本連載「創造のカケラ」では、読者の方の創造性を刺激するカケラを紹介していきます。
「創造性」は数えきれないほどの定義・考え方があります。CULTIBASEでは、創造性を「個人レベルの創造性」「チームレベルの創造性」「組織レベルの創造性」の3階層で整理しています。本連載「創造のカケラ」では、個人の創造性に焦点を当て、誰でも気軽に「新しいモノの見方やいろいろな事に気がつく」力を身に付けることを目的としています。
筆者は、どんな世紀の大発明も、今までにない表現や技法も全ては「気づく」ことから始まっていると考えています。どこにでもあって、誰もが気づかないことに気がつくことが「創造」の始まりです。その気づいたことについて考え、工夫することによって、ひとを驚かすような発明やアイデアを生み出すことができます。
そのような「気づき」を生み出すためには、一つの見方に縛られない、多くの見方ができることが大切です。連載「創造のカケラ」では読者の創造性を刺激する、身近な「気づき」の紹介や、「気づき」を生み出すちょっとした考え方のコツをご紹介していきます。
「創造のカケラ」第1回では、「売れないだろう」と言われたコピー機が世界中に広まったエピソードについてご紹介しました。
▼見向きもされなかったモノを広めた「気づき」とは?:連載「創造のカケラ」第1回
https://www.cultibase.jp/articles/2354
今回ご紹介する創造のカケラはこちら!
カッターナイフです!
…突然ですが、ここでクイズ!
カッターナイフは、とあるお菓子にヒントを得て発明されています!
…そのお菓子とは、一体なんでしょうか?
みなさんも一度は食べたことのあるお菓子ですよ!
ヒント:食べる時「パキッ」という音がします。
答えは下に…!
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答えは…!
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板チョコです!!
板チョコとカッターナイフ、比べてみると確かに形状が似ていますよね。
今回は、そんなカッターにまつわる、創造的な「気づき」のエピソードをご紹介します。
「刃は折れたらダメ」という常識を覆した大発明
カッターナイフが発明された当時は、「刀折れ矢尽きる」ということわざがあるように、「刃物はいかに折れずに、丈夫であるか」が第一の時代でした。
そのような刃物の常識がある中で、刃を折って使用する「カッターナイフ」という発想が一体どのように生まれたのでしょうか…??
カッターナイフを発明したのは、昭和6年に大阪市内で生まれた岡田良男さん。
良男さんは印刷会社での仕事を行う中で、紙を切る裁断方法に違和感を覚えたそうです。
当時の紙の切り方は、カミソリの刃を手で摘んで切るというもので、非常に危ないものでした。切れ味が悪くなるのも早く、使い古したカミソリはすぐに捨てられてしまっていたのです。
良男さんはもっと裁断しやすい刃物は作れないものかと考えるようになりました。
良男さんがカッターナイフを発明するきっかけを得たのは、路上の靴職人たちの仕事を眺めていた時のことだといわれています。
靴職人たちが、靴底を削る際に、ガラスの破片を使い、切れ味が鈍るとまた割って使用している様子を見て、ふと、良男さんは敗戦後の日本で進駐軍の兵隊さんが食べていた板チョコを思い出しました。
靴職人たちのガラスの使い方と板チョコがつながったことによって、良男さんは気づきを得ました。
「板チョコのように刃に折り筋を入れておき、切れなくなったら、ガラスのように折ることができれば、1枚の刃で何回も新しい刃が使える!」
この気づきが、刃を折って使用する、世界で初めてのカッターナイフの誕生につながったのです。
その後、良男さんは、折る刃式カッターのブランド名を、刃を折ることから「オルファ」と名付け、1956年に世界で初めて、刃を折って使用するカッターナイフ「オルファ第一号」が生まれたのです。
オルファ株式会社による、折る刃式カッターは、世界中で愛用される刃物となり、人々の生活を支えています。
2つの類似したものを組み合わせることで生まれる気づき
「刃は折れたらダメ」という、今までの常識を覆したカッターナイフ。
もし、「刃は折れたらダメ」という常識の範囲内で、良男さんが模索していたらどうなっていたでしょうか?
