連載「遊びのデザイン」では、仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高めるアプローチについて探究しています。
本連載では、遊びのデザインの基礎をなす思考として、「遊びを理解する(わかる)」と「遊びを創造する(つくる)」という両極の上に「解明」「分解」「編集」「発明」という4つの思考を置いて、整理していきます。
前回の記事では、既存の遊びのメカニズムについて深く理解(解明・分解)するための理論的枠組みについて解説しました。
今回の記事では、遊びを創造するための前段階に有効なトレーニングを紹介します。以前に「問いの因数分解」という考え方を紹介しましたが、いわば「遊びの因数分解」と呼べるような、遊びを「分解」することで、その性質を読み解くためのエクササイズです。
遊びを環境変数に分解する
遊びを分解するにあたって、「学習環境デザイン」の枠組みが役立ちます。学習環境デザインとは、人間の学びの環境を「活動」「空間」「共同体」「人工物」という4つの要素に分解し、それぞれを結びつけながらデザインしていく考え方です。これを「遊び」に適応すると、以下のように遊びを環境要因に分解することが可能です。
活動:どんなルール、目標、プログラムを通して遊ぶか
空間:どんな建物、家具、地形を利用して遊ぶか
共同体:どんな人たちとどんな関係性で遊ぶか
人工物:どんな道具、教材、素材を活用して遊ぶか
学習環境デザインの概要と詳細については、以下の関連動画をご覧ください。
学習環境デザイン概論:人の学びをデザインする4要素
『「未来の学び」をデザインする 空間・活動・共同体』
鬼ごっこを要素分解してみる
たとえば「鬼ごっこ」という遊びは、「鬼役 vs 子役」という関係性(「共同体」デザイン)のもとで、「鬼役が子役を追いかけ、タッチされたら鬼になる」というルール(「活動」デザイン)が設定されていることによって、面白さが成立している遊びです。
必要な「空間」には特に制約はありませんが、フィールドが制限される(ex 公園の中だけで逃げる)場合が多いかもしれません。そして「人工物」は特に必要のない、シンプルな遊びです。
鬼ごっこの環境変数のバリエーション
鬼ごっこには、上記の環境デザインを原型とした類似した遊びのバリエーションが多数存在します。(以下、その一例です)
・鬼ごっこ:鬼役が子役を追いかけ、タッチされたら鬼になる
・ケイドロ:警察役が泥棒役を追いかけ、牢屋に入れる
・隠れ鬼:かくれんぼ+鬼ごっこ
・しっぽ鬼:タッチの代わりにしっぽを取る
・ボール鬼:タッチの代わりにボールを当てる
・高鬼:鬼よりも高い所にいれば安全
・色鬼:鬼が指定した色に触れていれば安全
・氷鬼:鬼が触れると凍り、仲間が触れると解除
・手繋ぎ鬼:タッチされたら鬼と手をつなぎ鬼に加担
・目隠し鬼:鬼が目隠しし、子は手を叩いて逃げる
これらについて分解をしてみると、遊びの因数分解の意義と醍醐味がより見えてきます。
たとえば「ケイドロ」という遊びは、「鬼ごっこ」の原型をベースにしながらも、「警察と泥棒」というよりリアリティのある共同体的な文脈が持ち込まれ、さらにフィールドに「牢屋」という新たな「空間」設定をすることで、「捕まった仲間を牢屋から救出する」という新たな「活動」(ルール)が設定され、また違った面白さが創出されています。
他にも「しっぽ鬼」は、お尻に「しっぽ」という「人工物」をつけることで、また「高鬼」は、地形の高低という「空間」の要素を活用することで、原型に比べて難易度やふるまいを変質させています。また「手繋ぎ鬼」などは、鬼が増員されていく「共同体」的な要素が面白さの性質をだいぶ変えていると考察できます。
環境変数の操作による遊びの「編集」
このようにして、既存の遊びを「分解」することを通して、遊びの面白さの核がどこにあるのか、本質の「解明」に迫ることができるかもしれません。これが、「遊びの因数分解」というエクササイズです。
これが遊びを創造するための「前段階」に有効だと書いた理由は、このようにして遊びを「要素」に分解することは、遊びを「編集」するための準備にもつながるからです。
既存の鬼ごっこのバリエーションが、遊びを構成する環境変数のバリエーションであったということは、さらに既存の遊びに環境変数の操作を加えれば、新しい「鬼ごっこ」のバージョンを生み出すことができるかもしれません。それが、遊びの「編集」という考え方です。新しい遊びを創造するための具体的な方法については、また別の機会に解説したいと思います。