なぜ、ペルソナは活用されないのか?チームでの“対話の軸”となるペルソナの「作り方」と「使い方」

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約11分

なぜ、ペルソナは活用されないのか?チームでの“対話の軸”となるペルソナの「作り方」と「使い方」

マーケティングから採用にいたるまで、ビジネスシーンで幅広く活用される「ペルソナ」。

手法としての認知は拡大した一方で、「有効活用できなくて困っている」、はたまた「ペルソナなんて無意味だ」といった声が聞かれることもあります。

CULTIBASE Lab会員向けオンラインプログラム「デザインゼミ」の11月の回では、「ペルソナは本当に必要か?」というテーマを取り上げました。

ペルソナがうまく設計できなかったり、活用できなかったりする原因はどこにあるのでしょうか。ペルソナは「一度作ったら終わり」で十分なのでしょうか。ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)のディレクター/エクスペリエンス・デザイナーの瀧知惠美と、ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)のマネージャー/デザイン・リサーチャーである小田裕和が語り合いました。

現場でペルソナが機能しない、2つの要因

「対象ユーザーに含まれそうな、実在する人物の価値観や行動パターンに基づいて作られた、代表的なユーザーの人物像」

瀧はペルソナをこう定義します。競合サービスなどと比較し、狙いたい市場をある程度定めたのち、具体的なユーザー像についての理解を深めるときに用いられると言います。 ペルソナは、「ターゲティング」や「セグメンテーション」とは異なり、一般的なユーザー属性や市場全体ではなく、特定の一人を具体的に描いていくのが特徴です。

ペルソナを重視する背景には「ある一人のユーザーに向けてプロダクト・サービスを磨き込んでいくと、結果的により多くのユーザーに受け入れられるようになる」という理解があります。

日本のビジネスシーンで、ペルソナはその有効性が認められ、広く認知されるようになりました。プロダクト・サービス開発だけでなく、採用活動など幅広く用いられています。

しかし、現場からは「作ってみたけれど何も変わらない」「本当に作る意味があるの?」といった声が聞こえることも。ペルソナがうまく活用されていない要因を、瀧は大きく二つに分けて捉えます。

瀧:ペルソナが活用されない要因は2つあります。一つは、中身の薄いペルソナになってしまう、「作り方の問題」。もう一つは、ペルソナを作っただけで満足してしまう、「使い方の問題」です。

属性情報だけでなく、「価値観」と「行動」も設定する

まず、「作り方の問題」についての議論が繰り広げられました。ペルソナを作るときの注意点として挙げられたのが、「属性情報ばかり盛り込まないようにする」ということ。

ペルソナを作るとき、年代や性別、所在地、職業といった属性情報ばかりに着目してしまいがちだと瀧は指摘します。しかし、属性情報はいわば「氷山の一角」。価値観や行動といった、肉眼では捉えられない部分の情報が疎かになっていると、ペルソナ作りはなかなかうまくいかないと言います。

「どういった価値観を持っているのか」「プロダクトやサービスをどのように利用するのか」といった要素についてのイメージを練り上げておかないと、リアリティのあるペルソナは作れません。

仮説の正しさを確認するためのユーザーインタビューはつまらない

ペルソナは、実在の人物をまったく参考にせず、100%空想で作ろうとしてもうまくいきません。ただし、特定の人物をそのまま当てはめると、ニッチになりすぎてしまいます。瀧は、複数の人物にユーザーインタビューを実施し、共通するエッセンスを盛り込んだ架空の人物像を描くプロセスが良い、と語ります。

ユーザーインタビューで求められるのが、相手の感情を深く理解する力です。ユーザーの気持ちを理解するためには、相手の置かれている状況を想像し、その人の立場に立って考えなければなりません。小田によると、相手の感情を理解することを「能力」と捉え、日頃から「鍛錬」していく必要があるとのこと。

さらに瀧は、想定ターゲットに該当しそうな人だけでなく、それ以外の人にユーザーインタビューを実施することにも意義があると言います。

瀧:想定された中心ターゲットだけでなく、エクストリーム(極端な)ユーザーにも話を聴くと、意外な発見に出会えることもあります。

わからないものを楽しめるかどうかは、とても大事だと思っています。意外な発見があったほうがいい。自分の考えたことが正しいかどうかを確認をするためのペルソナやユーザーインタビューは、つまらないものになってしまいますから。

「作ったら終わり」ではなく、対話を通してペルソナをブラッシュアップする

続いて、話題は「使い方の問題」に移りました。適切なペルソナを設定したとしても、「一度作ったら終わり」では不十分です。「わかったつもり」にならないように、チームでの対話を通して定期的にペルソナを見直し、ブラッシュアップしていくべきだと瀧は述べます。