より強くて、より丈夫な刃物を制作するために奮闘し、「折る」という発想には結びつかなかったかもしれません。
カッターナイフの発明は、靴職人たちのガラスの使い方と、板チョコの要素が組み合わさることで、常識に囚われない飛躍した「気づき」を得たといえます。
このような、論理的思考では辿り着けない、飛躍した発想を得るための思考法は、「アナロジー思考(analogical thinking)」ともいわれ、創造的なプロダクトや、サービスを考える際に有効な思考法です。
「アナロジー思考(analogical thinking)」とは、考えたいアイデア(ターゲット)があったときに、似ている性質や構造を持った別の領域(ソース)から要素を借りてくることで、アイデアを発展させる思考法のことをいいます。
※アナロジー思考についての詳細は連載「アナロジー思考の秘訣」でご紹介しています。
アイデアは“似ているもの”から飛躍させる:連載「アナロジー思考の秘訣」第1回
チョコとガラスは、通常は結びつくことはありませんが、それらを結びつけるのがアナロジー(類推)の力であり、その力によって、従来の常識に囚われない発想を可能にしました。
人を驚かすような発明やアイデアは、決して一部の天才や、十分な資金がある人の元だけに訪れるものではありません。この事例もチョコとガラスという、どこにでもある物から、カッターナイフという発明を生み出しました。
どこにでもあって、誰もが気づかないことに気がつくことが「創造」の始まりであり、そのために、「いかに気づけるか」ということが重要です。
この、「どこにでもあって誰もが気づかないことに気づく」ことは、普段の生活の中では難しいことが多いですが、アナロジー思考によって意識的に「気づき」を生み出すことも可能になります。
私たちが生きていく中で、生み出すための悩みに直面することは多いでしょう。その際に、その問題自体に注目し続けるのではなく、あえて、無関係と思われる物に目を向けてみることで、あなたを発想を助けてくれるかもしれません。
無関係なものを意識的に自分の思考に入れるためには、例えば、気分転換に普段行かない場所へ散歩へ出かけてみたり、ランダムにキーワードを紙の切れ端に書き、目をつぶって引いてみたりするなど、偶然性を利用する方法もあります。また、あえて今自分考えていることと、一番遠くにありそうな物に着目してみても良いかもしれません。
無関係な物だと認識している物との類似性を探していく行為は、固定概念の枠から抜け出し、創造的な活動へとつながっていくことでしょう。
まとめ
・カッターナイフは刃物の常識を覆した画期的な発明だった。
・論理的思考では辿り着けない、飛躍した発想を得るためにはアナロジー思考が有効。
・誰もが無関係な物だと思っている物の類似性に着目すると、誰もが思い付かなかった発想が得られるかも。
プチ創造ワーク
アナロジー思考を鍛えるミニゲームとして、CULTIBASE編集長の安斎勇樹が発明したミミクリゲームがあります。
ミミクリゲームとは、似ているものを見つける、“類推する力”を鍛えるエクササイズです。
以下の画像の右と左にあるイラストのどちらにも似ている何かを考えて「?」のところにあてはまる物を考えてみましょう。似ている要素は右と左とで違って構いません。
似ている点は、目に見える視覚的な形状や、目に見えない意味や生み出される効果など様々な視点をもって見つけることができます。
ミミクリゲームを通して、一見無関係かと思われる物を組み合わせるアナロジー力を鍛えることができます。
例えば、本記事でご紹介したカッターナイフの例で言えば、ガラスとは「切れる」点が似ており、板チョコとは「折り筋がある」ところが似ています。
いかがでしょうか?例えばこのプチワークでは以下のような回答ができます。
プチワーク回答例
▶︎形状に着目すると
・「?」:トライアングル A:三角 B:楽器
▶︎意味や効果に着目すると
・「?」:就寝 A:欲が満たされる(食欲) B:リラックス
また、安斎の考えたミミクリゲームでは既存の物から類似している物を探していきますが、ゲームの応用として、カッターナイフの着想のように、類似性を見出す中で、まだ世の中にはない、新たなものを生み出す、創造的な発想を楽しむゲームとしても遊ぶことができます。
今回のミミクリゲームのお題「おにぎり」「バイオリン」の類似性から生まれる新たな物として、例えば、「食事とその食事に合うBGMを、気軽に同時購入できる新しいサービス・商品」などを考えることができます。食事の楽しみを、食のみではなく音楽へと拡張し、家庭の中でもレストラン気分が味わえるなど、新しい市場を創れるかもしれません。
ミミクリゲームは、自分で好きな物を当てはめることにより、様々なパターンで遊べます。ぜひ、遊びながらアナロジー力や発想力を鍛えてみてください。
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“価値を失ったもの”をチャンスに変える「気づき」とは?:連載「創造のカケラ」第3回
■参考文献
「オルファ式カッター誕生秘話HP」https://www.olfa.co.jp/birth_of_olfa_cutter/index.html