プロジェクトを”学びの場”に変えるリフレクションの活用法:連載「リフレクションの技法」第6回

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約16分

プロジェクトを”学びの場”に変えるリフレクションの活用法:連載「リフレクションの技法」第6回

企業内、教育現場、その他多くの分野で、自分たちの活動をふり返ることで学びを得ようとする所謂「リフレクション」という活動が実践されています。本連載ではリフレクションの本質とは何なのか、背景にある理論を整理し、意味のあるリフレクションを実践するためのポイントを紹介していきます。

第6回目となる今回は、第5回に引き続き、プロジェクトチームで行うリフレクションを「チームリフレクション」と定義し、その意義や具体的な方法について理解を深めていきます。

前回の記事では、チームリフレクションを4つの階層に分類しました。今回は、この体系のうち、リフレクションⅠ〈情報の対称性を保つリフレクション〉リフレクションⅡ〈前提を見直すリフレクション〉の活用法とその使い分けを解説します。

プロジェクト推進とチームの成長を繋ぐ「リフレクションの4階層」とは:連載「リフレクションの技法」第5回 より

前提:プロジェクトの推進に「チームの学び」が必要な理由

そもそも、学びを得るための活動であるリフレクションを、なぜプロジェクトの中で行う必要があるのでしょうか。本題に入る前に、改めて前提を確認したいと思います。

前回でも触れたように、プロジェクトを推進していく過程で、チームはさまざまな課題に直面します。それらの中にはツールやマニュアルの導入だけでは解決できない複雑な要因が絡んでいるケースも少なくありません。

過去に経験したことのない複雑な困難に対処するには、まずは個人だけではなくチームでその困難を認識すること、そしてその次にチームで経験学習をまわし、困難に適応していくための「チームの学び」が不可欠です。これがプロジェクトの目的達成に向けて、チームリフレクションが大切である理由となります。

チームリフレクションの担い手は、プロジェクトの中でチームの学びが生まれるように、プロセスや関係性、場などをデザインすることが求められます。そのために重要な活動は2つ。一つ目は「チーム内で情報の対称性を保つこと(リフレクションⅠ)」で、もう一つは「チームで前提を見直すこと(リフレクションⅡ)」です。

リフレクションⅠ:情報の対称性を保ち、プロジェクトを前へ進めるチームリフレクション

情報の対称性が取れなければ、メンバーの行動は行き詰まる

プロジェクトを進めていくなかで、チームメンバーはそれぞれ自分の役割としてやるべきことを進めていきます。今自分が何のために何をすべきかがわかっていて迷うことがなければ、順調に自分の役割を遂行していくことができます。

しかし、チーム内で互いが把握している情報が必要なタイミングで必要なメンバーへ共有し合えていないと、一人ひとりが仕事を進めるために必要な情報が足りず、仕事が行き詰まってしまいます。

また、メンバーの一人が想定外の問題に直面してその問題をチームメンバーと相談せず一人で抱え込んでしまうと、一人の仕事が行き詰まるだけにとどまらず、チーム全体の仕事が滞ることにも繋がりかねません。

これらのプロジェクトにおける行き詰まりは、単純にチーム内で情報共有を行えば解決できるということでもありません。なぜなら、同じ情報を共有しても、人によって情報に対する解釈が異なってしまい、認識のズレが生まれてしまうこともあるからです。

このように、プロジェクトのなかで、一人ひとりのチームメンバーが役割を遂行する上で何らかの課題があって進められない状況に陥っていないかを把握し、行き詰まりが起きていればそれを解消していく必要があります。

この行き詰まりを解消していくための第一歩として大事なことは、チーム内で情報の対称性を保つことです。情報の対称性を保つとは、単にチームの内で情報共有が行わているだけでなく、その情報に対する認識もメンバー内で分かち合えている状態を維持することを指します。

