プロジェクトチームでリフレクションをする意義と方法:連載「リフレクションの技法」第4回
プロジェクトチームでリフレクションをする意義と方法:連載「リフレクションの技法」第4回

プロジェクトチームでリフレクションをする意義と方法:連載「リフレクションの技法」第4回

2022.09.14/8

企業内、教育現場、その他多くの分野で、自分たちの活動をふり返ることで学びを得ようとする所謂「リフレクション」という活動が実践されています。しかし、せっかく時間をかけて活動をふり返っても次に活かされないなど、うまくいかない「リフレクション」を経験したことがある方も少なくないのではないでしょうか。

本連載ではリフレクションの本質とは何なのか、背景にある理論を整理し、意味のあるリフレクションを実践するためのポイントを紹介していきます。特に、チームにおけるリフレクションの活用を軸に、チームの中の個人、そしてチームが属する組織へもたらす影響について触れていきます。

第4回目となる今回のテーマは「プロジェクトチームでリフレクションをする意義と方法」です。このリフレクションの技法の連載では、第1回第2回で理論背景、第3回でリフレクション実践方法に触れてきました。今回は、何のためにプロジェクトチームでリフレクションをするのか、特にチームで取り組むリフレクションの意義と実際にチームでリフレクションを実施する際のポイントをご紹介します。

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プロジェクトチームでリフレクションをする意義

プロジェクトが思うようにうまく進まない、チーム内でコミュニケーションが十分に取れていないなど、プロジェクトチームが課題を抱えている際に、何とかしてその課題を解消したいと思っているマネージャーの方は少なくないはずです。定例ミーティングや普段のチームメンバーとのコミュニケーションなど、日々の業務をこなしながら課題の解決を試みてもうまくいかないときは、一度立ち止まって、チームでリフレクションを行う時間を設けることが有効な解決の手段になるかもしれません。

とはいえ、何らかの目的をもって活動することが前提とされるプロジェクトチームにおいては、とにかくスピード感が求められます。そうした中では、わざわざ時間をかけてリフレクションを行うことに後ろ向きな気持ちも生じるかもしれません。それでもプロジェクトチームが定期的に活動をふり返り、対話する場を設けることには、中長期的にチームにとって大きな意義があると考えています。

まず前提として、プロジェクトチームに限らずリフレクションを行う意義とは何でしょうか。一般的に、チームでふり返りをするというと、何かうまくいっていないことを改善するための「反省会」がイメージされやすいかもしれません。しかし、本連載の第2回でも触れましたが、リフレクションは単なる「反省会」とは異なります。「うまくいった」「うまくいかなかった」といった二元論的な考え方のままでは、本質的な改善点を見出すことは難しく、その結果行われる安易な改善では本質的な問題の解決になりません。重要なのは、起こったできごとの背景にある人の思考や感情、そしてそのさらに奥にある価値観にふれることであり、そこにリフレクションを行う意義があります。

だからといって、リフレクションは“特効薬”ではありません。一回のリフレクションで課題の本質がすぐに見つかり、解消できることは稀でしょう。どちらかというと“漢方薬”のように明確な症状が表れる前の不調に対するアプローチとして活用するものであり、チームの今の状態を自分たちで認識し、一歩ずつチームの状態をより良くしていく方が効果が期待できます。

こうした前提を踏まえながら、次節からは、特にプロジェクトチームでリフレクションをすることがなぜ重要なのか、2つの観点から解説していきます。

プロジェクトチームでリフレクションをする意義(1):チームの「今・ここ」の認識を分かち合い、次へ進む方向性を「見直す」

リフレクションは、プロジェクトがすべて終了した後にやるものというイメージが根強くありますが、実は途中でやるからこそチームにとって意味があるのです。

プロジェクトを進めていくと、チームメンバーの一人ひとりのなかで無自覚のうちに少なからず不安要素が貯まっていきます。特に3ヶ月、半年以上など長期プロジェクトになるほど、次第に不安要素は増え、複雑に絡み合っていきます。そこで、プロジェクトの途中でリフレクションを行い、「今」のチーム内にあるポジティブな要素もネガティブな要素もすべて可視化します。

チームメンバーの中に不安要素が貯まっていると、リフレクションをしたときにも「ここがうまくいかなかった」など課題ばかり出てきてしまいがちです。ですが、ここでは、プロジェクトの「良さ」と「不安要素」の両方の観点で、チームメンバーが「今」感じていることを出し合うことで、プロジェクトの現在地をチームで確認していくことが重要なのです。

リフレクションで大事な視点は、「過去」のできごとを「今」の視点で見た時に何を感じるか、「今・ここ」の視点です。同じできごとでも、人によって捉え方は異なります。そのため声の大きい人の捉え方に引きずられないよう、しっかりチームメンバー同士で捉え方の違いを受け止め合い、チームの「今・ここ」の状態を捉え直すことを意識するとよいでしょう。