瀧:最初にペルソナを作った段階では、まだ粗い部分があると思います。だからこそ、チームメンバーとの対話を通じて、ペルソナの精度を高めていくことが大切です。

ペルソナを実際に運用してみて「ちょっと違うよね」となったとしても、むしろペルソナをもっと深く理解するきっかけとして捉え、「なぜペルソナが刺さらなかったのか」と対話するのが肝要だと言います。

「こういう人だよね」とイメージを固めてしまった瞬間、そのペルソナはリアリティを失ってしまいます。そうならないために、ペルソナを作るための対話、ペルソナを生かし続けるための対話が求められると小田は言います。

小田:問いかけたいのは、「あなたはいつペルソナを見直しましたか?」ということ。「この人はこういう人だよね」と既存のペルソナに安住するのではなく、ユーザーそのものとしっかり向き合う。そうしないと、ペルソナは生き続けないと思います。

ペルソナはチーム内のコミュニケーションの「軸」を定めてくれる

しっかりと対話し設計されたペルソナは、ユーザー理解に大きく役立つのみならず、チーム内のコミュニケーションにも良い影響を及ぼすと言います。メンバー全員がペルソナの視点から考えられるようになると、「どういうものを提供するべきか」というコミュニケーションの軸が、チーム内で定まってくるからです。

「組織において、コミュニケーションの軸を持つことは非常に大切」と言う瀧。軸がないと、対話の際に各々が「自分はこう思う」と話してしまい、収拾がつかなくなってしまうからだと言います。

瀧:チーム内で「この人とは考え方が違うな」と感じても、「何が」「どう違うか」についての解像度が低いがゆえに、そのまま放置されることは少なくありません。

一方で、ペルソナを設定すると、チーム内での議論の前提が生まれます。ペルソナを基準にすればメンバー同士の認識の違いが明瞭になりますし、チームとして取るべき行動、提供すべきサービス像についても、共通了解が取れるようになる。

瀧が語るように、ペルソナはチーム内で対話に寄与します。ペルソナがチーム内のコミュニケーションについては、下記の記事のような観点もあります。

“愚かしいペルソナ”ではなく、“愛すべきペルソナ”を作り込む

“愚かしいペルソナ”ではなく、“愛すべきペルソナ”を作り込む

これからは「関係性のペルソナ」も注目されていく?

ゼミの終盤、瀧は「ペルソナに替わるものがあるとしたら、どういったものが考えられるか?」という問いを提示しました。そこで挙がったアイデアが「関係性のペルソナ」。関係性のペルソナとは、組織の中での対話を通じてペルソナの解像度が上がっていくときに、ペルソナ自身が生きているかのように、まわりの人やモノと関わっていると捉える考え方です。

たとえばコミュニティ設計においては、一人の人物だけではなく、複数のペルソナを想定されることがあります。「ペルソナが人間に集約してしまうのがもったいないと思う」という参加者からの声に対して、「ペルソナを固定化された人として捉えるのではなく、ものとの関係、人と人との関係の中で変わっていくものとして捉えることも大事」と、小田は「関係性のペルソナ」に触れながら語りました。

いずれにせよ重要なのは、一度ペルソナをつくって満足するのではなく、チーム内での対話を通じて、常にアップデートしていくことです。「ペルソナは本当に必要か?」と思ったときは、まずその作り方・使い方を見直してみてはいかがでしょうか。プロダクト・サービス開発において有用な手法であることはもちろんのこと、組織の文化を醸成させるうえでも、大きな効果を発揮してくれるポテンシャルがあります。

CULTIBASE Labではデザインゼミのようなイベントに加え、毎週配信される動画コンテンツやメルマガ、また会員専用のオンライングループでの交流を通じて、人とチームの「創造性」を最大限に高めるファシリテーションとマネジメントの最新知見を学びます。興味のある方は、まずは下記バナーより詳細をご確認ください。

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■プロフィール

瀧 知惠美
Chiemi Taki
多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京藝術大学デザイン科修士課程修了。多摩美術大学非常勤講師。ヤフー株式会社にて複数サービスのUXデザインを担当し、所属部署でUXデザインチームのマネージャーを務める。UXデザイン推進活動としてワークショップ型の研修やUX導入の実務支援を行い、組織へ浸透させるための、ふり返りの対話の場づくりの実践および研究を行う。ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)では、よりよいユーザー体験につながるモノ・コトを生み出すために、つくり手の体験も重要と考え、事業開発と組織開発の組み合わせ方を実践と研究の両軸を重視しながら探求している。

小田 裕和
Hirokazu Oda
東京大学大学院 情報学環 特任研究員。千葉工業大学大学院工学研究科博士課程修了。 博士(工学)。千葉県出身。新たな価値を創り出すための、意味のイノベーションやデザイン思考といったデザインの方法論や、そのための教育と実践のあり方について研究を行なっている。ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)では、新たな意味をもたらすための商品開発プロジェクトや、主体的に価値創造に取り組む人材の育成プロジェクトを中心にディレクションやファシリテーションを担当している。

執筆:石渡翔
編集:小池真幸

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