見向きもされなかったモノを広めた「気づき」とは?:連載「創造のカケラ」第1回

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見向きもされなかったモノを広めた「気づき」とは?:連載「創造のカケラ」第1回

本連載「創造のカケラ」では、株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)でアートエデュケーターを務める田中真里奈が、読者の方の創造性を刺激するカケラを紹介していきます。

「創造性」は数えきれないほどの定義・考え方があります。CULTIBASEでは、創造性を「個人レベルの創造性」「チームレベルの創造性」「組織レベルの創造性」の3階層で整理しています。本連載「創造のカケラ」では、個人の創造性に焦点を当て、誰でも気軽に「新しいモノの見方やいろいろな事に気がつく」力を身に付けることを目的としています。

筆者は、どんな世紀の大発明も、今までにない表現や技法も全ては「気づく」ことから始まっていると考えています。どこにでもあって、誰もが気づかないことに気がつくことが「創造」の始まりです。その気づいたことについて考え、工夫することによって、ひとを驚かすような発明やアイデアを生み出すことができます。

そのような「気づき」を生み出すためには、一つの見方に縛られない、多くの見方ができることが大切です。連載「創造のカケラ」では読者の創造性を刺激する、身近な「気づき」の紹介や、「気づき」を生み出すちょっとした考え方のコツをご紹介していきます。

今回、ご紹介する「創造のカケラ」はこちら!

コピー機(複写機)です!

今ではコピー機を知らないという方の方が珍しいほど、すっかり私たちの日常に溶け込んでいるコピー機。しかし、コピー機が普及するまでには、長い道のりがありました。

今回は、そんなコピー機にまつわる創造的な「気づき」のエピソードをご紹介します。

「売れないだろう」と言われたコピー機が世界中に広まった理由

世界初となるコピー機(事務用の普通紙複写機)が発明されたのは、1959年のことです。アメリカのハロイド社(後のゼロックス社)が「Xerox 914(ゼロックス914)」と呼ばれるコピー機の開発に成功しました。

何十年もの歳月と、約7500ドル(約78億6000万円)ものお金がかけて創られた世界初のコピー機は、多くの手間がかかっていたこれまでの印刷技術とは違い、原稿を置いたら、ボタンを押すだけで何枚でもコピーが取れるという画期的な発明でした。

しかし、当時のコピー機は全く見向きもされず、それどころか「この機械は普及せず、売れないだろう」と思われていました。

一体なぜでしょうか……?

その理由は、大きすぎる!そして高すぎる!からでした。

Xerox 914(ゼロックス914)の高さは約170cm、幅は約120cm、重さは300kg !

値段は約400万ドルもしたのです!(日本円にして約4億1900万円)

長い年月をかけて発明したコピー機ですが、このままでは普及できません。

ハロイド社はこのピンチをどのようにして乗り越えたのでしょうか?

ハロイド社は、コピー機の値段を下げようにも下げられない現実と向き合い、

ある時、「コピー機を売るのではなく、コピーを売ればいいんだ!」

と気がつきました。

その気づきから、ハロイド社は、コピー機を安く提供し、コピー機を使用して生まれたコピーの枚数分だけお金をもらう仕組みを考えたのです。

大金が掛からず、仕事の効率が段違いに早くなることから、世界初のコピー機はあっという間に世界に広まりました。

創り出したモノの価値を見極める視点が気づきを生む

確かな発明でありながらも、値段や大きさから当時見向きもされなかったコピー機が、現代では広く普及し、多くの仕事を支えています。

このコピー機の事例では、「コピー機を売る」のではなく、「印刷されたコピー自体を売る」という発想の転換が成功の鍵となったといえます。

ハロイド社は、コピー機の提供できる本質的な価値を見極め、 コピー技術によって得られる仕事の効率性を売るという気づきによって、コピー機そのものは「レンタルする」という新しい売り方を創出します。コピー機の発明によって、画期的なコピー技術が生み出されただけではなく、画期的な売り出し方も同時に発明されているのです。

コピー機のように確かな技術を持った画期的な発明であったとしても、値段や大きさの問題で注目されづらかったように、どんなに革新的な技術も製品も、見向きもされないといったことはよくあります。

そんな時は、作り出した物の本質を見極め、その本質にあった伝え方そのものを生み出していくことが必要なのかもしれません。

まとめ

・世界初となるコピー機は、開発当初値段の高さや、大きさから消費者に見向きもされなかった。
・ハロイド社はコピー機を売るのではなく、印刷されたコピーを売る新しい「売り方」を発明し成功した。
・見方を変えると違ったサービスの可能性に気づくかも。

プチ創造ワーク

売りたいのに思うように売れない物やサービスはありますか?

物やサービス自体に注目して修正しようとするのではなく、今あるサービスやプロダクトの価値を書き出してみましょう。そして、今までの売り方や伝え方から少し離れてみて、自分たちが本当に売り出したい伝えたいものは何かを見極め、売るものに対する見方を変えてみましょう。そうする事で、新しい売り方・伝え方の気づきが得られるかもしれません。

参考文献
一般社団法人日本画像学会・複写機遺産委員会「複写機遺産」電子写真生誕80周年記念事業

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創造のカケラ

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どんな世紀の大発明も、今までにない表現や技法も全ては「気づく」ことから始まっています。その気づいたことについて考え、工夫することによって、ひとを驚かすような発明やアイデアを生み出すことができます。 そのような「気づき」を生み出すためには、一つの見方に縛られない、多くの見方ができることが大切です。特集「創造のカケラ」では読者の創造性を刺激する、身近な「気づき」の紹介や、「気づき」を生み出すちょっとした考え方のコツをご紹介します。

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著者

幼少の頃より、特殊な創造性教育を受けて育つ。東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程美術選修卒。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。研究領域は主体性・創造性教育。幼・小・中(美術)・高(美術・工芸)の教員免許を保有し、アートエデュケーターとして、芸術教育を通した創造力を育むワークショップの実践を多数行う。「創造性の土壌を耕す」ことを軸に、教育者、研究者、表現者を往還させたアートグラフィーな働き方を探究している。

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