診断型組織開発と対話型組織開発:連載「組織開発の理論と効果」第4回

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診断型組織開発と対話型組織開発:連載「組織開発の理論と効果」第4回

本連載「組織開発の理論と効果」は、現場で組織開発が効果的に取り入れられるために、組織開発の理論や効果などをご紹介します。前回の記事では、組織開発と組織変革の違いや関係性について紹介し、組織開発の輪郭を示してきました。

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今回は、組織開発の代表的な2つのアプローチ「対話型組織開発(Dialogic OD)」と「診断型組織開発(Diagnostic OD)」の概要と、実践上のポイントについて紹介していきます。


一般的に、組織開発実践者がインタビューやアンケートの実施により組織のデータを取得し、そのデータをもとに組織を“診断”し、その診断結果をもとに組織に何かしらの働きかけを行うアプローチを「診断型組織開発」と呼びます。他方、データの収集や分析などの組織への“診断”を行わず、ステークホルダーによる対話を中心として組織がよりよい状態となるように働きかけていくアプローチのことを「対話型組織開発」と呼びます (参考:Bushe & Marshak 2009)。

アプローチ①診断型組織開発

診断型組織開発の典型的な進め方は、ODマップ(図1)と呼ばれる8つのフェーズから成るプロセスです。

まず、「エントリー/契約」のフェーズでは、外部のコンサルタントや組織内のファシリテーターが職場やチームメンバーらと接触し、対象者/クライアントの問題やニーズを理解した上で、目指す状態・進め方・役割・責任などを定めます。次の「データ収集」「データ分析」では、質問紙調査・インタビュー・観察などを通してチームや組織のデータを集め、整理し、まとめていきます。

「フィードバック」のフェーズでは、調査の結果をもとに当事者で対話をし、現状のチーム・組織について共同で診断していきます。「アクション計画」「アクション実施」では、組織課題に対する具体的な今後のアクションを決め、実行にうつします。最後に、一連の取り組みを通じて、目指す状態にどれくらい近づいているか、チームや組織にどのような変化が生まれたかを明らかにし、新しい目標の設定や必要に応じた軌道修正をはかります。

アプローチ②対話型組織開発

次に、「対話型組織開発」のプロセスもみていきましょう。「対話型組織開発」も、診断型組織開発と同様に、「エントリー/契約」を行います。その後は、組織開発の中核を担う「コアチーム」をつくり、「コアチーム」で対話の場のデザインを考え、対話の場では当事者で現状のチーム・組織について対話し、お互いの認識をすり合わせていきます(中原・中村 2018)。最後に、未来への「アクション計画」を定めたら、日常における実践に引き継いでいきます。

2000年以降には、診断を用いない対話型組織開発の手法として「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」「フューチャー・サーチ」「オープン・スペース・テクノロジー(OST)」「ワールド・カフェ」が浸透してきました。それぞれの手法に根付く思想や設計方法がありますので、実際に取り入れてみたいという方はぜひ詳細を以下などの専門書にてご確認ください。

  • ホイットニー, D『ポジティブ・チェンジ〜主体性と組織力を高めるAI〜』ヒューマンバリュー
  • 香取 一昭・大川 恒(2017)『ワールド・カフェをやろう 新版 会話がつながり、世界がつながる』日本経済新聞出版
  • 香取 一昭・大川 恒(2018)『人と組織の「アイデア実行力」を高める――OST(オープン・スペース・テクノロジー)実践ガイド』英治出版
  • ワイスボード,M. R・ジャノフ, S(2009)『フューチャーサーチ ~利害を越えた対話から、みんなが望む未来を創り出すファシリテーション手法~』ヒューマンバリュー

2つのアプローチの本質的な違い

前述した通り、一般的には組織開発実践者による診断を伴うアプローチを「診断型組織開発」、診断を伴わないアプローチを「対話型組織開発」と呼びます。しかし厳密には「診断型組織開発」「対話型組織開発」両者の本質的な違いは「診断があるかないか」ではなく、「パラダイム」にあると言われます(ブッシュ・マーシャク 2018)。すなわち、「診断型組織開発」では、客観的な「事実」が存在し、それらを診断を通して客観的に測定できるという客観主義の価値観に基づいていると考える一方で、「対話型組織開発」は、現実は客観的に測定できるものではなく、社会的に構成されると考える社会構成主義の価値観に基づいています。

