組織開発は”漢方薬”、組織変革は”外科手術”、は本当か?:連載「組織開発の理論と効果」第3回

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組織開発は”漢方薬”、組織変革は”外科手術”、は本当か?:連載「組織開発の理論と効果」第3回

「組織開発は漢方薬、組織変革は外科手術」

しばしば、「組織開発」は「組織変革」と対比してこのように喩えられます。

「組織開発」は、目に見えないヒューマンプロセスの部分に働きかけを行い、対話を通してじわじわと組織を変えていくボトムアップの取り組みであり、「組織変革」はトップダウンでテコ入れをするように組織にグッと変化をもたらしていくもの。

組織を1つの生命体と考えると、「組織開発」は組織の内部に働きかけて中長期的に組織をよりよくしていく「漢方薬」のような働きかけであり、組織変革は組織に鋭いメスをいれて改善を図っていく「外科手術」のような働きかけであるという意味を込めて、こうしたアナロジーが用いられるのです。

この対比からは、組織開発と組織変革は明確に違うものに思えます。ところが、それでもなお、この二者が混同して使用される場面は多く見られます。

改めて、組織開発と組織変革は一体何が異なるのでしょうか?

連載「組織開発の理論と効果」第3回となる今回は、組織開発の輪郭を掴むために、組織開発と組織変革の違いや関係性について整理していきたいと思います。

組織変革のルーツ:クルト・レヴィンが提唱した「組織変革の3段階モデル」

まずは組織変革の先行研究として最も頻繁に引用される「組織変革の3段階モデル」についてみていきましょう。

このモデルは、アメリカの心理学者クルト・レヴィン(1890-1947)が提唱した考え方で、あらゆる組織変革研究の基盤にもなっています。「解凍(Unfreeze)→変化(Change)→再凍結(Refreeze)」という3ステップのことを指し、組織変革は広くはこのプロセスを辿るとされています。固まっている氷が一度溶けて水になり、形を変えて再度固まる…というイメージですね。

最初のステップ「解凍」は、組織で支持されている行動・規範の均衡状態を流動的にする段階です。組織のメンバーが変革の必要性に気付き、今の組織が支持する信念・価値観・行動などを見直すため、メンバーにも心理的緊張が高まります。

次のステップ「変化」は、心理的緊張を解くための情報探索が始まる段階で、新たな目標や行動の達成に向け、学習が行われます。具体的な手法は、「新たなシステム・制度の導入」や「事業構造・経営構造の変更を行う」など様々ですが、こういった変化をトップ・経営陣主導で行うことから、「組織変革はトップダウンである」とよく言われます。

最後のステップ「再凍結」は、新しい変革をすでに組み込まれている組織ルーティンの中に統合する段階と言われます。変革によって生まれた新たな目標や規範状態などを定着させていく状態です。これまでのルーティンが変わり、新たなルーティンが組織に組み込まれるということで、メンバーには不安や葛藤が生じる場合もありますが、これを乗り越えていくことが組織変革には必要不可欠です。

組織変革のその後の研究では、さらにこのステップを精緻化させたモデルが提唱されたり、ローカライズさせたモデルが打ち出されていますが、このモデルが非常にシンプルに、組織変革のプロセスを言い表しています。

組織変革に欠かせないボトムアップのアプローチ

一方、「ボトムアップ的な営み」と言われる組織開発も、実は組織変革と同じく、このクルト・レヴィンの「組織変革の3段階モデル」をルーツに持っています。

ただし、その変化(moving)の具体的な手法として「組織のヒューマンプロセス(目に見えない部分)に働きかけを行うこと」「課題を可視化し、対話を行うこと」などが特徴的です。

つまり、組織変革であっても、組織開発であっても、「解凍(Unfreeze)→変化(Change)→再凍結(Refreeze)」のプロセスを辿ることは共通しており、その違いは、このうちの変化(Change)の方法・あり方がトップダウン型なのかボトムアップ型なのかという点です。

組織開発と組織変革がどちらも「組織変革の3段階モデル」を共通のルーツとして持っていること以外にも、組織変革や組織開発の歴史的系譜を辿ると、組織開発が組織変革のルーツをもちながらも、従来の組織変革の諸理論で扱いきれなかった課題を乗り越えるアプローチとして生まれたアプローチであることがよくわかります。

しかし、組織開発は、そこで使われる手法(日本でも有名なのはAIやOST、ワールド・カフェなど)がもてはやされたり、様々な理論を取り入れていったことから、「組織開発が変革のための手法である」ということがあまり主張されなくなってきました

「組織を変えたい」と思い、組織変革に取り組む際に、トップダウンに進めないと為し得ないことはもちろんありますが、組織開発がその他の組織変革の手法で扱いきれなかった課題を扱うために生まれたアプローチであることを踏まえても、組織変革において欠かせない要素であることは分かるはずです。

例えば、トップダウンとボトムアップを組み合わせた組織変革はこのような形で取り入れることができます。

・社内サーベイの結果を踏まえて組織構造・制度を変える前に社内でサーベイの結果をもとに対話する時間を設けてみる
・理念やビジョンを浸透をするときにただ浸透させるだけではなく、対話しながらそれらを咀嚼し、理解を深めていくワークショップを実施する
・コーポレートアイデンティティを定め直すときに、経営陣だけで決めるのではなく、従業員の意見を聞き、認識をすり合わせる

トップダウンもボトムアップも、どちらも組織変革に欠かせない要素として、お互いの強みを生かし合うことがよい組織づくりにおいて必要ではないでしょうか。

参考文献
松田陽一(2020)『組織変革のマネジメント』
中原淳・中村和彦(2018)『組織開発の探究』

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昨今、注目を集める「組織開発」は、現場での広まりとともに、誤って理解されたり、安直に取り入れられてしまったりと、その本質がどこにあるのかを見失われてしまうことがあります。特集「組織開発の理論と効果」では、改めてアカデミックな組織開発の理論を辿り、組織開発の輪郭を明らかにした上で、その特徴や効果について明らかにしていきます。

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著者

株式会社MIMIGURI リサーチャー/ファシリテーター

立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士前期課程修了。立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。人と組織の学習・変容に興味を持ち、組織開発が集団の創造性発揮をもたらすプロセスについて研究を行っている。共著に『M&A後の組織・職場づくり入門:「人と組織」にフォーカスした企業合併をいかに進めるか』がある。

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