現代組織にとって新規事業開発は、変化の激しい社会環境や顧客ニーズ、技術動向に対応するために欠かせないものであり、常に抱え続ける“命題”のひとつです。特に大企業での新規事業開発においては、それまで成果を挙げてきた既存の方法や慣習がそのプロセスに大きな影響を与えます。こうした組織内の「慣性」は、貴重な経験知である一方で、新規事業開発のような新奇性の高い取り組みを推進する上では、足かせとなることが少なくありません。
今回の組織づくりCASE FILEでは、「大企業における新規事業部門のつくり方」をテーマに探究します。ゲストはNECソリューションイノベータ株式会社。一万人超の従業員を擁する同社の新規事業開発部門立ち上げを牽引した2名のリーダーをゲストにお招きし、大企業ならではの難しさや工夫などを中心に、組織変革の事例に迫ります。
新規事業開発に携わる方はもちろん、大企業で生じがちな「組織の慣性」を一部抜け出し、新しい風を吹き込みたいと考えている方、経営と現場間のコミュニケーションに課題を感じているミドルマネージャーなどにおすすめの動画です。ぜひご覧ください。
■新番組「組織づくりCASE FILE」とは?
「組織づくりCASE FILE」では、組織変革プロジェクトのキーパーソンを毎回ゲストにお迎えし、プロジェクトパートナーを務めたMIMIGURIのメンバーとともに、そのプロセスやターニングポイントを語り合います。過去の配信はこちら
「経営の慣性を打ち破れ!大企業が挑む新規事業部門立ち上げの軌跡」のチャプター
01:18 大企業だからこそ直面する新規事業開発の困難さとは?
15:02 「人」と「共通言語」を中心とした新規事業開発のチームづくり
31:45 不確実性にチームとして向き合うための組織づくりの実践知
「経営の慣性を打ち破れ!大企業が挑む新規事業部門立ち上げの軌跡」のポイント
■大企業だからこそ直面する新規事業開発の困難さとは?
- 実際に行われた組織変革のプロジェクトを取り上げ、その実践知に迫る「組織づくりCASE FILE」。今回は一万人超の従業員を擁するNECソリューションイノベータから、同社の新規事業開発専門の部署(名称はイノベーション推進本部)の立ち上げと発展に尽力した二人のリーダー・福井知宏さんと塩谷幸治さんをゲストにお迎えし、プロダクトが生まれ、PMFするまでの組織づくりの知見に迫っていく。
- このプロジェクトにコンサルタント/ファシリテーターとして伴走したのは遠又圭佑(株式会社MIMIGURI)。MIMIGURIで学術研究を専門とする部門も兼務する遠又は、研究者とともに今回のプロジェクトを紐解いた時に、大企業における新規事業開発における鍵として。フェーズごとに経営や既存事業といったステークホルダーとの関係性を変化させることの重要性が見えてきたという。
- 初期の事業の種を見出す「新規事業探索フェーズ」では、経営とのアラインを強め、独自のアイデンティティを形成することがより重要となる。他方で、その後「事業拡大フェーズ」に入ると、徐々に既存事業のアラインがより大きな影響力を持ち、既存事業との関係性も踏まえた包括的なアイデンティティの形成が求められるようになるという。すなわち新規事業部門をリードしていくためには、こうした経営や既存事業との関係性の濃淡を柔軟に調整していくことが求められる。今回は、こうした実践を試行錯誤のなかで行ってきた福井さんと塩谷さんから知見を伺い、深堀りしていく。
■「人」と「共通言語」を中心とした新規事業開発のチームづくり
- まずはイノベーション開発本部の組織開発を担う福井さんにお話を伺う。まずは部門が立ち上がった最初期にまず直面した大企業の新規事業開発ならではの課題として、必ずしも熱意のあるメンバーばかりではないという点が挙げられるという。良くも悪くも一人ひとりの衝動がなくてもうまく回っていくシステムの構築を得意としている中で、それによるメリットもあるものの、新規事業づくりにおいては、衝動があることが失敗から学ぶ意欲につながっていく側面が大きいという。そのため福井さんは、意思決定層を含め、変革に意欲的な人選から始めたことが最初のポイントだったという。