※社会構成主義についてはこちらの記事で詳しく説明しているので詳細はそちらをご覧ください。

ファシリテーターはなぜ「対話」を重視するのか:社会構成主義入門

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具体的な場面で考えると、組織のサーベイを行い、その組織におけるプロセスの問題を可視化し、「御社にはこういう課題があります」という“客観的事実”としてフィードバックをし、組織のメンバーがその結果をきっかけに対話し、組織を変える取り組みをするのであれば、診断型組織開発と言えます。

他方、組織のサーベイを行ったとしても、その結果からメンバー一人一人に見えている現実をあぶり出し、対話によって組織の状態や課題解決にむけて意味生成を行っていくのであれば、それは診断型組織開発と対話型組織開発の混合型であると言えるでしょう。

両者の違いを端的に表すと、“客観的事実”があると捉えるか、ないと捉えるかの違いと言えます。

診断型組織開発と対話型組織開発を整理すると、以下の図のように表せます。

全てのアプローチに共通する実践上のポイント

全てのアプローチに共通する実践のポイントは3つあります。

1つ目は「非日常感の演出」をすることです。社内メンバーが中心となってチームや組織の問題に取り組むと、日常の延長にもなってしまいがちですが、問いかけの工夫や空間の演出によって、普段とは異なるものの見方をする機会になります。

「非日常感の演出」にも様々なレイヤーがありますが、例えば

  • いつもの職場とは違う環境で対話をしてみる
  • いつものチームとは異なるチーム編成にする
  • 年長者や役職者が役割を担いがちなところを封じて若手にチームの取りまとめ役になってもらう
  • その組織の「当たり前」になっていることを問い直してみる

など、ちょっとした工夫を仕掛けることは可能です。

2つ目は「心理的安全な場づくり」をすることです。日常的に心理的安全なチームづくりをすることも欠かせないといえますが、その日常がどうであれ、ファシリテーターが中心となりながら、参加者に「この場ではよりよい組織づくりのために安心して発言・参加できる」と思ってもらえるための工夫をすることが必要です。

まずは、この記事で紹介されている心理的安全性の4つの因子「1話しやすさ」「2助け合い」「3挑戦」「4新奇歓迎」の観点で、プログラムデザインの検証・実施をしてみてもいいのではないでしょうか。

「心理的安全」なチームの4つの条件: 学習する職場をつくるための「心理的安全性」入門

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最後、3つ目が「当事者意識のバランス」です。私はこれが特に重要ではないかと考えています。どういうことかというと、そもそも組織でおこる問題・組織開発を通じて改善していきたいと考える問題は、原因を個人に帰属させて捉えてしまいがちです。それは他者だけに責任を押しつける「他責思考」や、逆に「過度な当事者意識」も生みます。

「マネージャーのAさんが情報をおろしてくれないのでメンバーに不信感が募っている」
「上司のBさんがいつも不機嫌に見えるので相談がしにくい」

あるいは

「自分の仕事が遅いので皆が残業を強いられている」
「自分のリーダーシップが発揮されていないからチームの力が発揮できていない」

など。

このように原因が個人に帰属してしまいがちな問題は、自分の意見や考えを発話しにくく、本音ベースでの対話が困難になります。

こうした場合、ファシリテーターによる働きかけで対話が促進されることもありますが、サーベイ結果を活用した「半身の当事者性」(中原 2020)のスタンスでの対話も有効です。

サーベイ結果を活用した「半身の当事者性」とは、組織の問題をサーベイに投影し、問題を当事者から半分切り離して客観的な問題として捉えることと、そのサーベイの分析をもとに、半分当事者意識を持って自分たちの問題に向き合うことです。単に「診断型組織開発」あるいは「混合型の組織開発」を実施すれば解決するという問題ではなく、その過程のなかで、「他責思考」や「過度な当事者意識」が蔓延していないかをウォッチしておくことが必要です。

以上、組織開発の代表的な2つのアプローチについて紹介しました。次回は、日常に取り入れられる組織開発のエッセンスを紹介していきたいと思います。

参考文献

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組織開発の理論と効果

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昨今、注目を集める「組織開発」は、現場での広まりとともに、誤って理解されたり、安直に取り入れられてしまったりと、その本質がどこにあるのかを見失われてしまうことがあります。特集「組織開発の理論と効果」では、改めてアカデミックな組織開発の理論を辿り、組織開発の輪郭を明らかにした上で、その特徴や効果について明らかにしていきます。

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著者

株式会社MIMIGURI リサーチャー/ファシリテーター

立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士前期課程修了。立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。人と組織の学習・変容に興味を持ち、組織開発が集団の創造性発揮をもたらすプロセスについて研究を行っている。共著に『M&A後の組織・職場づくり入門:「人と組織」にフォーカスした企業合併をいかに進めるか』がある。

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