学ばせるのではなく、学びたくなる状況をつくる:連載「遊びのデザイン」第3回

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学ばせるのではなく、学びたくなる状況をつくる:連載「遊びのデザイン」第3回

仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高める「遊びのデザイン」。前回の記事では、「破壊の衝動」をくすぐることで、チームのコラボレーションを活性化した事例をご紹介しました。

破壊の衝動をくすぐるプレイフルな仕掛け:連載「遊びのデザイン」第2回

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遊びのデザインをファシリテーションに応用する効用は、相手に期待する目標をトップダウン的に「押し付ける」のではなく、みんなが目標を達成したくなる「内発的な状況」を作りだすことにあります。

これは、企業研修などの人材育成の現場にも応用が可能です。以前に人材育成のアプローチとして、階段型の学びを促す「インストラクショナルデザイン(ID)」と、固定観念を揺さぶる「ワークショップデザイン(WD)」の2つの研修設計の手法をご紹介しました。

CULTIBASE | 従来型の人材育成を超えるには:研修設計の2つのアプローチ
イノベーションに強い組織は、すべからく社内の人材育成に力を入れています。 組織を構成する一人ひとりが変化する力の集積が、イノベーションの必要条件になるからです。人材育成のアプローチにはさまざまありますが、王道的な介入の方法に 「集合研修」 があります。 研修は予算も確保され、導入しやすい反面、必ずしも戦略的に設計されているとは限らず、 …

この2つは、目指す学習の性質が異なるだけでなく、後者のワークショップデザインは「遊びのデザイン」と組み合わせることによって、「無理矢理学ばせる研修」ではなく「学びたくなってしまう状況」をデザインすることが可能になります。

観察力を磨くワークショップの事例

筆者は以前、中学生を対象に「観察力を磨く」ことを学びの目標としたワークショップを実施したことがあります。

観察力とは、学校だけでなく人生のあらゆる場面で役に立つ基礎的なスキルですから、鍛えておいて損はありません。どのようなプログラムを準備すれば、「観察力を磨く」という学習目標が達成できるでしょうか。

おそらくあまり効果的でないアプローチは「これからの時代には観察力が重要だ」「社会に出たら観察力は役に立つ」と、いかに観察力が重要であるかのお説教をして、「目の前の○○○を丁寧に観察しよう」とストレートな演習問題に持ち込むパターンでしょう。有用性と使命感で学習を動機付けられる大人ならまだしも、中学生相手にこれで観察力が鍛えられるのであれば、苦労はしません。

そこで筆者は、ついつい観察したくなる、気付いたらうっかり観察力が磨かれてしまっているような「遊び」をデザインすることにしたのです。

コンビニをリデザインする遊び

筆者が実施したのは「コンビニをリデザインする」という遊びです。中学生にとってのコンビニは、少し増え始めたお小遣いを、自由に使えるフィールドです。そのため、コンビニが好きな子どもが多いのです。さらに興味深いことに、「やっぱりファミマでしょ!」「俺はセブン-イレブンが好きだな」「私はナチュラルローソン派」といった具合に、中学生によって「好きなコンビニ」が確立されていることもあります。

そこで、「自分が好きなコンビニが、他のコンビニと同類にされたらイヤじゃない!?」という提案とともに、「自分が好きなコンビニを「別のサービス」としてリデザイン(コンセプトの再編)をするとしたら、どのようなサービスにするか?」を考えてもらい、チラシに表現してもらったのです。

中学生たちは、さっそく街に飛び出し、自分が好きなコンビニを見つけ出します。耳を傾けると「やっぱりナチュローは落ち着くわ〜」「ファミマ最高だな。セブンは全然だね」なんて声が、聞こえてきます。※お店に迷惑をかけないように、中学生たちには小額のQUOカードを進呈し、実際に買い物を楽しんでもらいました。

好きなコンビニをリデザインするにあたって、中学生たちは自然と「競合のコンビニ」にも偵察にいきます。すると「おでんのラインナップが全然ダメだね」「あれ、こっちのコンビニにはコレが置いてあるんだ」「ナチュラルローソン、Jazzがかかってるんだけど」「客層が微妙に違うな」などと、「コンビニ同士の違い」に気がつきます。

それらの気づきを踏まえながらも、同じコンビニを推すグループメンバーでリデザインするコンセプトを話し合い、チラシにまとめました。

たとえばこのグループは、ナチュラルローソンを「SILVERコンパ」というサービスとして再解釈をしてくれました。彼女らが着目したナチュラルローソンは、薬局が併設されていたほか、他のコンビニに比べると生の「野菜」や「果物」などスーパーに近い食材が充実しており、近隣の高齢者の方々が多く訪れていたことに気がついたのだそうです。そして、お客同士で声をかけあい、出会いやコミュニケーションの場になっている場面に遭遇したそう。シルバー層にとって、ナチュラルローソンはコンビニ兼スーパーであり、出会いの場にもなっている。それをかけて「SILVERコンパ(コンビニスーパー)」と名付けてくれました。フィールドワーク中から「ナチュラルローソンは落ち着く」と繰り返していたチームですが、実際に地域の「憩いの場」として機能していることに気がついたといいます。

他方で、別の男子中学生たちのグループは「そんなの興味ないね!」と一蹴しながら、自分たちの推しコンビニであるファミリーマートを、「弁当スイーツ!!(爆)」というサービスにリデザインしれくてました。

彼らによれば、ファミリーマートはスイーツが充実しているほか、他のコンビニに比べてボリュームの多いスイーツを揃えていたとのこと。ランチの代わりに甘いものでお腹を満たしたい人のためのサービスとして価値があるとプレゼンテーションしてくれました。

学びたくなる状況を遊びに埋め込む

このワークショップのポイントは、中学生たちの「自分の推しコンビニを、他のコンビニに負けないようにアピールしたい!」というモチベーションに火を付けることによって、その活動に没入しているうちに、「他のコンビニとの差異を観察せざるを得ない」プログラムになっている点です。

観察の本質とは、物事を捉える「解像度」を高めることです。それは言い換えれば、一見すると同じカテゴリで括られた「A」と「B」を「同じである」とみなすのではなく「実は違う」ことに気が付くことでもあります。

直接的な研修ではなく、学びを遊びに埋め込む

それを講義で教え、練習問題で鍛える方法もありますが、そうではなく、そんなことを言わなくても、自然とそれをしたくなってしまう状況を作ること。これが「遊びのデザイン」を活用したワークショップ型の人材育成のアプローチなのです。

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遊びのデザイン:組織変革のプレイフル・アプローチ

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組織変革の方法論は、組織に潜んだ無意識の病理に迫るもの、危機感を起点に構造を再編するものなど、ネガティブなアプローチに傾倒しがちです。しかし、人と組織が変わる契機は「痛み」だけではないはずです。本特集では、仕事や日常生活に「遊び心」を取り入れることで創造性を高める「遊びのデザイン」に着目し、組織の変化を楽しむ「プレイフル・アプローチ」の可能性と方法について探究していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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