遊びの因数分解:連載「遊びのデザイン」第7回

/

約4分

遊びの因数分解:連載「遊びのデザイン」第7回

連載「遊びのデザイン」では、仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高めるアプローチについて探究しています。

本連載では、遊びのデザインの基礎をなす思考として、「遊びを理解する(わかる)」「遊びを創造する(つくる)」という両極の上に「解明」「分解」「編集」「発明」という4つの思考を置いて、整理していきます。

前回の記事では、既存の遊びのメカニズムについて深く理解(解明・分解)するための理論的枠組みについて解説しました。

今回の記事では、遊びを創造するための前段階に有効なトレーニングを紹介します。以前に「問いの因数分解」という考え方を紹介しましたが、いわば「遊びの因数分解」と呼べるような、遊びを「分解」することで、その性質を読み解くためのエクササイズです。

遊びを環境変数に分解する

遊びを分解するにあたって、「学習環境デザイン」の枠組みが役立ちます。学習環境デザインとは、人間の学びの環境を「活動」「空間」「共同体」「人工物」という4つの要素に分解し、それぞれを結びつけながらデザインしていく考え方です。これを「遊び」に適応すると、以下のように遊びを環境要因に分解することが可能です。

活動:どんなルール、目標、プログラムを通して遊ぶか
空間:どんな建物、家具、地形を利用して遊ぶか
共同体:どんな人たちとどんな関係性で遊ぶか
人工物:どんな道具、教材、素材を活用して遊ぶか

学習環境デザインの概要と詳細については、以下の関連動画をご覧ください。

学習環境デザイン概論:人の学びをデザインする4要素

学習環境デザイン概論:人の学びをデザインする4要素

『「未来の学び」をデザインする 空間・活動・共同体』

『「未来の学び」をデザインする 空間・活動・共同体』

鬼ごっこを要素分解してみる

たとえば「鬼ごっこ」という遊びは、「鬼役 vs 子役」という関係性(「共同体」デザイン)のもとで、「鬼役が子役を追いかけ、タッチされたら鬼になる」というルール(「活動」デザイン)が設定されていることによって、面白さが成立している遊びです。

必要な「空間」には特に制約はありませんが、フィールドが制限される(ex 公園の中だけで逃げる)場合が多いかもしれません。そして「人工物」は特に必要のない、シンプルな遊びです。

鬼ごっこの環境変数のバリエーション

鬼ごっこには、上記の環境デザインを原型とした類似した遊びのバリエーションが多数存在します。(以下、その一例です)

・鬼ごっこ:鬼役が子役を追いかけ、タッチされたら鬼になる
・ケイドロ:警察役が泥棒役を追いかけ、牢屋に入れる
・隠れ鬼:かくれんぼ+鬼ごっこ
・しっぽ鬼:タッチの代わりにしっぽを取る
・ボール鬼:タッチの代わりにボールを当てる
・高鬼:鬼よりも高い所にいれば安全
・色鬼:鬼が指定した色に触れていれば安全
・氷鬼:鬼が触れると凍り、仲間が触れると解除
・手繋ぎ鬼:タッチされたら鬼と手をつなぎ鬼に加担
・目隠し鬼:鬼が目隠しし、子は手を叩いて逃げる

これらについて分解をしてみると、遊びの因数分解の意義と醍醐味がより見えてきます。

たとえば「ケイドロ」という遊びは、「鬼ごっこ」の原型をベースにしながらも、「警察と泥棒」というよりリアリティのある共同体的な文脈が持ち込まれ、さらにフィールドに「牢屋」という新たな「空間」設定をすることで、「捕まった仲間を牢屋から救出する」という新たな「活動」(ルール)が設定され、また違った面白さが創出されています。

他にも「しっぽ鬼」は、お尻に「しっぽ」という「人工物」をつけることで、また「高鬼」は、地形の高低という「空間」の要素を活用することで、原型に比べて難易度やふるまいを変質させています。また「手繋ぎ鬼」などは、鬼が増員されていく「共同体」的な要素が面白さの性質をだいぶ変えていると考察できます。

環境変数の操作による遊びの「編集」

このようにして、既存の遊びを「分解」することを通して、遊びの面白さの核がどこにあるのか、本質の「解明」に迫ることができるかもしれません。これが、「遊びの因数分解」というエクササイズです。

これが遊びを創造するための「前段階」に有効だと書いた理由は、このようにして遊びを「要素」に分解することは、遊びを「編集」するための準備にもつながるからです。

既存の鬼ごっこのバリエーションが、遊びを構成する環境変数のバリエーションであったということは、さらに既存の遊びに環境変数の操作を加えれば、新しい「鬼ごっこ」のバージョンを生み出すことができるかもしれません。それが、遊びの「編集」という考え方です。新しい遊びを創造するための具体的な方法については、また別の機会に解説したいと思います。

SNSシェア

著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

CULTIBASEについて

CULTIBASE(カルティベース)は、
人と組織の可能性を 見つめなおし、
これからの経営・マネジメントを探究するメディアです。

もっと知る

CULTIBASEをもっと楽しむために

無料の会員登録を行うことで、マネジメント、経営学、デザイン、ファシリテーションなど、組織づくりに関する1000本以上のオリジナルコンテンツと会員向け機能をご利用いただけます。

無料で会員登録する