ビジネスパーソンの創造性を高める両利きの学習法

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ビジネスパーソンの創造性を高める両利きの学習法

組織イノベーションを支えるビジネスパーソンとして、日々「学習」を積み重ねることは必要不可欠です。個人で創造的なアイデアを発想するためにも、チームの創造的なコラボレーションをファシリテートするためにも、よりよい実践をするためには、それを支える「知」を研ぎ続けなければなりません。

ビジネスパーソンにとっての学習は、社会や職場環境の変化、異動、上司からのフィードバックなど、望むと望まざるに関わらず、強制的に引き起こされるものもあります。他方で、自らの意思で、主体的に積み重ねる学習は、学習者自身の「関心」がその源泉となります。

学習の源泉となる2つの関心

「関心」とは、英語で「interest」または「concern」と訳します。前者は「興味」や「好奇心」が惹かれるものを指しており、後者は「心配事」や「懸念」を指す言葉です。

学習の源泉となる関心には、大きく「実用的関心」「概念的関心」の2つに分けられます。

実用的関心とは、自分の困りごとを解決したり、欲求を叶えたりしてくれる「役に立つ」タイプの関心です。

■実用的関心の例
例:1on1で部下のモチベーションを上げたいけど、問いかけがうまくいかない
例:社員のエンゲージメントが下がってるんだけど、どうすればいいだろう…

概念的関心とは、自分自身の特定の個別具体的な場面の悩みではなく、普遍的な人や社会の本質に関わる関心です。

■概念的関心の例
例:最近よく聞く”意味のイノベーション”が気になる
例:組織における社会構成主義の考え方がとても面白い

実用的関心と概念的関心は極端にどちらかに分類できるものではなく、グラデーション状につながっています。エンゲージメントを向上させるノウハウを学んでいたら、組織行動論の抽象的な理論に行き着くこともあるでしょうし、概念的関心のつもりで「意味のイノベーション」の本を読みあさっていたら、来週の会議で使えるフレームワークが手に入ることもあるでしょう。この両極のあいだに、私たちの関心は無数にマッピングされているのです。

学習における計画性と創発性

ビジネスパーソンの学習方法を、学習における計画性と創発性の観点で整理することも有用です。

計画的な学びとは、文字通り、業務上の課題、あるいは設定されたキャリア目標などに基づいた、意図的な学習です。自分の欲しい知識が書いてありそうなビジネス書を手にとって、仕事に必要な知識をインプットすることや、セミナーや研修を受講して、仕事のやり方を改善することなどが該当します。

創発的な学びとは、計画されていない、予期せぬ知との出会いを指しています。気まぐれでたまたま手にとった書籍、友人や同僚との雑談、奨められて参加したイベントなどで出会った知識が、思いのほか役に立ったり、自分の価値観を変えることに役立ったりした経験が、誰にでもあるはずです。

以上を踏まえると、主体的な学習を以下の4象限に分類することが可能です。このうち、多くのビジネスパーソンの学習は、「仕事に役立つ知識を、計画的に学ぶ」左下の象限に集約されるのではないかと考えています。

理論と実践を結ぶ、両利きの学習法

「仕事に役立つ知識を、計画的に学ぶ」ことは悪いことではありませんが、組織イノベーションを支えるビジネスパーソンの学習範囲としては、やや物足りないように思います。

第一に、『CULTIBASE』では、理論と実践知のバランスを取り、それぞれを結びつける学習を推奨しています。F.コルトハーヘンは、実践者がより深いレベルの気づきを得るためには、学術的な知識(大文字の理論:Theory)日常経験から形成した持論(小文字の理論:theory)の結合が必要だと指摘しています。これは言い換えれば、仕事における「実用的関心」の領域にとどまらずに、「概念的関心」を持ちながら、実践知と理論を往復することに他なりません。

第二に、学習を計画の範疇に閉じずに、予期せぬ可能性への広がりを許容することも大切です。経営理論「両利きの経営」では、イノベーションを起こし続ける組織には、既存事業を持続的に深めていく「知の深化(Exploitation)」だけでなく、実験と学習を繰り返して新規事業を開拓する「知の探索(Exploration)」の両輪が必要であることが主張されています。

これは、個人の学習においても参考になる考え方です。日々の学習が、必要性に駆られた計画的な「知の深化」に閉じてしまっては、ビジネスパーソンとしてのスキルやキャリアの可能性は「現在の視野」のなかに制限されてしまいます。80%くらいのリソースを「知の深化」のための学習に割くとしても、残りの20%くらいのリソースは戦略的に「知の探索」のための学習に割り振ることで、日々の学習はよりイノベーティブなものとなっていくでしょう。

このように日々の学習のリソース配分のポートフォリオを戦略的に配分することで、「理論の獲得」「実践知の獲得」「知の深化」「知の探索」を循環させる。これが、ビジネスパーソンの創造性を高める両利きの学習方法のコンセプトです。

『CULTIBASE』では、読者の皆様にとってこの学びの循環がバランスよく促進されるよう、コンテンツを制作しています。今まで興味を持っていなかった記事にこそ、創発的な知の出会いが待っているかも。ビジネス書では味わえない、創造的な学びを楽しんでいただければ幸いです。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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