情報の対称性を保つためには、まず一人ひとりが情報に対する認識を開示し、共有することが重要です。互いが現状をどのように認識しているかがわかると、行き詰まりにつながる不安要素を解消する行動に繋げることができ、プロジェクトを前へ進められるようになります。

“コト”と“ヒト”の2つの観点から情報の対称性を保つ

チームの行き詰まりを把握するために対称性を保つ情報は、“コト”志向“ヒト”志向の2つに分けて捉えられます。

“コト”志向の情報とは、プロジェクトそのものに関する目に見える情報を指しています。メンバーが担当作業を進めるために必要な要件、各メンバーの作業内容やその進行状況、今後のスケジュールなどが挙げられます。

一方で、“ヒト”志向の情報とは、メンバーの関係性や一見見えにくい個人の内面に関するものです。メンバーが現状をどんなふうに認識しているのか、プロジェクトの状況や他のメンバーの仕事ぶりなどに対してどんな感情を持っているか、メンバー間のコミュニケーションがうまくいっているか──などが該当します。

プロジェクトを推進していくためには、“コト”志向と“ヒト”志向のどちらの観点からも情報を捉え、何か問題が起きていないかを早めに察知して対処していくことが求められます。

定例を活用し、情報の対称性が保たれる習慣をつくる

プロジェクトの初期は、意識的に情報の対称性を保とうとしてコミュニケーションをとっていたとしても、中長期的にチーム内でうまく情報の対称性を保ち続けられるとは限りません。長期間にわたるプロジェクトであればあるほど、難易度が上がります。そこで活用できるのが、定例ミーティングです。

プロジェクトの立ち上げとともに定例ミーティングを組むのは、PMの基本定石と言えます。一般的に定例ミーティングでは、お互いに担当業務の進捗状況の共有や、意思決定すべき事柄に関する議論を行います。実施頻度はプロジェクトによってさまざまですが、週次、あるいは月次で行われることが多く、定期的にチーム内でコミュニケーションを取る機会であることから、定例ミーティングは情報の対称性を保つことを習慣的に行うための場として活用できます。

定例ミーティングのような場を用いて、情報に対する認識を省察し、分かち合う機会を日常的な習慣として取り入れていくのが、「リフレクションⅠ」です。

チームで情報の対称性を保つ場としてのリフレクションは、それぞれのチームのリズムに合うルーティンとして取り入れていくことで、プロジェクトを安定して進めていく起点になります。

リフレクションⅠの設計のヒント

リフレクションⅠ〈情報の対称性を保つリフレクション〉は、定例ミーティングなどのチームルーティンの場を活用するのがおすすめだという話をしました。最後に実施にあたって留意するとよいポイントを紹介します。

リフレクションⅠの対象となる期間

リフレクションとして見据える期間は、基本的にルーティンの期間と捉えられるので、例えば週次で定例ミーティングを実施している場合は、前回から今回の定例ミーティングまでの1週間です。

リフレクションの対象となる情報

リフレクションの対象は、「何をして何が起きたのか?」などプロジェクトにおける「事象」と、各メンバーのそれに対する「認識」です。これらの情報は、先述した“コト”志向と“ヒト”志向の両軸で見ていく必要があります。

“コト”志向の情報は、一人ひとりのチームメンバーが前回の定例からの1週間をふり返り、作業の進捗や他メンバーに伝えておきたいことを共有していきます。

他方で“ヒト”志向の情報を分かち合う場合、チームメンバーが自ら場に出すことが難しい場合もあります。その際は何か課題や不安を抱えていそうなメンバーがいないか、メンバー個人の行動を観察しながら察知していく必要があります。なるべく、そのチーム内で課題を察知しやすいように、チームに合ったコミュニケーション方法を取り入れる工夫をするとよいでしょう。

このように、チームのルーティンとしてリフレクションを活用し、チームのリズムをつくっていくことで、プロジェクトを着実に前進させていくことができます。

リフレクションⅡ:プロジェクトチームの前提を見直すチームリフレクション

リフレクションⅠ〈情報の対称性を保つリフレクション〉を活用し、チーム内で情報の対称性を保っていくと、ある程度安定してプロジェクトを進めていくことができるようになるでしょう。しかし、その都度発生する課題を解消しながらプロジェクトを進めていくだけで、問題なくプロジェクトを完遂できるとは限りません。

