マネージャーがまず乗り越えるべき壁として「情報と意思決定」の問題が挙げられます。
本記事では、“ハブアンドスポーク”を例にして、「情報」がいかに組織の健全性を握るのかを考察していきます。
目次
“ハブアンドスポーク”とは
情報処理の遅延によってもたらされるリスク
階層が上がったときに求められるマネジメントのコツ
“ハブアンドスポーク”を脱し、フラットな組織をつくる
“ハブアンドスポーク”とは
ハブアンドスポークとは、物流輸送や飛行ネットワークの基本となる考えです。ハブ(hub)は車輪の中心部、スポーク(spoke)は車輪の中心軸を繋ぐ棒を指しています。
海外旅行をする際、中継飛行場を通じてから、目的地に向かったという経験がある方も多いと思います。世界中で常に1万以上の飛行機が飛び交う中で、その管理を行うのは大変です。そのため、航空業界では、中継地点に資源を集中し「ハブ」とすることで、より多くの飛行機が飛び交うことができるよう「ハブアンドスポーク」という方法論が生まれました。
これは組織においても援用できる考え方です。組織で多くの人が一緒に働くにあたって、数々の「情報」が飛び交います。そこで、中継地点として「マネージャー」を設置する必要があります。マネージャーが中継地点となって「情報」を一度取りまとめてからメンバーに展開し、さらにメンバーからの情報もまとめて他の中継地点であるマネージャーへと送り返します。
この考え方を基にすると、中継地点となる優秀なマネージャーを増やすほど、組織は大きくすることが可能だと言えます。
組織は中継地点同士のマネージャーがお互いに「情報リレー」し合い物事を進める事が可能になります。この行き交う情報の「速度」と「質」が良いほど、メンバーは「情報透明性が高い」と感じられます。そしてこの状態を維持することで「組織全体」が健全にワークするのです。
情報処理の遅延によってもたらされるリスク
しかし、中継地点のマネージャーが「情報を貯めて処理しない」と、メンバーはいつまでたっても他チームの状態、ひいては組織全体の状態がわからなくなり、不安や不信を募らせることとなります。
こうなってはメンバー自身が何か決めることも、進めることもできなくなってしまいますし、意欲を持って取り組みたい人達の情熱に蓋をする事にもなります。
こうならないために、まず他中継地点からくる情報を打ち返す必要があります。マネージャー経験が薄いうちは、「メンバーの分のタスク」も自分だけでこなして他中継地点に打ち返し、メンバーと連携しないということをやりがちです。マネージャーは常に忙しい日々を過ごすことになりますが、メンバーにとっては不満や不信感が高まります。
マネージャーからしたら「こんなに頑張ってるのに…」と思うかもしれませんが、この状態ではマネージャーがワークしているとは言えません。
そして、メンバーの数がさらに増えてきた場合、メンバーの分まで自分ひとりで片付けることはもはや不可能です。マネージャーがタスク処理しきれずパニックになるうちにも、次々と他中継地点マネージャーから情報が届き続けます。
こうなると自チームだけでなく、周囲チームにも悪影響が起き、組織の動きが遅くなります。
ここでマネージャーに対し、上司が「早くメンバーにボールを渡しなさいね」とフィードバックしてしまうと、多くのマネージャーはメンバーに無茶振りをします。
キャパシティが10の相手に、20の負荷がかかる仕事を渡したり、Whyを説明しないまま指示だけしたりと、エラーを繰り返します。
また、無茶振りをするマネージャーはメタ認知スキルが低くなってしまっており、「相手のためにやっている」「チームのためにはやむえない」と思い込みがちです。
こうなると今度はチーム内で物事がうまく進まず、結果的に遅延が起こります。さらには、メンバーに大きな不満が起こり、別の問題に発展するかもしれません。
