遊びのメカニズムを理解する理論的枠組み:連載「遊びのデザイン」第6回

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遊びのメカニズムを理解する理論的枠組み:連載「遊びのデザイン」第6回

連載「遊びのデザイン」では、仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高めるアプローチについて探究しています。

遊びのデザイン:組織変革のプレイフル・アプローチ

今回の記事では、遊びのデザインの基本的な思考法について整理したのちに、遊びの本質を理解する上で土台となる理論的枠組みについて概観します。

遊びのデザインの基礎となる思考

遊びをチームや組織に実装していくためには、理念開発、プロジェクト設計、オフィスデザイン、ルールメイキング、評価制度策定、ツールの活用などさまざまなアプローチが考えられます。

しかしその前段階として、優れた「遊びのデザイナー」になるためには、遊びそのものの性質について深く理解し、人間にとって「面白い」と感じられる活動を生み出せるようにならなければなりません。既存の遊びの面白さの要因を説明できなかったり、他人がのめり込む遊びを発明できなかったりするうちには、遊びの力でチームや組織を変えることはできません。

遊びのデザインの基礎をなす思考として、本連載では「遊びを理解する(わかる)」「遊びを創造する(つくる)」という両極の上に「解明」「分解」「編集」「発明」という4つの思考を置いて、整理していきます。

「遊びを理解する(わかる)」という軸は、その遊びがなぜ面白いのか、理解することです。軸の端に位置する「解明」は、面白さの要因について考察し、明らかにする思考です。続く「分解」とは、遊びを構成する要素について分解することで理解を深める思考です。

「遊びを創造する(つくる)」という軸は、新たに遊びをつくりだすことです。軸の端に位置する「発明」は、これまでにない新奇な遊びを考案する思考です。並ぶ「編集」とは、まったく新奇な遊びの発明には至らずとも、遊びを構成する要素にアレンジを加えたり、組み合わせたりすることによって、遊びを編み直す思考です。

これら「解明」「分解」「編集」「発明」は完全に切り離せるものではなく、グラデーションになっています。特に「分解」と「編集」は裏表で地続きになっており、遊びを「わかる」ことと「つくる」ことをつなぐ性質を持った思考方法です。

完全に遊びの本質のすべてを「解明」したり、これまでにない全く新しい遊びを「発明」することは、もしかしたら不可能かもしれません。それぞれは、一定レベルの「分解」や「編集」とつながっているものであり、あくまで帯状につながっているものです。

解明:遊びの面白さの要因を明らかにする
分解:遊びを構成する要素を分解する
編集:遊びの構成する要素を編集する
発明:これまでにない新奇な遊びを考案する

新しい遊びを創造するためには、既存の遊びのメカニズムについて深く理解しておく必要があります。そのためには、遊びを構成する要素を「分解」しながら、その遊びの面白さの核はどこにあるのか、「解明」する思考方法が必要です。

遊びを理解する上で、すでにアカデミックに蓄積がある遊びに関する関連知識について理解しておくことは、とても役に立ちます。先行研究を挙げればきりがありませんが、本記事では、現代の遊び論に大きな影響を与えている偉人「ホイジンガ」「カイヨワ」「ゴッフマン」が提案した理論的枠組みについて概説します。

遊びを実利から切り離したホイジンガの理論

遊びに関する学術的知見の代表格は、オランダの歴史家であり文化人類学者であるヨハン・ホイジンガ(1872-1945)が1938年に発表した『ホモ・ルーデンス』です。

従来の遊び論における前提は、人間にとって「文化」がまずあり、そこから「遊び」が生まれるものだと位置付けられていました。それゆえに、人間が遊びに興じることが、どれだけ役に立つのか、その意義について考察したものが大半でした。

しかしホイジンガは、人間の遊びは文化に先行して発生し、遊びが文化として発展されると考えました。遊びそのものは人間に固有のものではありませんが、人間の本質は遊びにこそあると考えたのです。主題である「ホモ・ルーデンス」とは「遊ぶ人」という意味です。

ホイジンガは遊びの特徴として、以下の6点を挙げています。

1.自由で参加が強制されない
2.日常から区別された時間と空間に閉じている
3.不確実でやってみなければわからない緊張がある
4.非生産的で、直接的な利害や必要性の外にある
5.固有のルールがある
6.非現実的な虚構である

