ゲームデザインが解決するもの:連載「遊びのデザイン」第4回

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ゲームデザインが解決するもの:連載「遊びのデザイン」第4回

仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高める「遊びのデザイン」。これまでの連載では、人々の内発的動機をくすぐるさまざまな仕掛けを紹介してきました。遊びのデザインを駆使すれば、トップダウン型のプロジェクトにボトムアップの力を取り戻したり、バラバラのメンバーのチームビルディングを促したり、受講生が主体的に参加する研修が設計できたりなど、組織に創造性を取り戻すための処方箋になります。

遊びのデザインの方法論を探究していく上で、遊びと深く関連する「ゲーム」のデザイン手法はとても参考になります。本記事では、ゲームデザイン論を改めて読み解くことで、仕事や生活に応用可能な遊びのデザインのヒントを探っていきましょう。

遊びとゲームの関係性

遊びとゲームには深い関係性があります。遊びとゲームはイコールであると考える人もいれば、ゲームは遊びの一種であると考える人もいるでしょう。人によっては、ゲームは競技であり、遊びでやるものではない、という人もいるかもしれません。

本記事では、「遊び」を「ゲーム」の上位概念として位置付け、「ゲーム的な遊び」と「ゲーム的でない遊び」がある、という前提で整理を進めていきましょう。

ゲーム的な遊びとゲーム的でない遊び

ここで、ロジェ・カイヨワによる遊びの古典『遊びと人間』を参考に、整理の解像度をあげていきましょう。カイヨワは、意志を前提とするのか否か、規則(ルール)に従うことで生まれるものなのか否か、という二軸で分類し、人間の遊びを以下の4象限に類型化しました。

カイヨワの4類型

・アゴン(Agon):競争を伴う遊び
・アレア(Alea):運や賭けを伴う遊び
・ミミクリ(Mimicry):真似・模倣を伴う遊び
・イリンクス(Ilinx):目眩やスリルを伴う遊び

ゲーム的な遊びは、4つのうち「アゴン」が活動の中心にあることが多いのではないでしょうか。もちろんロールプレイングゲームやシミュレーションゲームなどのように、多くのゲームには「ミミクリ」の要素も含まれています。また、運によって難易度が左右される「アレア」の要素が活用されている場合もあるでしょう。

しかしながら、多くのゲームデザインの専門書が指摘する通り、ゲームをゲームたらしめている最も重要な変数は「ルール」であり、さらにその先に明確に定義された「ゴール」の存在です。カイヨワの言葉を使えば、明確な規則のもとで、意志を持ってゴールを目指すことを楽しむこと。これが、ゲーム的な遊びの中心にある特徴なのです。

※ゲームにおけるルールとゴールの重要性については、以下の記事もあわせてお読みください。

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ゲームデザインの得意領域

仕事や生活に遊びのデザインを取り入れる上で、ゲームがどのような活動を得意としているか、整理しておきましょう。前述したゲームの特徴の考察から、ゲームデザインが得意とする領域は、以下のような特徴を有していることが見えてきます。

  • 望ましいゴールを定量的に定義することができる
  • 望ましい行動を具体的に想定することができる
  • 望ましい行動を誘発するルールに落とし込める
  • 関係者がゴールとルールの設定に前向きに合意できる

ゲームのルールとは「〜してはいけない」「〜すると点数が増える」「〜の状況では、〜しなければいけない」といったように、プレイヤーの行動を動機付け、制約するための指針です。ルールを定めるためには、対象となる具体的な「行動」が想定できる必要があり、そして行動を積み重ねた結果、達成したい「ゴール」の存在が必要です。

たとえば「夏までに2kg痩せるためにの運動量を増やす」「1年間で60万円貯金するために毎月5万円節約する」など、望ましいゴールと行動が明確なものは、ゲームの力を応用することが可能です。実際に、任天堂の『リングフィットアドベンチャー』や、貯金・節約のためのゲームアプリなどが、プロダクトとして普及していることからもわかります。

ゲームデザインの不得意領域

他方で、ゲームに向かない対象は、以下のような特徴があるでしょう。

  • 明確なゴールが存在しない(定量化できない)
  • 望ましい行動が人や状況によって異なる
  • 特定のルールに落とし込めないもの
  • 関係者がゴールとルールに納得していないもの

まず、ゴールが定義できないことには、望ましい行動やルールを設定することができませんから、ゲーム的な活動に落とし込むことは難しくなります。たとえば「幸せな人生を送る」というゴールは、極めて定性的であり、その答えやプロセスは人によって異なります。『人生ゲーム』のように「保有資産」をゴールの指標にすれば、ゲームに落とし込むことができますが、実世界では資産が幸福に直結するとは限らないからです。

また、ある程度ゴールが明確でも、そこに至るまでの行動の個人差が激しい場合にも、ゲーム化は困難です。たとえば、就職活動中の大学生にとっては「内定を決める」ことが、共通した明確なゴールと言えます。しかしながら「内定を決める」ために辿るべき経験は「自分の将来について考える」「過去の経験について内省する」「自分の強みを言語化する」「関心のある業界について分析する」など、人によってそのプロセスと様相が異なるため、大雑把なマイルストーンには落とし込めるものの、特定のルールに落とし込むことは困難です。

そしてなにより、関係者がゴールとルールに納得していない場合、どんなに活動をゲーム化したところで、行動を促進することはできません。プレイヤーが「やってみたい」「もっと上手になりたい」「ゴールをクリアしたい」と思えるからこそ、ゲーム的な活動にはアクセルがかかるのです。

もちろん昨今は、ゲームの定義や形式も拡張し、実世界と虚構世界の境界は融解しつつあり、上記の議論に当てはまらない類のゲームも増えています。しかしその中核にある本質を辿ると、そこには「ゴール」と「ルール」の組み合わせの妙があるのまた事実です。仕事や生活のあらゆる状況にゲームを応用しようとするのではなく、ゲームの特徴をよく理解した上で、戦略的に導入することが大切になるでしょう。

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組織変革の方法論は、組織に潜んだ無意識の病理に迫るもの、危機感を起点に構造を再編するものなど、ネガティブなアプローチに傾倒しがちです。しかし、人と組織が変わる契機は「痛み」だけではないはずです。本特集では、仕事や日常生活に「遊び心」を取り入れることで創造性を高める「遊びのデザイン」に着目し、組織の変化を楽しむ「プレイフル・アプローチ」の可能性と方法について探究していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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