組織の創造性を賦活する「組織ファシリテーション」とはなにか

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組織の創造性を賦活する「組織ファシリテーション」とはなにか

組織と事業が対峙する多くの問題は、人とチームの「創造性」の問題に行き着きます。すなわち、メンバーひとりひとりのポテンシャルが発揮されていない状態。チームの関係性が固着化し、深いコミュニケーションが生まれなくなっている状態。さまざまな制約によって、組織全体が変わりたくても変われなくなってしまっている状態です。

以前の記事『有機体としての組織をデザインする:二項対立を乗り越える理論的基盤』では、創造的な組織の状態をモデル化した「Creative Cultivation Model(CCM)」を提案し、創造性の阻害要因や、現代組織論が陥りがちな二項対立を乗り越えるための見取り図を示しました。

本記事では、CCMに基づいて、組織の創造性を賦活(ふかつ)するための総合的な実践知である「組織ファシリテーション(Organization Facilitation)」の全体像について解説します。

組織の創造性を支える全体論的なモデルの検討

組織ファシリテーションとは、創造的な組織の状態をモデル化した「Creative Cultivation Model(CCM)」を実現していくための方法論です。

CCMで表現した通り、組織とは、個別の要素が有機的に繋がりあった、生命システムです。このような組織を支援するための方法論もまた、本来的には全体論的(holistic)な、有機的なアプローチが必要であるはずです。

CULTIBASEとして、筆者らMIMIGURIとして、CCMを実現するための方法論の総称に名前をつけるときに、「組織ファシリテーション」と呼ぶか、「組織デザイン思考」と呼ぶか、あるいは「組織マネジメントプロセス」とでも呼ぶか、大いに悩み、議論となりました。

なぜならば、CULTIBASEでも継続して探究を続けている「デザイン」「マネジメント」「ファシリテーション」といった領域は、各論的なフレームワークとして消費されている現状はありながらも、本来的には、人と組織の全体性と本質を捉えようとしてきた実践領域であるはずだからです。

実際に、MIMIGURIが組織の課題にアプローチする際には、「デザイン」「マネジメント」「ファシリテーション」の実践知を有機的に組み合わせながらプロジェクト設計するため、これらの方法論は、近似的に統合可能である、という直感がありました。

デザイン思考を基盤に、組織の介入過程を記述する

組織に対するデザイン、マネジメント、ファシリテーションの近似的なモデルを検討するにあたって、思考過程の汎用化が進んでいる「デザイン思考(design thinking)」を土台に議論を進めていきましょう。

デザイン思考のモデルは多数ありますが、以下はスタンフォード大学 d.schoolが提案した5STEPのモデルで、広く普及しています。

デザインの汎用的な思考過程を「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」の5段階でまとめたこのモデルは、非常に明快でわかりやすく普及に貢献した反面、後に批判の対象にもなりました。その理由は、示されている初手が「ユーザーに対する共感」であったことから、デザイナーにとって前提とされていた作り手の「ビジョン」が軽視されたまま活用されてしまう点にありました。この指摘を踏まえて、後発のモデルたちは、初手に「ビジョン」「目的」「哲学」を描く過程を重視したものも、提案されています。

デザインとは、米国のコミュニケーション学者であるクリッペンドルフが述べた通り、このような作業を通して人工物に意味を付与することであり、ここでいう人工物にはコミュニティ、ネットワーク、プロジェクトなども含まれます。したがって、上記のデザインの思考過程は、組織という人工物に対しても、応用可能だと考えられます。

組織版デザイン思考としての、組織ファシリテーション

ここまでの議論を踏まえてまとめた「組織に対するデザイン思考過程」を表したものが、以下の図になります。

1.[哲学・パーパス] 組織の理念を描く、もしくは立ち戻ることで、真の目的を明確にします。
2.[組織リサーチ] CCMに基づき、組織の現状を調査し、手がかりを収集します。
3.[仮説設定・課題定義] 何が本当に解くべき課題(問い)なのか、仮説を設定します。
4.[組織プロトタイピング] 組織をよりよい方向に変化させる介入を行い、仮説を検証します。
5.[形成的評価・定着] 評価・改善によって長期的な変化を生み出し、組織に定着させます。

こうしてまとめてみると、これはすなわち、組織に対峙するファシリテーターが、組織をよりよい方向性にファシリテートしていく過程や、組織コンサルタントが、組織を構造改革していくプロセスにも、類似していることがみえてきます。

私たちは、この方法論を総称して「組織ファシリテーション(Organization Facilitation)」と呼んでいます。デザインは目に見えるプロダクトを作ることを、マネジメントはトップダウン的なニュアンスを想起させるために、流動的かつ有機的に生命の学習活動を賦活させる営みとして、”ファシリテーション”という言葉が馴染むと考えたからです。

組織ファシリテーターが忘れてはならないことは、組織には「目に見える問題」と「目に見えない問題」があるという、グループダイナミクスの知見です。基盤とするCCMは、樹木のイメージを用いて、そのことを表現していました。

組織ファシリテーションモデルの全体像

この横軸の手順モデルに、可視⇄不可視の「縦軸」を挿入することで、組織ファシリテーションのモデルは立体化します。

それぞれの工程に必要な実践知は、どれも奥深いもので、すべてに習熟する必要はありません。しかしそれぞれの知を有機的に編み合わせることで、組織の創造性を賦活する「組織ファシリテーション」が可能となるのです。

たとえば「組織リサーチ」の段階では、組織の構造やサーベイなど、目に見える「定量的調査」も大きな手がかりになりますが、現場の個人の内面やチームの関係性は、聞き取りや観察調査などの目に見えない部分にフォーカスした「定性的調査」も両方必要です。

また「組織プロトタイピング」とは、組織をよりよい状態へと変化させていく介入全般を指しています。ここにおいても、「構造改革」「制度設計」「CIなどクリエイティブ設計」など、目に見える介入が重要な一方で、「研修」によって現場の個人に学習を起こしたり、「ワークショップ」を開催してチームに対話を促したりすることで、学びや対話による目に見えない変化を起こしていく介入も不可欠です。

組織ファシリテーションの技に習熟していくためには、組織に関する総合的な知見を、学際的*に探究していく必要があります。

CULTIBASEでは、「組織ファシリテーションの知を耕す」ことをコンセプトにしながら、組織ファシリテーションに関わる広範な知を束ね、結び付けながら探究していく形で、今後もコンテンツを充実させていきます。

以下の動画コンテンツ「組織ファシリテーション論 最新講義:組織の創造性を賦活する見取り図」では、「組織ファシリテーション」の全体像について解説したのちに、上記のモデルに位置づいているそれぞれの実践知を深めるための学びのガイドラインを示しています。是非動画をご覧いただき、気になるコンテンツから探究を深めてみてください。

組織ファシリテーション論 最新講義:組織の創造性を賦活する見取り図

* 学際的:異なる学問分野にまたがること

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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