遊びを、現実世界の有用性とは無縁な「虚構」として位置付けている点が特徴的です。非現実な空間と時間なかで、新たに確立されたルールに自発的にしたがって遊びに興じることが、新たな文化の発端となっていると捉えたのでした。

遊びを類型化したカイヨワの理論

フランスの社会学者ロジェ・カイヨワ(1913-1978)は、『ホモ・ルーデンス』の発表から20年が経った1958年、著書『遊びと人間』のなかで、ホイジンガの遊び論を批判的に発展させました。ホイジンガの遊びの定義が遊びによっては部分的にしか適応できないことを指摘し、遊びの多様さを構造的に捉えるために、以下のマトリクスで整理しました。

カイヨワはこのマトリクスとは別に、自由度が高く即興的な「パイディア(Pidia)」と、ルール性が強く競技的な「ルドゥス(Ludus)」という極を置き、遊びの二面性を捉えました。

たとえば同じ「アゴン」でも、子ども同士の喧嘩は「パイディア」的ですが、スポーツ競技は「ルドゥス」だと考えられます。あるいは同じ「ミミクリ」でも、子どものごっこ遊びは「パイディア」ですが、演劇や見世物まで昇華されたものは「ルドゥス」といえるでしょう。

ホイジンガやカイヨワの理論を知っておくことは、既存の遊びの「解明」や「分解」に役立ちます。たとえば「仮装大賞」のような取り組みは、ホイジンガが指摘した遊びの特徴をいずれも満たしており、カイヨワの分類で言えば「ミミクリ」的な活動に、スコアを競い合う「アゴン」要素が含まれており、どちらかというと「ルドゥス」寄りだと考察することができます。

遊びと現実の接続を「膜」で捉えた、ゴッフマンの理論

アーヴィン・ゴッフマン(1922-1982)は、1961年に発表した『ゲームの面白さ』という論文(書籍『出会い』に掲載)において、ゲームというコミュニケーション場面における面白さの構造について分析しています。厳密には「遊び」と「ゲーム」はイコールではありませんが、ルールに基づく「遊び」のメカニズムを理解する上で、非常に参考になります。

ゴッフマンは、ゲームの面白さを相互行為的な「膜」によって説明を試みました。膜は「濾過機能」を持っており、現実のリアリティの一部を、非日常空間に持ち込むものであり、それがゲームの面白さに左右すると考えられました。

ゴッフマンは、ギャンブル(賭けゲーム)を例に、膜の影響を考察しました。ホイジンガは、前述した通り、遊びとは直接的な利害とは無縁な「虚構」であるとしました。しかしギャンブルの面白さは、実際に自分の身銭を賭ける点にあると言えます。

もし賭けることが禁じられた場合、金銭というリアリティに対する関心が「膜」を浸透することはなくなり、ゲームは文字通りの「虚構」となります。これはこれで、参加者にとってのゲームの興味を弱め、「真面目に遊べなくなる」可能性を指摘しました。他方で、人生を破滅させるほどの大金を賭けた争いは、当事者からすれば「遊び」とは言えないでしょう。

スポーツも同様です。オリンピックなどのスポーツ競技は、実在する国を背負って、その代表者たちが勝敗を争うリアリティに、一定の面白さがあります。他方で、国家の対立や敵対心などのリアリティが「膜」を破って入り込みすぎてしまうと、それはかえって「リアルそのもの」になってしまい、遊びとしての面白さと秩序が保てなくなってしまいます。

外部の現実にある無数のルールのうち、どれだけを「膜」を通して浸透させるかによって、ゲームの面白さが決まると、ゴッフマンは考え、現実と虚構の二項対立を乗り越えたのです。

もしあなたが気に入っているゲームや遊びがあれば、どのような「膜」が、外部からどれだけのリアリティを浸透させているか、考察してみても面白いかもしれません。

以上は、遊びに関する先行理論のほんの概説にすぎませんが、このような知識を持つだけでも、遊びの本質を「解明」したり「分解」したりする上で非常に役に立ちます。興味があれば、書籍が日本語訳されていますので、是非参照してみてください。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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