いつの間にかズレやすい「前提」

プロジェクトを進めていくと、いつの間にかさまざまな「前提」がズレてしまうことは少なくありません。

例えば、特に期間が長いプロジェクトの場合は、チームで活動を進めていく中で、当初立てた方針で進めることに対して違和感を抱くメンバーが出始めたり、メンバー間で目指す方向性の認識にズレが生じ始めてしまうことがあります。

一方で、プロジェクトを進めていくうちに、メンバー間でコミュニケーションがうまくいかなくなってくることもあります。これは、メンバーの行動の背景にある思考や価値観が異なる状態で、互いにその違いが認識できていないと生じやすい問題です。

このように、ズレやすい前提は、リフレクションⅠ〈情報の対称性保つリフレクション〉でも触れた、プロジェクトの方針に対する認識のズレなどのプロジェクトの内容自体に対する“コト”志向の前提のズレと、メンバー間のコミュニケーション課題など“ヒト”志向の前提のズレの2つの観点で捉えられます。

どの前提がズレているのかを見極めていくと、チーム内の課題を整理しやすくなるでしょう。ただし、現実に起きる前提のズレには“コト”志向と“ヒト”志向の両方の要素が関わる場合も多いため、単純にどちらのズレか区別できない場合があることも踏まえて取り組む必要があります。

前提のズレに対処する3つのステップ

チーム内で起きてきた前提のズレに対処していくには、具体的にどのようなリフレクションをすればよいのでしょうか。ここでは、必要な活動を3つのステップに分けて紹介します。

STEP1:前提のズレを察知する

まずは、チーム内でズレている前提を見つけます。前提の見直しが必要な状態かをいち早く察知するには、リフレクションⅠで触れたチームのルーティンが活用できます。ルーティンをまわしているときに、いつもと違うメンバーの様子ようすがないかを気にしながら場を観たり、会議以外の何気ない普段のチームメンバーとのコミュニケーションからも、何らかの認識のズレを察知できることがあります。

また、チームの状態を俯瞰的に見ることも求められます。目線が直近のできごとだけになり視野が狭まっていると、チームの変化に気づけず前提のズレも見逃してしまいかねません。プロジェクトを進めてきた過程を俯瞰的に捉え、中長期目線でふり返りながら現状を捉えることも、前提のズレを察知するために重要です。

STEP2:前提のズレを分かち合う対話

前提のズレを察知したら、チームで前提のズレを分かち合う対話をしていきます。

対話の場の設定方法としては、定例会議を少し長めに設定したり、必要に応じて定例会議とは別で長めにじっくり一人ひとりの前提にある思考や認知、価値観まで語り合う対話時間をつくるのがおすすめです。

日常的に行うリフレクションⅠ〈情報の対称性を保つリフレクション〉と比べ、リフレクションⅡ〈前提を見直すリフレクション〉は、必要に応じて不定期に実施するため、普段とは違う“非日常”で行うリフレクションと言えます。

対話の場では、ここまでどのような経緯で何をしてきたか、進めてきたプロセスをチームでふり返ります。そして、チームで進めてきたことを一人ひとりがどのように認識しているのかについて対話していき、どこの前提がどのようにズレているのかを探っていきます。

どの前提がズレているのかを見極めていくと、チーム内の課題を整理しやすくなるでしょう。ただし、現実に起きる前提のズレには、先ほど触れた“コト”志向と“ヒト”志向の両方の要素が関わる場合が多いため、単純化せず、ズレの複雑性を捉えながら取り組むことも必要です。

