破壊の衝動をくすぐるプレイフルな仕掛け:連載「遊びのデザイン」第2回

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約6分

破壊の衝動をくすぐるプレイフルな仕掛け:連載「遊びのデザイン」第2回

仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高める「遊びのデザイン」。前回の記事では「組織のイノベーション」から遊び心の有用性を読み解きましたが、今回はいくつかの事例を通して、遊びのデザインの可能性の一端に触れていきましょう。

チームの創造性を最大化するためには、一人ひとりの「衝動」を発揮するための働きかけが必要です。その中でも、既存のものを「壊したい」という衝動は、使いどころを間違えなければ、モチベーションや創造性を爆発させる有効なアプローチになる場合があります。本記事では「破壊の衝動」をうまく利用した事例をご紹介しましょう。

仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高める「遊びのデザイン」。前回の記事では「組織のイノベーション」から遊び心の有用性を読み解きましたが、今回はいくつかの事例を通して、遊びのデザインの可能性の一端に触れていきましょう。

チームの創造性を最大化するためには、一人ひとりの「衝動」を発揮するための働きかけが必要です。その中でも、既存のものを「壊したい」という衝動は、使いどころを間違えなければ、モチベーションや創造性を爆発させる有効なアプローチになる場合があります。本記事では「破壊の衝動」をうまく利用した事例をご紹介しましょう。

事例:もし地域のロゴを作り替えるとしたら?

筆者が東京都大田区のまちづくりのために実施した住民参加型ワークショップの事例です。10代から70代まで幅広い年齢層の大田区民が集まったこのプロジェクト。地域を活性化するための半年間ほどのキックオフワークショップを、筆者が担当しました。

しかし年齢もバックグラウンドも多様な参加者が集まるプロジェクトでは、共通のビジョンを持ちながら話し合いを進めていくことは容易ではありません。そこで筆者は、遊び心あるエクササイズを通して、チームビルディングを図りました。それは、地域の「ロゴ」をリデザインする、という架空の実践です。

ちなみに大田区のロゴは、このようなシンボルマークになっています。これはほとんどの区民が知っていて、実際にワークショップで提示した際も、参加者の全員が知っていました。

大田区のロゴマーク

「本日は、チームで協力して、このロゴを作り替えてみましょう」

この時点で、10代や20代の参加者は「なんだか面白そうだぞ!」と目を輝かせています。他方で、年配の方々は「なぜそんなことを?」「意味がわからない」といった様子です。

しかし筆者は「みなさん、世の中のロゴマークはどのようにデザインされているか知っていますか?」と続けます。

たとえば「ナイキ(NIKE)」というブランドのロゴマーク。実はこれは、ギリシャ神話の勝利の女神ニーケー(Nike)の翼の形を象ったものなんです。競技者に「勝利」をもたらしてくれる、ブランドイメージが体現されています。

勝利の女神ニーケー(Nike)

他にもiPhoneやMacで有名な「Apple」のロゴマークは、知恵の象徴を意味しながらも、情報の最小単位(byte)と、ひとかじり(bite)をかけているのだそうです。

他方で、大田区のロゴは、いかがでしょうか?実は「大」と「田」を変形させたものなんです。ある意味、わかりやすいですね..!

大田区のロゴの由来

ここまで説明すると、今度はむしろ年配の参加者のみなさんが「けしからん!作り直しだ!」「大田区にはもっといろんな資源や魅力があるぞ!」と、突如として声を荒げ始めたのです。

筆者はすかさず「そうなんですか…!?それでは、ちょうどいいですね!今日はみなさんで、このロゴの代わりになる架空の新しいロゴを作ってみましょう!」と参加者のみなさんを鼓舞し、「破壊の衝動」に火をつけることに成功しました。これによって、「既存のロゴを壊して、新しいロゴをつくる」遊びへの誘いは完了です。

地域の魅力を活かした架空のロゴの完成

ワークショップでは、大田区の魅力や資源、これまでの歴史や思い出深いエピソードなどを参加者同士で出し合いながら、それを他の地域に向けてどのようにアピールしていきたいか、表現へと収束させていきました。実際に参加者のみなさんが画用紙などを使って制作したロゴは、以下の通りです。

ワークショップで制作した架空のロゴの試作品

たとえば左下のロゴは、大田区が東京で唯一「陸路」「空路」「海路」の3つのアクセスを有している交差路である点をアピールしたデザインです。右下のロゴは、地域の経済を支える「工業」と「空港」という2つのビジネスの強みを主張したものです。

ワークショップ終了後も、参加者の話し合いのエッセンスを汲み取って、デザイナーの協力を得ながら、このように「本物らしい」架空のパロディデザインに落とし込むところまでやっていきます。このようにして、徹底してこの「お遊び」に興じました。

架空のロゴデザインの実装イメージ

遊びの副産物としての学習と創造

このプロジェクトを通して、実際にロゴを作り替えるわけではありません。そう簡単に地域のロゴを変えることはできません(笑)。

大事なことは、「試しに既存のロゴを作り替えてみる」という遊びを通して、その過程で10代から70代まで幅広い年齢層の参加者が、お互いがフラットに意見を出しあい、「自分たちがこの地域をどのようなまなざしで捉えて、何を大切にしていきたいのか」相互理解と共通のビジョン形成をすることでした。

もし最初から「お互いを理解しましょう」「共通のビジョンを作りましょう」と促していたら、おそらく多様な参加者をここまで「ひとつ」にすることはできなかったでしょう。話し合いの過程で「わかりえない」という認識が強まってしまったリスクもあるかもしれません。

けれども「既存のロゴ、作り直してみませんか?」と、ある種の「破壊の衝動」をくすぐる、「この指止まれ」的な提案をすることで、チームが一つとなって、新しい意味が生まれる。これが、遊びのデザインを活用した、コラボレーション促進のひとつのイメージです。

学習や創造を中心的な目標に据えるのではなく、内発的な遊びに没入しているうちに、副産物として学びやアウトプットが生まれる「状況」をつくること。これが遊びのデザインのひとつの本質かもしれません。

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連載

遊びのデザイン:組織変革のプレイフル・アプローチ

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組織変革の方法論は、組織に潜んだ無意識の病理に迫るもの、危機感を起点に構造を再編するものなど、ネガティブなアプローチに傾倒しがちです。しかし、人と組織が変わる契機は「痛み」だけではないはずです。本特集では、仕事や日常生活に「遊び心」を取り入れることで創造性を高める「遊びのデザイン」に着目し、組織の変化を楽しむ「プレイフル・アプローチ」の可能性と方法について探究していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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