遊びが組織にもたらす創造的エネルギー:連載「遊びのデザイン」第5回

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遊びが組織にもたらす創造的エネルギー:連載「遊びのデザイン」第5回

仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高める「遊びのデザイン」。これまでの連載では、ワークショップにおいて参加者の内発的動機をくすぐる仕掛けや、ゲームデザインの手法の可能性などについて考察してきました。

https://cultibase.jp/features/playful-approach/
今回の記事では、組織に「遊びのデザイン」を持ち込むことによって生み出すことができる創造的なエネルギーについて、整理していきたいと思います。

現代の組織をむしばむ3つの病い

拙著『問いのデザイン』で指摘した通り、現代の組織には、暗黙の前提が凝り固まる「認識の固定化の病い」、そしてチームメンバーがわかりあえない「関係性の固定化の病い」が蔓延し、組織学習やイノベーションの阻害要因となっています。

本記事では、これらの現代病が副次的に引き起こす、ひとりひとりの内発的動機が抑制される「衝動の枯渇の病い」も加えておきましょう。

認識の固定化:当事者に暗黙のうちに形成された認識(前提となっているものの見方・固定観念)によって、物事の深い理解や、創造的な発想が阻害されている状態
関係性の固定化:当事者同士の認識に断絶があるまま関係性が形成されてしまい、相互理解や、創造的なコミュニケーションが阻害されている状態
衝動の枯渇:当事者ひとりひとりの内面から湧き上がる「衝動」が抑圧され、ものづくりやコミュニケーションのモチベーションが失われている状態

イノベーションを生み出したい。目まぐるしい環境変化を乗り越えたい。新規事業を生み出し、チャレンジしたい。経営層がそのように考えていても、組織が上記の病いを患ってしまうと、「新しいことを始められない」「これまでのやり方を変えられない」「芽生えたアイデアを続けられない」「お互いの考えていることをわかりあえない」といった悪循環に陥り、次第に現場レベルからエネルギーを失っていくのです。

遊びがもたらす4つの創造的エネルギー

「創造性」の代表的な研究者の1人、チクセントミハイが指摘する通り、創造性を発揮するためには、十分な「心理的エネルギー」を目の前の課題に集中的に投下することが必要です。組織に「遊び」を導入する意義は、まさにこの創造的なエネルギーを充填することに、他なりません。具体的には、遊びのデザインは、以下の4つのエネルギーの源になるでしょう。

(1) 始めるエネルギー
(2) 変わるエネルギー
(3) 続けるエネルギー
(4) 繋がるエネルギー

1. 始めるエネルギー

第一に、遊びのデザインは、新しいことを始めるきっかけを生み出します。

創造的なエネルギーを失った組織が新しいことを始める理由の大半は「このままではまずいから」「始めなければ、潰れてしまうから」といった、ネガティブなものでしょう。しかし不安や恐怖を起点とした変革は、持続性がありません。病気になって体調を崩したときには「これからは規則正しい生活を心がけよう」「元気になったら、定期的にジムに通おう」などと考えますが、いざ病気が治ると、元の生活に戻ってしまいがちです。

新しいことを始めるためには、ネガティブな感情だけでなく、内発的な面白さや楽しさが内在していることが重要です。組織に遊びのエッセンスを導入することは、新規なルーティン(習慣)を導入するきっかけとなるのです。

2.変わるエネルギー

第二に、遊びのデザインは、これまでのルーティンを変えるきっかけを生みだします。

現代病を患った組織の多くは、なかなか従来のルーティンを変えることができません。

事業がうまくいっているときは、いわゆる「サクセストラップ(成功の罠)」のメカニズムによって、これまでのルーティンをなるべく改善しながら繰り返します。それでは、うまくいかない場合はどうかといえば、不確実性が高い状態に直面した組織は、むしろ従来のルーティンに慣性が働き、強化されてしまうという研究結果があるそうです(参考『オンライン採用』p.33)。事業の好不調にかかわらず、染み付いたルーティンを変えることは、容易ではないのです。

他方で「遊び」の本質とは、「飽きること」にあるといっても過言ではありません。誰しもが子どもの頃に、かくれんぼや鬼ごっこに飽きてしまい、ルールに改変を加えたことがあるでしょう。変える必然性はないけれど、「もっと面白くするために、やり方を変えてみる」ということは、遊びが持っている大きなエネルギーなのです。

3.続けるエネルギー

第三に、遊びのデザインは、組織内に生まれたアイデアやアクションの芽を、持続させる力を持っています。

思い立って新しいルーティンを導入したものの、当初感じていたワクワク感が消失し、気づけば定着せぬまま風化してしまった。他方で、何気なく手に取った漫画やゲームにのめり込んでしまい、やめられなくなってしまった。そんな経験をしたことがある人は、少なくないはずです。

前回の記事でも解説した通り、遊び、特にゲームのデザインは、特定の行動を動機付け、継続させる効果を持っています。せっかく芽生えた活動を持続して定着させたいときにも、遊びのデザインは有効なのです。

4.繋がるエネルギー

最後に、遊びのデザインは、人と人の繋がりを生み出すきっかけとなります。

基本的に、他者とのコミュニケーションやコラボレーションには「コスト」がかかります。チームの多様性を尊重し、異なる意見や専門性を有したメンバーと対話しながらコラボレーションすることが、イノベーションにつながる。…これを頭では理解しながらも、日々の業務やプロジェクトで実践することは、必ず「大変さ」「面倒臭さ」がつきまといます。

コラボレーションに関する研究では、基本的にこの「コスト」を上回るための「他者と関わる必然性」が必要だとされています。たとえば「一人では解決できない課題がある」「課題解決に必要な職能を、他者が有している」といった、他者との依存構造が必要とされています。

しかし例外的に、必然性がなくても人と人がつながる場面があります。それが「遊び」の場面です。何か面白そうだから、一緒にやってみる。”この指止まれ”という掛け声に、周囲の人が偶発的に巻き込まれていく。チームに新たなつながりを取り戻すことも、遊びのデザインの効用です。

以上、遊びのデザインが組織にもたらす4つの創造的エネルギーについて整理してきました。これは組織だけでなく、個人の生活にも適応できるでしょう。何か新しいことを始めたいとき。今までのやり方を変えたいとき。新しい習慣を継続させたいとき。誰かと新たにつながりたいとき。人や組織がエネルギーを失い「変われない」状態になってしまったときこそ、「遊びのデザイン」を導入していく好機といえるでしょう。

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連載

遊びのデザイン:組織変革のプレイフル・アプローチ

遊びのデザイン:組織変革のプレイフル・アプローチ

組織変革の方法論は、組織に潜んだ無意識の病理に迫るもの、危機感を起点に構造を再編するものなど、ネガティブなアプローチに傾倒しがちです。しかし、人と組織が変わる契機は「痛み」だけではないはずです。本特集では、仕事や日常生活に「遊び心」を取り入れることで創造性を高める「遊びのデザイン」に着目し、組織の変化を楽しむ「プレイフル・アプローチ」の可能性と方法について探究していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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