そして、なぜそのような捉え方の違いが起きているのかを対話しながら、チームにとってどんな意味があったと言えるのか、チームとして「今・ここ」に対する意味づけを分かち合っていきます。

このように、「今・ここ」の認識を一人ひとりのチームメンバーの視点から丁寧に分かち合っていくことで、なぜ今の状態へ至ったのか、その経緯に対する解像度が一人ひとりの中で上がり、プロジェクトの現在地に対する納得感が高まっていきます。チームとして「今・ここ」に対する意味づけができることで、プロジェクトが次に進む方向性のすり合わせも納得感をもってしやすくなるのです。

プロジェクトが進む方向性を対話していくことは、チームとして何を「良さ」として大事にしていくのか、チームの価値観を明確化し、メンバー間ですり合わせることにもつながります。良いことも、うまくいかなかったことも含めて、チームメンバーで一緒にプロジェクトで起きていたことを「見る」ことで、改めてチームの「良さ」も「改善点」も見えてきます。チームで目線を揃えて対話できるようになっていくことで、プロジェクトをより良く進めるためにどちらへ進んだらいいのか、進む方向性を「見直す」ことができるようになるのです。

このように、リフレクションはチームで目線を揃えながらプロジェクトを「見直す」機会だと言えます。また、同じ活動をしてきた仲間同士で、同じ出来事に対してどのように感じていたかを語り合うと、出来事の捉え方の違いが見えてくるため、一人ひとりの考え方の特徴を感じとることができます。これによってチームメンバーが相互理解を深め、その後のチーム内コミュニケーションを円滑にすることにもつながっていくのです(このリフレクションの働きについては、次回の記事で詳しく扱う予定です)。

プロジェクトチームでリフレクションをする意義(2):チームとして「省察的実践家」になり、学び続けられるチームになっていく

プロジェクトの途中で進む方向性の「見直し」が必要となるのは、なぜでしょうか。近年の変化が激しく、さまざまな要素が互いに関係し合う複雑性の高いプロジェクトでは、プロジェクト開始時にプロジェクトを進める中で起きることをすべて完璧に予測し、想定通りに進めることは困難です。想定外の状況にもその場で対処していくことが求められるため、既存の知識や手法をそのまま適用するだけでは、プロジェクトをうまく推進し続けることが難しくなってしまうのです。

それらの状況に対処するには、まずは何が起きているのかを把握し、不確かさを受け止め、プロジェクトを前へ進めるために柔軟にやり方をアレンジしながら、新たな状況をかたちづくっていくことが求められます。

このように、プロジェクトで直面するさまざまな想定外の困難な状況のなかでも、試行錯誤しながら何をすべきか判断してなんとか切り抜け、新たな知を獲得しながら成長し続けていく専門家のあり方は、アメリカの哲学者・ドナルド・ショーンが「省察的実践家(リフレクティブ・プラクティショナー)」と呼んだものです。ショーンは、特定の分野の専門知識や技術をそのまま実践へ適用することを繰り返しながら熟達していく専門家像である「技術的熟達者(テクニカル・エキスパート)」と対比して、この「省察的実践家」を新たな専門家モデルとして提唱しました。

省察的実践家は、不確実で価値の葛藤があるような複雑な状況に対して、その状況をしっかり受け止めた上で、暗黙的にそれまでの経験や知識をフル活用して切り抜けていきます(これをショーンは「行為の中の省察(reflection in action)」と呼んでいます)。出来事をあとからふり返って、起きていたことの意味を問い、実践に埋め込まれていた問題や構造を捉える自らの枠組み(frame)を発見し、それを捉え直し組み替えていく(reframing)ことで知を獲得していくという学習スタイルが特徴です。

現代において、特に企業の新規事業やイノベーションプロジェクトでは、市場でどのように受け止められるか事前に予測できないなど、不確実な要素に数多く直面します。そのため、まず世に出して仮説検証を繰り返していくなどの方法がよく用いられています。そうした中で、素早く試行錯誤を続け、事業や組織をより良くしていくためにも、チームとして学び続けていく仕組みや文化が不可欠です。

プロジェクトを進めていく中で感じた発見や違和感を、個人で閉じることなくチームへ開くこと。そしてチームとして得られた学びが何だったのかを協同的に見出していくこと。そのためのチームでの対話によるリフレクションの場を設けることが、チームメンバーに「省察的実践家」としての学習の姿勢が形成されるように促し、プロジェクトをより良い方向へ進めていくことに繋がっていくのです。

こうしたプロジェクトを通して得られた「省察的実践家」としての姿勢は、プロジェクト終了後も組織にとって大きな資産になるはずです。組織活動の中で、やってみないとわからない、事前予測が難しい不確実要素に直面することは決して珍しくはありません。プロジェクト内でのリフレクションを通じて、学び続けるチームになっていくことが、組織内の学習力を底上げし、組織全体が不確実性に適用しながら成長していくことにつながっていきます。 

 