重要なのは相手能力値や理解値、そして趣向に合わせて丁寧に情報を渡すことです。また頻繁にチーム内の点検を行い、悩み考え込む人がいたら「分からないところ」「理解できないところ」を一緒にWhyから言語化し、行動に進められるようフォローすることが大切です。
さながらマネージャーの立ち位置は、飛行機の行きかいを見届ける「管制官」とも言えます。
興味がある方はぜひSL理論についても参照してみてください。人の発達4段階に合わせ、マネジメントフォローは変えるべきといったことが書いてあります。こちらを見ていただくと、チームメンバーの顔を思い浮かべつつ、どの程度フォローすべきかを理解することも出来るかもしれません。
階層が上がったときに求められるマネジメントのコツ
さらに困難を極めるのは、いわゆる課長レベルのマネジメント(人の業務管理)から、部長レベルのマネジメント(人を介した組織全体管理)に切り替える時です。
マネージャーを介してマネジメントすることは、自分が直接メンバーをマネジメントするよりもはるかに困難です。どんなに優秀なマネージャーでも、初めて組織全体管理をするとき目線の違いに気づけず、組織全体を機能不全にしがちです。
多くの場合、課長レベルのマネジメント感覚でメンバーを直接フォローしてしまいがちですが、そうするとタスク処理しきれなくなり組織の健全性を低下させることになります。
部長レベルのマネジメントで大切なのは、組織全体の情報リレーが健全か「交通整理」をすることです。マネージャー同士が直接やりとりして物事を決められる状態をつくり、改善しつづけます。
また同時に、うまく管理ができてないチームがあればフォローをします。これにより組織全体が風通しのよい状態になり、メンバーが物事を進めやすい状態をつくれます。
また、もう一つのコツは、チームの優先順位を決めることです。全ての物事を無理に進めようとすれば、あっという間に組織全体の処理能力を超えて、皆がパンクします。
大切なのは「今やらないこと」を決めることであり、「最も価値あること」に集中して取り組める状態をつくり続けることです。
アジャイル開発に取り組まれるプロダクトマネージャー(以下、PdM)の方はこの辺りの感覚が強いかもしれません。PdMに限らず、常にチームは「コストはかからず価値が高い」ことにリソース投資を行うべきです。
マネージャーが優先順位を決めない限り、目の前の「顕在課題」に対応し続けることになり、チームが疲弊しがちです。忙しい割に前進しないと感じる時は、マネージャーが“モグラ叩き症候群”にかかっています。
マネージャーが優先順位を決めながら、風通しの良い状態を保つと、意思決定が効率化します。マネージャーやメンバーが意思決定に慣れるので、悩んだり調整する時間が必要なくなるわけです。
ここまでくると効率化により「リソース」が空くので、新しい取り組みをする余地が生まれます。次々と新たなチャレンジを成功させるチームは、このプロセスを繰り返し、チームを育成しているのです。
“ハブアンドスポーク”を脱し、フラットな組織をつくる
また航空経路の新たな方法で「ポイントトゥポイント」と呼ばれる方法もあります。これは、技術の発達によって生み出された、中継地点を挟まずに直接目的に向かう方法です。
組織も同様に、マネージャー同士が情報効率化を進めていくと「メンバー同士」が直接やりとりをして物事を進められるようになります。そしてマネージャーはその「環境」のマネジメントをする形に役割を変えることができるのです。
マネージャーが目指すべき到達点は、効率化を進めることで「ハブアンドスポーク」を脱し、メンバー同士が自律的に動きやすい状態をつくることです。そのためには一つ一つ「情報」を軸にしながら、時間をかけてチーム作りをすることが重要です。ここまで来るといわゆる「フラット」な状態をメンバーが感じられる「良いチーム」と言えるのではないでしょうか。
また今回の解説は、サイモンやガルブレイスと言った組織デザインの巨人の知見をソースとしています。彼らについては下記記事でも解説してるので、ご興味のある方はぜひこちらの記事も併せてご覧ください。