有機体としての組織をデザインする:二項対立を乗り越える理論的基盤

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有機体としての組織をデザインする:二項対立を乗り越える理論的基盤

組織と事業が対峙する多くの問題は、人とチームの「創造性」の問題に行き着きます。すなわち、メンバーひとりひとりのポテンシャルが発揮されていない状態。チームの関係性が固着化し、深いコミュニケーションが生まれなくなっている状態。さまざまな制約によって、組織全体が変わりたくても変われなくなってしまっている状態です。

以前の記事『組織の創造性を阻害する4つの現代病と、その処方箋』では、組織が創造的である状態を、個人・チーム・組織のそれぞれのレベルから階層的に整理し、組織というシステム全体の創造性を阻害する要因を以下の4つの”現代病”による悪循環によって解説しました。

組織の創造性を阻害する現代病

1.認識の固定化
2.関係性の固定化
3.衝動の枯渇
4.理念の形骸化

本記事では、これらの阻害要因に対峙し、組織に創造性を取り戻すための見取り図である「Creative Cultivation Model(CCM)」について解説します。

創造的な組織の状態の模式図:Creative Cultivation Model

CULTIBASEでは、イノベーションが生まれ続ける創造的な組織の状態の模式図として「Creative Cultivation Model(CCM)」を掲げ、サービス全体のコンセプトとしています。”cultivate”とは、土地や田畑を耕したり、作物を栽培したりすることを意味した言葉で、人や組織の創造性を育む場面でもよく使われる英単語です。

樹木に見立てたこのモデルは、モデル名通り、人と組織の創造性の土壌が耕された状態を表しており、個人レベル、チームレベル、組織レベルの各階層が有機的に接合し、組織がいかに複雑な生命システムを成しているかを表しています。

CCMは、具体的な実践の手順を表したものではありませんが、前述した4つの創造性の阻害要因に陥らないように、組織の健全さを保つための見取り図のようなものです。

まず第一に確認すべきは、現在の組織の在り方を端的に表現した「理念」が掲げられているかどうか、です。そして、理念を体現した事業と組織が形作られているか。組織の根幹を成す「組織」「理念」「事業」の一貫性を確認します。

組織の問題は、目に見えているところばかりでなく、目に見えない個人の内面や、チームの関係性(ヒューマンプロセス)によって引き起こされます。個人の衝動が抑圧されていないか、チームの対話的な関係性が実現されているか、その中で個人の衝動が活かされているかについても観察が必要です。

日々の組織開発や事業開発は、理念や戦略に合致していることも重要ですが、チームの対話から紡がれる「意味」によって構成されていることが重要です。この考え方は、社会構成主義の考え方に基づいており、対話型組織開発や、意味のイノベーションプロセスのベースとなっています。詳しくは以下の動画で端的に解説しているため、是非参照してみてください。

『現実はいつも対話から生まれる』

最後に、掲げている理念が現場に浸透し、個人の衝動やチームの対話に影響を与えているかどうか。そして日々の組織学習によって、理念そのものが再解釈・更新され続けるボトムアップ型の力が働いているかどうかも、中長期的には重要です。

局所的なアプローチは、近視眼的な二項対立を生み出す

CCMで表現した通り、組織とは、個別の要素が有機的に繋がりあった、生命システムです。このような組織を支援するための方法論もまた、本来的には全体論的(holistic)な、有機的なアプローチが必要であるはずです。

しかしながら、現代の組織論は、採用、育成、マーケティング、生産管理など、書店のビジネス書棚のように区分けされ、各論的に分断されたまま、機械論的に発展を遂げてきました。

この状況は、腰が痛いときに、整形外科に行くべきか、消化器内科に行くべきか、神経科に行くべきか、はたまた休むべきなのか、悩まれる状況に通ずるかもしれません。顕在化した問題を解決するために、特定の”部分”に最適化した処方箋を採用すると、別のある”部分”を見えなくさせるリスクを孕んでいます。

組織の問題も同様に、局所的に切り取ろうとすると、必ずと言っていいほど、私たちは近視眼的な二項対立に狭窄されていきます。

商品開発における「デザイン思考」と「アート思考」の対置。人間に向き合う「組織開発」と構造に向き合う「組織デザイン」の相容れなさ。組織か、事業か。管理か、自由か。変化か、安定か。さまざまなジレンマが、ビジネスのノウハウを取り巻いています。

二項対立を止揚させる「対話」が、組織の創造性を保つ

組織は常に、複雑な葛藤のなかで成り立っています。人間に交感神経と副交感神経が存在するように、目先の二項対立を容易に解消させようとせずに、高次に止揚させようとすること。矛盾に向き合い、受け入れること。そのような感覚が、組織に全体性を取り戻し、人々の創造性を輝かせる上で、大切になってくると考えています。

CULTIBASEが大切にしているCCMは、「ヒトか?コトか?」「ハコか?モノか?」といった、組織が陥りがちな二項対立を高度に両立させようという態度も示しています。また、樹木はその断面を切り取ると、木が生きた証である「年輪」が現れます。これはまさに、刻一刻と変わり続けるプロセスと、変わらない何かを残していくことの葛藤が共存した状態(=「変化か?安定か?」)の象徴ともいえるでしょう。

CCMの中心には、チームにおける「創造的対話」が位置づいています。内部の絶えざるコミュニケーションを通して、さまざまな二項対立を高度に両立させようとし続けること。そのような状態を実現することが、創造的な組織をデザインするための原則であること。そのような現代組織論に対するメッセージも、CCMには込められているのです。

以下の動画コンテンツ「組織ファシリテーション論 最新講義:組織の創造性を賦活する見取り図」では、CCMを実現するための総合知である「組織ファシリテーション」の全体像について解説しています。あわせて是非ご覧ください。

組織ファシリテーション論 最新講義:組織の創造性を賦活する見取り図

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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