プロジェクトチームにリフレクションを取り入れる工夫

実際にプロジェクトチームでリフレクションを実施したいと思っても、どのようなタイミングで実施すればいいのか、チームメンバーへどのように説明すればいいのかなど、初めて実施する際はリフレクション実施に至るまでのハードルをいくつか超えなければなりません。ここでは、プロジェクトチームでリフレクションを取り入れるための工夫を4つご紹介します。

(1)リフレクションを実施するタイミングの見極め

プロジェクトがすべて終了した後だけでなく、プロジェクトの途中でリフレクションを実施する意義について触れましたが、半年以上など長期プロジェクトでは、切りのいいタイミングで3ヶ月前後を目安にリフレクションを実施するのがおすすめです。間が空きすぎると、何をしていたか詳細を忘れてしまうこともありますし、やっていたことを思い出すことに時間がかかってしまい、感じたことをチームで語り合う対話時間を十分に取れなくなってしまいかねません。リフレクションの実施タイミングを見極めるときは、プロジェクトの進行上切りがいいタイミングか、チーム内に「良さ」と「不安要素」のいずれかまたは両方が貯まってきていそうなタイミングで実施するとよいでしょう。

(2)リフレクションの目的設定とメンバーへの説明

リフレクションを実施するときは、プロジェクトマネージャーの役割を持つ人と連携して計画、準備を進めるのがおすすめです。特に、普段リフレクションをやる習慣がない場合は、リフレクションを何のために今やるのか、リフレクションの必要性について周囲の理解を得ることが必要になります。そういうときに、プロジェクトマネージャーと連携することで、プロジェクトのそのときの課題感に合わせた形で、リフレクションの目的設定やチームメンバーへの説明を行えると、チームメンバーが前向きにリフレクションの場に臨みやすくなります。目的を曖昧にしてしまうと、チームメンバーの参加意欲が下がってしまい、対話がしにくくなってしまうので、ここは丁寧にチームメンバーとコミュニケーションをとるようにするとよいでしょう。

(3)リフレクションの日時と場の設定

リフレクションをいつ実施するかを決めるときは、普段の定例会議などとは別の場として少し時間に余裕をもって長めに時間をとっておくのがおすすめです。普段の業務内のコミュニケーションとは少し異なる場として非日常さを感じられるようにしておくことで、普段のチーム内の会話では話さないような、個人の一人称による語りが引き出されやすくなります。ただし、忙しいメンバーが多く、時間を別枠で確保するのが難しい場合は、定例会議など普段チームメンバーが集まる場を活用して、議題をリフレクションに変更して実施する形でも構いません。この場合も、普段とは違うことをやる場であるという認知を作るための事前アナウンスは忘れないようにしましょう。

(4)リフレクションのプログラム設定

リフレクションのやり方は世の中にさまざまな手法がありますが、まずはリフレクションをする意義で触れた「今・ここ」を共有することが先決です。そのために、プロジェクトでそれまで実施してきたことを時系列で可視化してみましょう。やってきたことの可視化は、事前に済ませておくと、リフレクション当日の時間をチームの対話に当てやすくなります。この準備段階は、キーパーソンにあたる人を中心に実施してからチームメンバーに確認してもらうようにすれば、効率的に準備を進めることができます。

リフレクション当日は、ここまでやってきたことを俯瞰して見ながら、チームで対話をしていきます。リフレクションでチームメンバーと対話したいトピックも事前にいくつか準備しておきましょう。プロジェクトチームの「良さ」「改善点」の両軸の視点を大事にしながら、やったこと、起きたことの意味をチームで一緒に深掘りたいポイントをピックアップしてみるとよいでしょう。対話するトピックの準備は、事前に考えておくのとは別で、当日の対話から追加でピックアップすることも想定しておきましょう。対話の中から意外なチームのよさや課題が見つかる場合もあります。対話するトピックやその深掘りをしていくときにさまざまな問いを活用することで、チームの学びを深めていくことができます。リフレクションで活用できる問いの事例については、別の機会にまたご紹介したいと思います。

ここまで、プロジェクトチームでリフレクションをする意義とリフレクションを実施するときに取り入れられる工夫をご紹介してきました。リフレクションをチームで取り入れる際のポイントを理解した上で、「省察的実践家」として学び続けられるチームになることを目指し、不確実性に負けずに成果を生み出していけるよう、みなさんもリフレクションを活用してみてください。


9/17(土)10:00-11:30よりCULTIBASE Labライブイベント「リフレクション概論:暗黙知を解きほぐす理論と技法」を開催します。本連載よりの内容を再構成した上で、より体系だった学びの機会としていく予定です。関心のある方はぜひご参加ください(終了後もアーカイブ動画がご覧いただけます)。

※本イベントはCULTIBASE Lab会員限定となります。ご参加/ご視聴を希望される方は、まずはCULTIBASE Labへとご入会ください。

▼CULTIBASE Labの詳細・お申し込みはこちら
https://db.cultibase.jp/lab/

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