チーム内で互いの思考や認知、価値観といった個人の内面を開示していくのは、決して簡単ではありません。「このとき、何を感じていましたか?」など直接的に内面を問われても、普段自分の感情を語ることに慣れていないと開示しにくいものです。これらの内面を開示しやすくするためには、チームメンバーのコミュニケーション特性も踏まえながら、問いかけや対話のプログラムの設計を工夫するとよいでしょう。

STEP3:チームが進む方向性をすり合わせる対話

このようにチームで行動の背景にあった前提を把握できたら、改めてプロジェクトをどの方向へ進めるかなどチームですり合わせたいことを決めていきます。

チームメンバーが互いに違いがわかると、プロジェクトの方針を見直すにしても、考え方に違う部分があるという前提をもった上で、どうすべきかを検討できるようになります。異なる考えをぶつけ合う感情論ではなく、建設的な議論がしやすくなるでしょう。

プロジェクトを着実に前へ進めるために、2つのチームリフレクションを使い分ける

本記事では、チームリフレクションの体系のうち、プロジェクトを進めながら活用することでチーム学習へつながる2つのリフレクションを紹介しました。

リフレクションⅠ〈情報の対称性を保つリフレクション〉は、「定期健診」としてチームの健康状態をチェックするような活動と捉えることができます。チーム内に前進できなくなっている物事があれば早期発見し、着実に前進できる状態をつくっていくことがポイントです。些細なことでも問題を放置し続けると、あとになって大規模な方針転換が必要になり、これまでやってきたことが無駄になってしまうなどの大きな問題に発展しかねません。問題が明確に顕在化する前に、チーム内の些細なズレを察知したら早めに対処するような位置づけで実施することが大切です。

これに対して、リフレクションⅡ〈前提を見直すリフレクション〉は、「定期健診」で見つかった些細な異常に対して行う「精密検査」と必要に応じて行う「治療」のような場と捉えることができます。ただしメンバー同士で認識が異なる事柄を扱うため決して楽な対話ではありません。それでも、これはチームメンバーが互いの思考や認知、価値観を学び合う機会であり、この苦しみを乗り越えて互いの違いを受け入れられると、メンバー同士の相互理解が深まり、チームのパフォーマンス向上へとつながっていくでしょう。

日常と非日常で活用するリフレクションを習慣化していく

プロジェクトのルーティンにリフレクションを取り入れ、“日常”のなかでリフレクションを活用(リフレクションⅠ)したり、前提のズレを察知したときに“非日常”の場としてリフレクションを兼ねた対話の場をつくる(リフレクションⅡ)など、プロジェクトを進める“日常”と“非日常”のなかでリフレクションを習慣として取り入れていくことが、プロジェクトを推進していくために必要となります。

ある意味、プロジェクトのなかで無意識的にリフレクションを活用していくことで、チームの学びを促進し、あらゆる不確実性に適応できるチームへと成長していけると言えるでしょう。チームに合ったリフレクション習慣を取り入れ、プロジェクトの推進に活用してみてください。

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連載

リフレクションの技法

本連載ではリフレクションの本質とは何なのか、背景にある理論を整理し、意味のあるリフレクションを実践するためのポイントを紹介していきます。特に、チームにおけるリフレクションの活用を軸に、チームの中の個人、そしてチームが属する組織へもたらす影響について触れていきます。

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著者

多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京藝術大学デザイン科修士課程修了。多摩美術大学非常勤講師。 新卒でヤフー株式会社に入社し、UXデザインの実践と社内普及活動を行う。事業づくりだけでなく組織づくりに課題を感じてからは、チームづくりのためのふり返りの対話の場づくりの実践および研究を行う。2020年よりMIMIGURIに参画し、自社サービスCULTIBASE立ち上げ時のサービスデザイン、コンサルティング事業で新規事業開発プロジェクトを中心に担当。現在は、MIMIGURIのナレッジマネジメント、知識創造の仕組みや文化づくりを推進しながら、リフレクションやナレッジマネジメント領域の研究に従事。広義のデザインの実践と研究を一体のものとして体現することを大事にして活動している。

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