組織の創造性を阻害する4つの現代病と処方箋

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組織の創造性を阻害する4つの現代病と処方箋
会議の話し合いが活発にならず、なかなか良いアイデアが生まれない。
何かアイデアを思いついても、組織が動かず、なかなか実現されない。
メンバーの個性や才能が活かされていない。チームにまとまりがない。
組織が近視眼的で、イノベーションどころか、職場がなかなか変わらない。

こうした悩みの真因を探ると、必ずと言っていいほど、人とチームの「創造性」の問題に行き着きます。すなわち、メンバーひとりひとりのポテンシャルが発揮されていない状態。チームの関係性が固着化し、深いコミュニケーションが生まれなくなっている状態。さまざまな制約によって、組織全体が変わりたくても変われなくなってしまっている状態です。

本記事では、組織の創造性を阻害する要因について整理することで、組織の創造性を取り戻すための突破口について検討していきます。

組織が創造的である状態とは

そもそも、”組織が創造的である状態”とは、どのような状態でしょうか。「創造性(creativity)」に関する先行研究を読み解くと、個人に関する知見、チームに関する知見、組織そのものに関する知見など、階層的である点が特徴的です。

個人レベルの創造性

創造性研究の系譜を辿ると、最も蓄積があるのは「個人の創造性」に関する知見です。特に心理学領域においては、1960年頃から実験研究が盛んに行われ、人々が創造性を発揮するための要件について研究が重ねられました。大掴みに概略すると、固定観念にとらわれずにアイデアを生み出せることや、内発的動機(衝動)に基づいて行動できていることなどが、個人の創造性の象徴として捉えられてきました。

チームレベルの創造性

しかし組織の事業活動において、個人が創造的であるだけでは十分ではありません。2000年代になると、チームのコラボレーションに関する関心が高まり、集団のコミュニケーション(対話)を通して新しいアイデアが生まれるメカニズムや、それを支えるチームの多様性や環境設定など、チームレベルの創造性が重視されるようになりました。

組織レベルの創造性

また、最近では、イノベーションの前提として「組織学習」や「両利きの経営」の概念が注目されている通り、組織の理念・アイデンティティ・ルーティンが刷新され続けていくことが、組織レベルの創造性として、重視されるようになってきました。

以上から、組織が創造的である状態とは、個人・チーム・組織のそれぞれのレベルにおいて創造性が発揮され、接合している状態といえるでしょう。

具体的には、個人が衝動に基づき柔軟な発想を生成し、それがチームの創造的な対話の源泉となっている状態。そうした現場の活動と、組織の理念の相互作用が起き、理念が納得されながらも、刷新され続けるような状態。これによって、個人・チーム・組織にとっての「新結合」が持続的に生まれやすくなっている状態。それが、組織からイノベーションが生まれ続ける土壌となるのです。

組織の創造性を阻害する4つの要因

このような階層的な組織の創造性は、さまざまな要因によって阻害されます。筆者は、特に以下の4つの要因が、多くの組織に蔓延する“現代病”のようなものだと考えています。

1.認識の固定化
2.関係性の固定化
3.衝動の枯渇
4.理念の形骸化

1.認識の固定化

第一の要因は、「認識の固定化」の病いです。組織を構成する一人ひとりに暗黙のうちに形成された固定観念によって、物事の深い理解や、新しい発想が阻害されている状態を指しています。長年、特定の事業領域で改善を繰り返してきた結果、過去の競争優位性の源泉であったはずの専門性が、未来の発想の囚われになってしまう状況です。

2.関係性の固定化

第二の要因は、「関係性の固定化」の病いです。「認識の固定化」は、チームの中でも副次的に悪影響を及ぼします。それぞれの当事者に形成された暗黙の前提は、他者に対しても、たとえば「若手は主体性がない」「技術者は頭が堅い」などといった「決めつけ」を生み出し、お互いの関係性を固着化させます。認識に断絶があるまま関係性が凝り固まると、相互理解や、創造的なコミュニケーションが阻害され、いわゆる「わかりあえない」状態を生み出します。

3.衝動の枯渇

第三の要因は、「衝動の枯渇」の病いです。認識と関係性の固定化は、結果として、個人の内側から湧き上がる、本来あるはずの「衝動」を抑圧し、主体的な行動や発想のストッパーとして働きます。

上司から「頭が堅い」を決めつけられている技術者が、日常の業務において、柔軟な発想を披露できるでしょうか。おそらく心理的安全性が失われ、「どうせ提案しても、聞いてもらえない」「どうせアイデアを考えても、実現されない」といった考えにつながってしまうはずです。

4.理念の形骸化

第四の要因は、「理念の形骸化」の病いです。認識と関係性が固定化し、衝動が枯渇したチームでは、何のために働くのか、組織の存在意義に対する納得度やコミットもやがて失われてしまいます。そうした状況が長く続くと、組織が掲げた理念は形骸化し、現場の個人やチームの活動とは完全に切り離されたものになっていくでしょう。

上述の通り、これらの要因は絡み合っています。日々の業務によって固定化された個人の認識が、関係性を固定化させ、それによって個人の衝動は悪循環的に抑圧されていく。そうした状況が継続することで、組織と現場の解離が進み、理念が形骸化していく。影響力を失った理念は、現場のエネルギーをさらに失わせていきます。

解決の鍵は、ミドルマネージャーのファシリテーションスキルにある!?

これらの問題は、経営者はもちろん、新人のメンバーまで、組織を構成するすべての人にとって”自分の問題”であるべきです。

しかし筆者は、これらの絡み合った複雑な問題の解決の鍵を握るのは、組織のミドルマネージャーであると考えています。

現場の個人と直接的にコミュニケーションを取りながら、理念を反映した事業と組織の推進する立場にあるマネジメント層。重い責任から精神的な負荷が高く、体力的にも忙殺されがちなポジションではありますが、だからこそ、組織のミドルマネージャーがこれらの”現代病”に立ち向かい、組織の創造性を取り戻す「組織ファシリテーション」の力を手に入れることで、組織の創造性を高めるレバレッジポイントになると考えています。

以下の動画コンテンツ「組織ファシリテーション論 最新講義:組織の創造性を賦活する見取り図」では、上記の問題構造の詳細と、それを解決する処方箋となる「組織ファシリテーション」の全貌について解説しています。是非あわせてご覧ください。

組織ファシリテーション論 最新講義:組織の創造性を賦活する見取り図

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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