに対処する「セルフレジリエンス」のフェーズと、チームで根本的な課題に対処する「チームレジリエンス」のフェーズに分かれて発揮されることを紹介しました。

下記の図にあるように、チームレジリエンスのフェーズに入るためには、まずセルフレジリエンスのフェーズが欠かせません。チームで対話するための土台づくりのために、苛立ちや焦りから脱却するために行う気晴らしなどの「セルフケア」と、状況や自分の感情の理解度をあげるといった「問題の解釈」が必要なのです。

この記事では、なぜ対話の土台作りが大事なのか、そのために必要な3つのポイントについて解説します。

対話を阻む、4つの「わからなさ」

VUCAと呼ばれる昨今、人々は大きく分けて4つの「わからなさ」に悩まされています。VUCAは変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の略語であり、予測が不能で複雑化した社会のことを説明するのによく用いられています。

①この先どうなるのかわからない

このわからなさはVUCAのVとU、すなわち、変動性や不確実性に由来します。具体的には、外部環境が目まぐるしく変化し、先行きの見通しが立たない中では、職場に「このプロジェクトは続くのかな?」「成功するのかな?」といった、この先どうなるのかわからない不安が生まれます。

②何が起きているのかわからない

このわからなさはVUCAのCとA、すなわち、複雑性と曖昧性に由来します。具体的には、仕事で関わる人が多かったり、入り組んだ事象を扱ったりする中で、「今目の前で起きている事象の要因が複層的で一体何が起こっているかわからない?」「どうしてこうなったか説明できない?」といった、何が起きているのかわからない状況に直面する機会も増えています。

③どうすればうまくいくのかわからない

また、①この先どうなるのかわからない、②何が起きているのかわからない状況では、今起きているよくわからないモヤモヤをどうしたら解決できるかもわかりません

④自分が何がしたいのかわからない

こうした「わからなさ」の中で、日々目の前のわからなさに奮闘していると、人々は知らず知らずのうちに自分の感情を置き去りにしてしまいます。今の状況にイライラしているけれど、どういう状況になれば自分が満足し、いきいき働けるのかわからない、すなわち、自分が何がしたいのかわからない状況に陥っている人も少なくありません。

この4つのわからなさを抱えたままでは、チームの対話はうまく機能しません。個々が、この先どうなるのか、何が起きているかわからない状況、自分が何がしたいのかわからない状況では、自分の意見が言えず、誰か任せの対話になってしまいます。考えを誰かに任せるのは悪いことではありませんが、チームが困難に直面しているような状況においては、様々な角度からの意見が解決につながり得るため、個々が積極的に発言した方が状況は改善に繋がります。

また、「どうすればうまくいいのか」のアイデアが全くないまま、対話を始めては、対話は行き詰まります。「この先大丈夫かな? 不安だ」「頑張ってもうまくいかないのでは?」といった不安が蔓延し、チームのモチベーションが下がってしまうこともあります。さらに、「自分が何がしたいのかわからない」ままでは、自分が許容できないような状況を知らず知らずのうちに創出してしまう危険もあります。

対話の土台を作るための3ポイント

上記に述べた、4つのわからなさを解消し、よい対話をするための土台を作るにはどうすればいいのでしょうか? そのためのポイントは、①チーム内のリソースから情報を取得して状況を多角的に理解する ②他のチームの事例や書籍から学ぶ ③ストレス感情に向き合い、その原因から理想を探る の3つに分類されます。

①チーム内の情報を取得して状況を多角的に理解する

今、自分はチームで働く中でストレスを感じているけれど、何が原因となってこのストレス状況が生じているのかがはっきりしない時や、どうしてあるメンバーがある行動をとるのか理解できない時などには、まずは今の状況がどうして生じるのか、しっかり理解する必要があります。

状況の俯瞰的な理解には、情報の取得が欠かせません。情報を取りに行くための方法は、問題に関係する人物に話を聞く/記録から状況を探るの2つがあります。前者の例としては、例えばチームの中で「対立」という困難が生じている時に、当事者にどのような理由から対立に至ったのか聞くことなどが挙げられます。後者の例としては、例えば新人が数人やめてしまうといった困難が生じた時に、勤怠をチェックし、いつ頃から新人が欠席などをし始めたのか確認する、Slackなどのコミュニケーションツールの履歴を確認し、コミュニケーションの頻度などから新人が辞めるに至った原因を探るなどが挙げられます。

どちらか1つに頼らないことも重要です。問題に関係する人物に話を聞くばかりで、記録から状況を探ることを疎かにすると、個人的な意見に左右されて、歪んだものの見方をしてしまう可能性があります。逆に客観的な事実を集めることを重視して、話を聞くことを疎かにすると、当事者にとって何が問題だったのかを見落としてしまう可能性があります。なので、できるだけ複数の方法を用いて、情報を獲得することが望ましいといえます。

②他のチームの事例や書籍から学ぶ

自分のチームのトラブルは、過去に他のチームが経験したトラブルであることも少なくありません。自分たちのチームが今抱える課題を解決する方法は、書籍にまとめられていたり、ネットで記事化されていたりすることも多くあります。こうした書籍や記事に書かれている内容は、自分たちのチームの今後を予測することや、自分たちの抱える課題を解決するためのヒントを得ることに役立ちます。

③ストレス感情に向き合い、その原因から理想を探る

自分が何がしたいのかわからない時には、「怒り」や「不安」といったストレス感情の理由を考えることが有効です。怒りや不安は理想とのギャップにより生じることもあるため、これらの感情の原因を紐解くことは、自分の望む状態を理解することにつながります。

感情の原因を紐解く方法には、①怒っている時や不安な時に一度時間をとり、その感情は何からきているのか問い直す、②よく本音を語る家族や友達とのLINEの検索ワードに「つらい」「イライラした」などを入れ、自分が不安や怒りを感じた状況を振り返る、などが挙げられます。自分の感情を見つめ直すことで、例えば自分は「目の前の仕事をする意味が明確で出ない時に怒りを感じる」など、自分の怒りや不安の傾向が明確になり、その裏返しである理想の状況への理解も深まるはずです。

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今回の記事では、チームレジリエンスの6ステップの2つ目「問題の解釈」について深掘りしました。チームレジリエンスのフェーズに進む前は、対話の準備ができているのか見直し、できていない場合は、上記の3ポイントを実施してみてもいいかもしれません。

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連載

チームレジリエンスの科学

人生100年時代。働く期間が長期化するなかで、「決められたゴールに向け邁進する、短距離走形の働き方」から、「変化を楽しみ、ストレスとうまく付き合いながら創造的であり続ける長距離走型の働き方」へのシフトが求められています。こうした長距離走型の働き方をする上で外せない要素の1つに、レジリエンスがあります。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、挫折から立ち直り、前進し続けることができることや、それに必要な力を意味します。本連載では、レジリエンス入門をパワーアップさせ、職場において、チームのレジリエンスを高める方法を紹介していきます。

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著者

筑波大学ビジネスサイエンス系助教/株式会社MIMIGURI リサーチャー
東京大学大学院 学際情報学府博士課程修了後、同大学情報学環 特任研究員を経て、現職。MIMIGURIではリサーチャーとして、組織行動に関わる研究に従事している。研究キーワードは、レジリエンス、ジョブ・クラフティング、チャレンジストレッサーなど。著書に『チームレジリエンス』がある。

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