プロジェクト推進とチームの成長を繋ぐ「リフレクションの4階層」とは:連載「リフレクションの技法」第5回

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プロジェクト推進とチームの成長を繋ぐ「リフレクションの4階層」とは:連載「リフレクションの技法」第5回

企業内、教育現場、その他多くの分野で、自分たちの活動をふり返ることで学びを得ようとする所謂「リフレクション」という活動が実践されています。しかし、せっかく時間をかけて活動をふり返っても次に活かされないなど、うまくいかない「リフレクション」を経験したことがある方も少なくないのではないでしょうか。

本連載ではリフレクションの本質とは何なのか、背景にある理論を整理し、意味のあるリフレクションを実践するためのポイントを紹介していきます。特に、チームにおけるリフレクションの活用を軸に、チームの中の個人、そしてチームが属する組織へもたらす影響について触れていきます。

第5回目となる今回から、プロジェクトチームで行うリフレクションを「チームリフレクション」と定義し、状況によるリフレクションの使い分け方についての体系をご紹介します。

リフレクションは、個人の学び、チームの学び、組織の学びの3つの学びの側面があることについて、本連載の1回目で触れました。プロジェクトチームを組んで仕事を進めていく過程で、いかに個人、チーム、組織の学びを深めていけるかが問われてきます。ここで、学習に深さがあるように、リフレクションにも深さの階層が存在します。本記事では、リフレクションの深さを階層別に捉えた全体像について解説していきます。

チームリフレクションが必要となる背景:プロジェクトを推進していく過程で直面するさまざまな障害

プロジェクトを推進していくチームのマネージャーは、下記にあげるようなあらゆる課題に直面しながらも、それらの課題に一つひとつ対処しながらプロジェクトを前へ進めていくことが求められます。

プロジェクトチームが直面する課題

・要件の整理が難航したり、必要な情報は揃っているはずなのに進行が滞ってしまっているタスクがあるなどして、プロジェクトの進みが悪くなる。

・進めていくうちに、当初立てた方針で進めることに対して違和感を抱くメンバーが出始めたり、メンバー間で目指す方向性にズレが生じ始め、チームメンバー同士の関係性も悪くなってしまう。

・過去に似たような課題が起きたときに対応した担当者が今はおらず、情報が引き継がれていないため、今いるメンバーで1から対応方法を考えて進めなければならず、効率が悪い。

・チームとして今以上の成果が期待されているが、やれることはやっているつもりなので、どうすればさらに高い成果を出せるか分からない。チーム全体としても、それぞれのチームメンバー個人としても、成長が伸び悩んだ状態が続いてしまう。

これらの課題は、さまざまな不確実で状況依存なものごとが関わるため、単純にこうすればうまくいくという確実な正解はなかなかありません。プロジェクトチームのマネージャーは、短期的にはチームの状態把握から、課題発見、課題への対応をその都度していく必要があり、さらに長期的にはメンバー個人やチームとしての成長まで考えなければならず、求められることが多岐に渡る非常に難易度の高い役割といえます。

チームリフレクションとは

先にあげたように、プロジェクトを推進していく過程で発生し得る課題は多く、複雑です。達成したい目的に関係する要素がさまざまで要件整理に難航するといった、プロジェクトの内容自体に関する“コト”志向の課題もあれば、メンバー間の関係性が悪くなってプロジェクトの進行が滞ってしまうといった対人関係に関する“ヒト”志向の課題もあります。短期/長期、コト志向/ヒト志向など見なければならない観点は多くありますが、いずれも学びを深めていくことで、課題を早めに見つけて対応していくことができるようになっていきます。

このように、チームの状態をよりよく保ち、プロジェクトを前進させ、個人・チーム・組織の成長も促進させていく学習の方法論を、ここでは「チームリフレクション」として、その体系を整理していきます。

リフレクションにもさまざまな方法があり、チームで行うリフレクションといっても、状況に合わせてその方法を使い分けていく必要があります。チームリフレクションは、学習として見据える期間の長さとリフレクションの深さによって、4つの階層に分けて捉えることができます。

