チームを停滞させる諸問題はなぜ起こるのか:組織の異なる2つのモードの間で(前編)

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チームを停滞させる諸問題はなぜ起こるのか:組織の異なる2つのモードの間で(前編)

ミーティングで誰も意見を述べない。考えがマンネリ化し、新しい発想が生まれない。ミスを恐れて、誰もリスクを取らない。このような、チームメンバーの魅力と才能が埋もれたまま、ポテンシャルが抑制されている状態は、どのようにして生まれてしまうのでしょうか。

上司のマネジメントに問題があるのでしょうか。それとも部下のやる気やコミュニケーションスキルが足りないせいでしょうか?さまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられますが、大きな要因のひとつに、組織を取り巻く時代環境の大きな変化と、それにチームが適応する「過渡期」によるものがあるのではないか、と考えています。

効率的なものづくりを支えた”ファクトリー型”の組織

現代においてチームのポテンシャルが抑制されているように感じられる要因は、前時代に求められていたトップダウン方式の「ファクトリー型」の組織形態に、仕事のスタイルを適応させた結果だと考えられます。

日本経済が飛躍的に成長した1900年代後半は、市場が右肩あがりに成長し、とにかく技術をアップデートさせながら製品を改善していれば、売上を高めることができました。一度ヒットした製品が売れ続け、そう簡単には市場の「ものさし」は変わらず、目の前の「改善」がすぐに成果に直結する世界でした。高度経済成長によってものづくりは大幅に発展し、さらに1970年代以降はコンピューターの普及からソフトウェア開発の方法論も発展しました。

この時代のものづくりの進め方は、作業の工程を「要件定義」「外部設計」「内部設計」といったように分割して、段階的に進めていく方法が主流でした。私は、この時代の仕事のスタイルを「ファクトリー型」と呼んでいます。ファクトリーとは、工場のことです。

ファクトリー型におけるチームの意義は、作業を効率的に分担するためです。したがって、なるべく同一の職能を持ったメンバーでチームは構成されます。トップダウン的に定義された「設計図」に従って各人に作業を振り分けたら、それぞれのメンバーはミスなく、効率的に、作業を遂行することが求められます。ソフトウェア工学では、上から下に「水が流れ落ちる」ように工程が進むことから、このやり方は「ウォーターフォール型」とも呼ばれます。

ありあわせで試行錯誤を重ねる”ワークショップ型”の組織

しかし現代は、昨日うまくいったことが、明日には通用しなくなるかもしれないほど、外部環境の変化が激しい時代です。このような状況においては、仕事のスタイルを「ファクトリー型」から「ワークショップ型」に切り替える必要があります。

ワークショップとは、工房のことです。あらかじめ定義された精緻な設計図は存在しません。目の前の素材や道具を使って手を動かし、ありあわせの試作を繰り返しながら、その状況にフィットした「目的」そのものを自ら発見していかなくては、工房のものづくりは進みません。これは近代的な「工場」が誕生するより以前からあった方法ですが、安定した正解が存在しない時代においては、ワークショップ型のほうが柔軟で効果的なアプローチといえるでしょう。

ワークショップ型の仕事のスタイルにおいては、素材や道具に対する「こういうものだ」「こうすべきだ」という思い込みや、昨日までの「成功パターン」のようなものは、新しい発想の邪魔になります。固定観念にとらわれずに実験を繰り返し、常に新しい可能性を探索する姿勢が求められます。

ソフトウェア開発では、ウォーターフォール型に対置させて、多様な職能を持ったメンバーでチームを構成し、短い工程で仮説検証を繰り返し、学習しながら進めていく開発方法を「アジャイル(俊敏な)型開発」と呼び、注目されています。

ワークショップ型の仕事のスタイルは、フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースが著書『野生の思考』において提案した「ブリコラージュ」という考え方にも通じます。

2つのスタイルにおけるチームの意義の違い

ファクトリー型とワークショップ型の仕事のスタイルを比較すると、以下のような違いがあります。

スタイルによって、チームの意義や、コミュニケーションの在り方も異なります。ファクトリー型においては、チームは分業の手段でした。最初に作業を割り振ってしまえば、進捗の共有や報告などを除くと、逐一コミュニケーションをとる必要はありませんでした。

しかしワークショップ型の醍醐味は、仕事の過程におけるコミュニケーションにこそあります。一人の専門性や視点だけで新しい実験を繰り返すことには限界があるため、なるべく多様なメンバーでチームを構成します。そしてまだ「やるべきこと」が定まっていないうちから、仲間たちと絶えず対話を重ねて、お互いの「異なる視点」に刺激を受けながら、仕事を進めていくのです。

ワークショップ型では、ときに試作したものが、思うようにうまくいかないこともあるでしょう。異なる前提に立った相手の意見を理解できなかったり、納得できなかったりすることもあるでしょう。しかしそれを乗り越える過程には学びが詰まっています。失敗も含めた試行錯誤の過程に、ワークショップ型の喜びがあるのです。

スタイルの過渡期に起こる問題

これらは、業種によっては、必ずしも「どちらが正しい」とは断定できないかもしれません。外部環境の変化が少なく、業務内容をマニュアル化しやすく、長期的な計画が立てやすい状況においては、現在でもファクトリー型のほうが着実に成果を出すことができるでしょう。他方で、外部環境の変化が大きく、業務に臨機応変さや創造性が求められる業種において、いつまでもファクトリー型のままでいると、組織が機能不全に陥ってしまいます。

両利きの経営でいうところの、既存業務を改善する「知の深化」を担当する部署はファクトリー型の比重を強く残して、新規事業を開拓する「知の探索」を担当する部署はワークショップ型に切り替えるなど、組織におけるバランスも重要になるでしょう。

いずれにしても、この対極にある異なるスタイルを、組織において切り替えていく「過渡期」において、チームの様々な問題が引き起こされます。次回の記事では、そのメカニズムについてもう少し丁寧にみていくことにします。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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