創発的な学びを誘発するワークショップ型研修のファシリテーションのポイント

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創発的な学びを誘発するワークショップ型研修のファシリテーションのポイント

組織学習のニーズが多様化したことによって、企業の集合研修は従来の階段型の学びを促すインストラクショナルデザインだけでなく、創発的な学びを誘発するワークショップデザインも組み合わせた、設計のバリエーションの拡充が求められています。また、それに伴って、ファシリテーションの技術のアップデートも必要です。

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本記事では、ワークショップ型研修のファシリテーションのポイントについて、東京大学の山内祐平さん著の論文『教育工学とアクティブラーニング』(教育工学会論文誌 2018年)を題材に、ワークショップ型研修のファシリテーションの技術について、考察していきます。

アクティブラーニングの活動の3レベル

創発的な学びを誘発するワークショップ型研修は、自ら能動的に学びに向かう「アクティブラーニング」に分類されます。本論文は、この10年間に教育工学会に掲載されたアクティブラーニングに関する研究の動向をレビューしながら研究課題や今後の展望について述べた総説論文です。その中で紹介されていたアクティブラーニングの方法の3レベルの分類が、明快で参考になります。以下、論文から引用した記述です。

協調学習や問題解決学習は、アクティブラーニングのために新たに開発された技法ではないが,その中心的には方法として位置付けられている.そのため,次元が違う複数の教育方法が混在しており,方法を列挙しただけではその構造がわかりにくい.そのため,アクティブラーニングの方法を3つのレベルに分類し,理解の一助としたい.


レベル1は,「知識の共有と反芻」に関する方法である.アクティブラーニングにおいては,教員から学生へ情報が提示されるだけではなく,学生がそれを主体的に解釈し,話し言葉や書き言葉で表出することが求められる.特に「書く」活動は分析や統合に直結するため重要であり,ミニットペーパーのように授業中に書いた文章を学習者同士や教員と共有し,学習者が学んだことを反芻する方法はその代表的な例である.


レベル2は,「葛藤と知識創出」に関する方法である.多様な背景を持つ複数の学習者が相互作用すると意見のぶつかりあいが起きるが,それを乗り越える過程で新たな知識が生みだされる.ジグソー法などが典型であるが,協調学習の多くは社会的相互作用の過程を知識創出につなげることを目的として行われている.


レベル3は,「問題の設定と解決」に関する方法である.問題基盤型学習(Problem Based Learning)とプロジェクト学習(ProjectBased Learning)が例として考えられる.この2つの方法は課題や正答があらかじめ決まっているかどうかという違いはあるものの,学習者が問題を解決するという基本的な図式は共通しており,アクティブラーニングを実現する最も高度な方法としてとらえられる.


上位レベルの方法は,下位レベルの方法を道具的に使用することがある.例えば,プロジェクト学習において協調学習は一般的であるし,協調学習において学習者の意見を書き言葉で共有することは頻繁に行われている.

山内(2018)から引用

レベル別のファシリテーションのポイント

上記はアクティブラーニング型の授業実践を分類したものですので、必ずしもワークショップデザインを活用した集合研修の形式を網羅したものではありませんが、上記のレベルそれぞれに必要な支援方法を検討することには、意義があります。

レベルが異なれば、プログラムデザインのロジックも異なるものになりますが、ファシリテーターの役割もまた異なるものになります。以下、筆者(安斎)の試論的な整理です。

レベル1「知識の共有と反芻」

このレベルの研修では、一定の知識をレクチャーしながら、学んだ知識をアウトプットさせながら理解を深めることが主眼です。知識の内容によって、インストラクショナルデザインで設計できるものと、ワークショップデザインが必要なものとに分かれるでしょう。

いずれにせよ、ファシリテーターに求められる技術・工夫は、知識の明快な解説、課題の教示、適切なタイミングでのヒントの提示、ワークの時間の管理などがポイントになるでしょう。

レベル2「葛藤と知識創出」

参加者同士の意見や立場に適度な葛藤が生まれるプロセス設計と、葛藤を乗り越えたくなるやりがいのある課題設定が必要です。

このレベルでは、徐々に「うまくいかないグループ」が出てくることが想定されるので、各グループの進捗の把握(グループ数が多いと、状況をモニタリングするのにもまたスキルが必要です)、意見が衝突してしまった際の交通整理、また理解の深化を促すための「問いかけ」など、足場かけを充実させることがファシリテーションのポイントになるでしょう。

レベル3「問題の設定と解決」

このレベルでは、プログラム設計もかなり曖昧かつ複雑になりますが、それに合わせてファシリテーションも複雑なものになります。

レベル1、2でポイントとなった工夫はもちろん、時にプロジェクト学習においては、学習者自身が意味を感じられる問題を設定できるように、過去の経験の内省を促したり、内発的に動機付けたりする働きかけが必要です。

また、プロジェクト学習においては解決策のアイデアの質が経験学習の質に影響するため、レベル2のように問いかけて参加者自身の自発的な気づきを支援するだけでなくときにファシリテーター自身が具体的なアイデアを提案したり、発想の視座を示すことで、参加者に揺さぶりをかけていくことが必要になる場面も増えてきます。

以上はあくまで教育工学領域で議論されているアクティブラーニング型の授業実践を参考にした考察ですが、組織課題や学習目標の複雑化に合わせて、プログラムの構造とファシリテーションの柔軟性の要件が異なる点は、意識しなければなりません。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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