連載「組織開発の理論と効果」2回目の記事となる今回は、組織開発の成果指標を扱っていきます。
連載第1回目の記事で、組織開発は「広義」に捉えるスタンスがある、すなわち様々な組織介入を組織開発と見做す立場があることをご紹介しました。
改めて“組織開発”の定義を探る:連載「組織開発の理論と効果」第1回
組織開発の介入の範囲が広く捉えられることもあるためか、組織開発の先行研究をレビューしてみると、その指標が実に多種多様であることに気づかされます。
組織開発を通じて組織が今よりも”良い状態”になるのであればそれでOKと捉えることもできますが、その“良い状態”が具体的にどのような状態であることを指すのか、組織開発によるアウトカム/効果をイメージしていなければ、都合よく”組織開発”という言葉が意味付けられ、導入そのものが自己目的化してしまうという危惧もあります。
中原・中村(2018)『組織開発の探究』によれば、組織開発には多様な定義があり、様々なものを内包した”アンブレラワード”にもなっている一方で、組織開発の代表的な定義を整理してみると、「健全性」「効果性」「自己革新力(再生力)」といったワードが共通してよく用いられていることが示されています。つまり、やや乱暴にまとめると「組織開発の目標(成果指標)は“健全性” “効果性” “自己革新力(再生力)”をもたらすことである」と言うこともできます。
そこで今日は、現段階での私の思考の整理をもとに、組織開発の成果指標である「健全性」「効果性」「自己革新力(再生力)」についての紹介と、これら3つの軸に基づいていくつかの組織開発研究を整理して紹介したいと思います。
成果指標(1)健全性
第一に健全性について。健全性とは、個人と組織がつながっており、個人が組織に対してアイデンティティや主体性を持っていることを指します。
具体的には以下のような状態です。
・合理的に明確で、納得でき、達成可能な、適切な目標がある
・コミュニケーションの流れが比較的はっきりしている
・個人の特徴(性向)と役割(職責)が合致している
・組織のアイデンティティと団結力が十分にあり、それが人々が積極的に結びついたと思うに足るほど明瞭で魅力的
参考)ベックハード(1972)『組織づくりの戦略とモデル』
成果指標(2)効果性
第二に効果性について。効果性とは、健全性とややニュアンスが近しい部分もありますが、職場・組織等において効果的に仕事を進めて望ましい成果を生むための構造・状態が整っていることを指します。
具体的には以下のような状態です。
・組織全体、重要な部署、個人が、それぞれの目標達成のための目標と計画に従って進行している
・組織およびメンバーが「行動してー考える」という方法をとる。個人やグループが経験から学ぶことのできるフィードバックのメカニズムが築かれている
・タテヨコのコミュニケーションが比較的ゆがめられていないこと。従業員が一般的にオープンに向き合っていること。気持ちも含め、互いに関する事実を皆が知っている
・仕事とプロジェクトをめぐっての激しい葛藤(理想との衝突)はあるが、労力が費やされていない(個人間のイザコザは解決済み)
参考)ベックハード(1972)『組織づくりの戦略とモデル』
成果指標(3)自己革新力・再生力
第三に自己革新力(あるいは再生力)について。自己革新力とは、組織が行っていることの善し悪しや、必要な調整をすることから学ぼうとする努力、あるいは未来に対して備え、変化にすぐに適応する力が育まれていることを指します。
具体的には以下のような状態です。
・組織が絶えず学習しつづけている
・外部の支援がなくとも、組織自ら変革に取り組み続ける力をもっている
組織開発の先行研究における3軸での分類
これら3つの視点で、海外の組織開発の先行研究をいくつかピックアップし、整理してみました。”アンブレラワード”と言われ、実態の掴みにくい組織開発であっても、上で述べた3つの指標の組み合わせで「組織開発」として成功しているのかどうか、あるいはそもそも「組織開発」の研究といえるのかどうか検証することができます。
[健全性*自己革新力]
Impact of Transformational Leadership Development through Organization Development Intervention on Employee Engagement and Firm Performance: A Case Study.
例えばこちらの論文では、42名のタイの支店長を対象に、組織開発介入が従業員のエンゲージメント(仕事の満足度や努力の向上)や組織パフォーマンス(売上高、スタッフの離職率、顧客からの苦情の改善)に与える影響について検討しています。
分析の結果、組織開発介入の結果として、従業員の努力の向上および組織のパフォーマンスの改善に関して統計的に有意な結果が示されています。
これは従業員の努力の向上という「健全性」、組織のパフォーマンスの改善という「自己革新力」への効果を示した論文として分類できるのではないかと思います。
[健全性*効果性]
Civility, Respect, Engagement in the Workforce (CREW): Nationwide Organization Development Intervention at Veterans Health Administration
こちらの論文は、アメリカの退役軍人に対する医療機関である退役軍人保健局(通称VHA)において、CREWと呼ばれる組織開発の取り組みがcivilityに関する変化をもたらすかどうか検討しています。
研究の結果、この介入においてcivilityの向上があったことが示されました。一方で、VHAに通う患者の満足度や医療成果との関連は明らかになっていないことが課題として示されています。
組織内におけるcivilityという切り口から対人関係の向上に焦点を当てており、「健全性」や「効果性」の効果に該当すると捕らえられます。一方で「自己革新力」という観点では課題が残されていると言えるでしょう。
[自己革新力*効果性]
Stimulating organisational creativity with theatrical improvisation
こちらの論文では、即興演劇(インプロ)を用いたワークショップがどのように組織の創造性を育てることができるか、アクションリサーチを通じて検討しています。
本研究の結果、インプロワークショップが組織の多くのレベルでの変化に影響することが確認されました。(例 ワークショップの後、何人かの参加者が職場のコミュニティの習慣的な慣行を変えるための斬新な提案をすることを奨励するようになった等)
組織の創造性には定義も多数あり、一概に言い切ることはできないかもしれませんが組織開発の3要素のなかでは、少なくとも「自己革新力」の向上に寄与した研究といえるのではないでしょうか。職場に対する新規提案が行われているという結果から、職場内コミュニケーションも改善されたと考えられ、「効果性」にも一定効果があったのではないかと推察されます。
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以上、いくつかの研究を組織開発の3要素「健全性」「効果性」「自己革新力」をもとに整理してみました。これらの3要素は絡み合っていること、また具体的な成果指標が幅広いこと(civilityや創造性、従業員満足度などさまざまな言葉で示されている)からも必ずしも組織開発の効果をきっちりと分類できるわけではありません。しかし、”やって終わり”の組織開発にしないためにも、時折このような視点に立ち戻ることが大切だと感じています。
引き続き、このあたりの組織開発に関する効果/成果指標についても改めて整理していきたいと思っています。