様々な価値観を持つメンバーがお互いを深く理解し合うためのコミュニケーション手法である「対話(Dialogue)」。本連載では、こうした対話が持つ集団の創造性を引き出す力に着目し、「新たな意味やアイデアが創発する対話」である「創造的対話」を生み出すための基本的な知識について解説します。
前回の記事では、対話と創造的対話の定義を確認した上で、どのようなプロセスを経て、対話が深まり、創造的になっていくのかを簡単に紹介しました。
「対話が生み出す『創造性』の捉え方:連載『創造的対話入門』第1回」より
第2回となる今回は、それぞれの領域において行われるコミュニケーションがどのような特徴を持っているのかについて解説します。「会話」「議論」「対話」など、一見混同されてしまいがちなコミュニケーションはどう異なるのか。ファシリテーターとして使い分けていくために知っておきたいポイントも交えて紹介していきます。
儀礼的会話:場の「パターン」に順応することで始まる“第1の会話”
対話に関する様々な理論や考え方を提唱してきたC.オットー・シャーマーは、それぞれの領域には、そこに入るための条件が存在するとして、その条件のことを「入場券(チケット)」と呼んでいます。儀礼的会話の入場券は、「順応することへの(無言の)要求に応じること」。その上で、「この種の会話でうまく効果を発揮するためには、参加者は実際に心の中にあることを言うのではなく、礼儀正しい言葉を交わすといった、その場の支配的なパターンに従う必要がある」とも述べています。
儀礼的会話の中で語られる内容は、基本的に当たり障りのない、建前的な発言に終始します。話し手が実際に心の中でどう思っているのかはさほど重要視されず、普段からよく使っているお決まりのフレーズを多用しながら、会話を進めていきます。聞き手も、相手の立場や肩書き、役割から次に語られる内容をある程度察知している場合が多く、例えば、「この人は営業部門の人だから、どうせこういうことを言うだろう」といったふうに、ある程度予測を立てた上で話を聞いているケースがほとんどです。
討論:異なる立場の表明によって始まる“第2の会話”
儀礼的会話の次の領域は、「討論」です。この領域における「入場券」は、「人とは異なる立場を取り、異なる考え方を示す意欲」を持つことだと、シャーマーは述べています。また、この領域に入ると、意見の対立から場の緊張が高まり、参加者が気まずい思いを味わうこともよくあります。例えば会議やワークショップなどで、儀礼的会話を脱してそれぞれが自分の意見を言い始める中で、この「討論」の気まずさに耐えかねた参加者が、再び会話の流れを儀礼的会話に戻し、お茶をにごそうとすることがあります。
しかし、最終的に参加者が深く対話し、お互いを深くわかり合っていくためには、この「討論」の領域で、全員が心に思っていることを話すための場が整っていることが必要不可欠です。そのため、「討論」の領域でファシリテーションを行う際には、たとえ意見の衝突があったとしても、安易に領域が戻らないよう注意して関わることが大切です。
探究的対話:自分自身を俯瞰的に捉え、意味づけや価値観の探究を行うコミュニケーション
続く3つ目の領域は「探究的対話」です。シャーマーはこの領域について、勝ち負けについては脇に置き、自分と相手、双方が大切にしている意味付けや価値観の探究的な語り合いが求められることを述べています。
「探究」を行う上での聞き方として、自身の判断を留保し、相手に対して共感的に話を聞くことが重要となります。イギリスでは「相手の靴を履いてみる」ということわざがあるそうですが、まさにそのようなイメージで、相手の立場に立ってみて、共感的に耳を傾けてみると良いでしょう。
また、「探究的対話」やこの後の「創造的対話」においては、参加者の一人ひとりが、自分自身を「全体の一部」として見なす視点を持っているかどうかも大きなポイントです。こうした視点の持ち方について『U理論』の第1版では、例として、映画館で映画を観る時に、目の前のスクリーンしか見ていなかった状態から、映画を撮影したカメラマンや観客、また、観客である自分自身を俯瞰的に見ているようなものと説明されています。このように自分自身の内面を俯瞰的に捉え直す視点を持つことができると、自分たちの振る舞いや立脚している視点の偏りに気づきやすくなり、勝ち負けに囚われない「探究的対話」に入りやすくなるのです。
創造的対話:上位の目的/関心に向けて生成的にアイデアを出し合うコミュニケーション
最後は領域4「創造的対話」です。創造的対話では、これまでの個人の立場や価値観を理解し合った経験を踏まえ、全員にとってのより上位の目的/関心に目を向けていくことが特徴として挙げられます。個から全体に目を向け直し、この場にいる全員にとって必要な未来に焦点をあて、それらを実現する上でのアイデアについて生成的に語り合います。
また、領域3が直接的に関わりのある個人や組織同士のネットワークによって構成されるものであるとすれば、この領域4は、間接的には関係し合う要素も包含した”生態系(エコシステム)”として構成されるものだとシャーマは『U理論』の中で論じています。さらに、ともに領域4に足を踏み入れ、深い絆を築いた集団やチームは、長い年月を経ても、わずかな時間で同じようなつながりを築くことができるとも述べられています。
まとめ
これまで説明してきた領域1から領域4までの、会話のイメージを図でまとめると以下のようになります。
今回の記事では、創造的対話に至るまでの4種類のコミュニケーションについて、解説しました。非日常的なワークショップなどだけでなく、日常的な会議の中でも有効な区分となっておりますので、ぜひ意識しながらファシリテーションをしてみてください。
参考文献
C・オットー・シャーマー, 中土井僚, 由佐美加子. 2010.『U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』英治出版.
C・オットー・シャーマー, 中土井僚, 由佐美加子. 2017. 『U理論[第二版]――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』英治出版.
Joseph,Jaworski.; Claus,Otto,Scharmer. 2000. Leadership in the New Economy:Sensing and Actualizing Emerging Futures.
株式会社ヒューマンバリュー, 「ダイアログ~探求を深め、新たな価値を生成する話し合いのあり方~」, 2009,
編集・水波洸