チームリフレクション4階層の分類体系

リフレクションⅠ:情報の対称性を保つチームリフレクション

比較的短い期間を見据えて行う1階層目のチームリフレクションは、情報の対称性を保ち、プロジェクトを前へ進めるためのチームリフレクションです(リフレクションⅠ)。プロジェクトの方針に沿って、プロジェクトを進めるために必要な情報を週次定例などで定期的にチーム内で共有できている状態をつくったり、プロジェクトを進めるために支障となる課題が解消された状態をつくるために、チームで活動をふり返ります。

リフレクションⅡ:前提を見直すチームリフレクション

リフレクションⅠよりもう一階層深い2階層目のチームリフレクションは、プロジェクトの前提を見直すチームリフレクションです(リフレクションⅡ)。これは、チーム内の誰かが今のチーム状態に違和感を感じ始めたときに、メンバー間で互いに今の状況をどのように思っているのかなど現状認識を分かち合い、チームが進む方向性やチームとして大事にしたい価値観を改めて見直すために、チームで活動をふり返ります。半年以上など、比較的中長期で取り組むプロジェクトの場合は、特に途中でこの前提を見直すリフレクションが求められる場面が出てくるでしょう。

リフレクションⅢ:チームの暗黙知を表出化するチームリフレクション

3階層目のチームリフレクションは、チーム内の暗黙知を表出化するチームリフレクションです(リフレクションⅢ)。主にプロジェクト終了後に、自分たちが実践してきたことをふり返りながらその意味を捉え、チーム内に埋もれていた暗黙知を見つけていきます。「この場面では、こうするといい」といった個人やチームの行為としての知を言語化することで、自分たちがどのようにやったのか、やったことにどんな意味があったのかを自分たち自身で認識することができるようになります。チームが持つ知をチーム内外で活用、応用できる状態をつくっていくために、チームで活動をふり返ります。

リフレクションⅣ:アイデンティティが変容するチームリフレクション

学習として見据える期間が最も長く、リフレクションの深さが最も深い4階層目のチームリフレクションは、個人やチームが大事にしてきた価値観を言語化し、自分たちのアイデンティティを自覚し、今後のさらなる成長へ向けてアイデンティティを変容させていくチームリフレクションです(リフレクションⅣ)。プロジェクト単体の話に留まらず、過去の複数のプロジェクトを思い返しながら経験の意味づけを行い、ときには自分たちが実践してきた得意技を変えていくなど、暗黙的に持っていた「とらわれ」を問い直していくようなリフレクションです。

ここであげた4階層のチームリフレクションは、ふり返る期間の長さの違いであると同時に、どこまで目に見えない無自覚なことがらまで扱うかというリフレクションの深さの違いでもあります。4つのリフレクション、それぞれの特徴や活用のコツは次回以降で紹介していきます。

チームの状態をよく観察し、学習として今どの段階のリフレクションが必要かを見極めながら、個人、チーム、組織の学びを促進していきましょう。

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連載

リフレクションの技法

本連載ではリフレクションの本質とは何なのか、背景にある理論を整理し、意味のあるリフレクションを実践するためのポイントを紹介していきます。特に、チームにおけるリフレクションの活用を軸に、チームの中の個人、そしてチームが属する組織へもたらす影響について触れていきます。

本連載ではリフレクションの本質とは何なのか、背景にある理論を整理し、意味のあるリフレクションを実践するためのポイントを紹介していきます。特に、チームにおけるリフレクションの活用を軸に、チームの中の個人、そしてチームが属する組織へもたらす影響について触れていきます。

著者

多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京藝術大学デザイン科修士課程修了。多摩美術大学非常勤講師。 新卒でヤフー株式会社に入社し、UXデザインの実践と社内普及活動を行う。事業づくりだけでなく組織づくりに課題を感じてからは、チームづくりのためのふり返りの対話の場づくりの実践および研究を行う。2020年よりMIMIGURIに参画し、自社サービスCULTIBASE立ち上げ時のサービスデザイン、コンサルティング事業で新規事業開発プロジェクトを中心に担当。現在は、MIMIGURIのナレッジマネジメント、知識創造の仕組みや文化づくりを推進しながら、リフレクションやナレッジマネジメント領域の研究に従事。広義のデザインの実践と研究を一体のものとして体現することを大事にして活動している。

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