- 2つ目のターニングポイントとして挙げられたのが、その事業をつくる「人」のあり方に目を向けたこと。どのような人が”事業デザイナー”として望ましいのか。また、それを目指していく上での共通言語をどうつくっていくか。そうした点に気を配りながら、忍耐強く対話を重ねたという。そのプロセスは辛さもあったものの、とはいえ事業開発は楽しいものだという前提は根底に常にあったという。
- 新事業部門を支える「人」にフォーカスする中で、特に注力したのが「評価制度」を変えることだったと福井さん。その理由として、「既存事業と同じ評価軸でいいわけがないと誰もが思いつつ、それまで誰も手を付けていなかったこと」「評価制度はマネジメント層で再設計しやすく、かつインパクトが大きいポイントだったこと」「実際に既存事業と同じ尺度で評価されることにメンバーが辛さを感じていたこと」の3点を挙げる。そしてその新たに策定した評価制度を中心に、経営と現場のコミュニケーションを取り持ったという。こうした福井さんの振る舞いを遠又は抽象と具体の往復によるファシリテーションとして、重要なわざのひとつだったと語る。
- 大企業が新規事業部門をつくるにあたって、既存事業の文化や風習を必要に応じて脱ぎながら、新たな風土を定着させるまで、どんな企業でも3年程度かかるだろうと福井さんはいう。福井さんのこうした言葉は、そのため焦らず忍耐強くコミュニケーションを取り続けていくこと、そしてその事業づくりのプロセスをいかに楽しむかが肝要だということを示唆している。
■不確実性にチームとして向き合うための組織づくりの実践知
- 二人目のゲストはいわゆる”経営層”としてイノベーション推進本部を統括する塩谷さん。経営側からの関わり方における実践知を探究していく。
- 前提として、新規事業開発のような情報が曖昧で不確実性の高い状況においては、何らかの理論に基づいて仮説を立て、実行し、結果をもとに調整ののち、また実行するという試行錯誤が重要となる。「やってみないとわからない」と「とはいえ目標を立てることは大切」のジレンマがある中で、だからこそ、「今やっていることが何を確かめようとしていうものなのか」をしっかりとチーム内で共有し、合意形成していくことが大切になるという。
- 塩谷さん自身も不確実性の中にいる中で、経営としてのどのような振る舞いやメッセージの伝え方を心がけていたか。塩谷さんは、暗闇のような不確実性の中だからこそ、試行錯誤をする一人ひとりの見ている景色を集め、多様性を活かして情報として取り込んでいくことが重要だという。自分含め、誰かひとりの力ですべてが見渡せるわけではない。NECソリューションイノベータの一万人以上の従業員の目線の多様さをリソースとして活用することを意識したという。
- では、メンバーから寄せられたアイデアの質をどう判断するのか。塩谷さんはそのアイデアが求められるかどうかは社会の状況によって大きく変わるものだという認識を持ちながら組織の特性や強みを活かしながら事業の領域を絞っていくことが重要だと述べる。NECソリューションイノベータの場合、メイン事業がSI事業であることもあり、顧客の変化を捉え、アップデートしていく姿勢を大切だと塩谷さんは言う。
- 今グロースしている最中の新規事業について、今後のように探索を続けていくのか。塩谷さんは、成長に6・7年かかることを想定したうえで、まずは焦らないこと、そして、事業の継続可否を決定づけるのは経営ではなく顧客であることの2点をポイントに上げながら、そうした姿勢で不確実性と向き合っていくことが大切だと語る。
※2024年2月のインタビュー当時の情報です。現在は異なる可能性があります。