危機は変革の好機になる──「レジリエンス」ある組織をつくるための6つのレッスン

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危機は変革の好機になる──「レジリエンス」ある組織をつくるための6つのレッスン

困難や逆境の中での回復力や弾力性を意味する「レジリエンス」。個人だけではなく、地域社会や組織においても重要な概念として注目を集めつつあります。公衆衛生の専門家であり、社員の健康づくりの支援や組織内で医療について研究されている医師の舟越優さんに「組織のレジリエンス」をテーマに寄稿してもらいました。

目次
そもそもレジリエンスとはなにか?
ビジネスにおけるレジリエンスの重要性
「危機は変革の好機」

そもそもレジリエンスとはなにか

「レジリエンス」という単語を聞いたことはあるでしょうか。

レジリエンス研究の世界的権威であるミネソタ大学のマステンによれば、レジリエンスはシステムが持つキャパシティで、システムの機能や生存、発達を脅かす危機に対する適応を可能にします。ここでいう「システム」は個人、家族、経済や地域社会など種々のレベルを指します。強風の中でも柔軟にしなることで折れずに風をやり過ごす柳をイメージしていただくと分かりやすいでしょうか。

レジリエンスは戦争や飢餓、保護者との別離などの幼少期の逆境体験に関する研究から発展してきた概念です。第二次大戦後、アンナ・フロイト(ジークムント・フロイトの娘、児童精神分析分野の開拓者)を含むさまざまな分野の臨床家が、精神的に傷ついた子どもたちのケアにあたりました。高いリスクにある子どもたちの研究から、同様のトラウマ体験であっても幅広いアウトカムが生じることが明らかになり、逆境やリスク因子を持っていても良好な発達をとげる子どもたちに関するリサーチへの関心が高まりました。

言うまでもなく、戦争や飢餓などの危機は子どもに身体的、精神的なダメージを与えることがあります。しかし、同じような逆境体験を経験しても深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)を経験する人は必ずしも多くないこと、一部の人にとっては逆境体験が能力を伸ばす機会ともなること、特に幼少期には一定の「よいストレス」があると後に逆境への耐性が高まること、などが明らかになってきました。このような知見を統合しながら生まれてきた概念がレジリエンスであり、ラテン語の動詞「resilire (to rebound)」にルーツを持ちます。

個人に対してだけでなく、地域社会にもレジリエンスの概念は適用できます。例えば、被災し悪化した社会状況からいかに迅速に被災前レベル(またはそれに近いレベル)まで回復するかには、地域ごとに差があることがわかってきており、日本でも震災などの災害時に同様の傾向がみられました。回復過程をはやめるために地域の人々の社会資本を高め、地域のレジリエンスを高めることが有用であることが示唆されています。

ビジネスにおけるレジリエンスの重要性

もともとは心理学、社会学、災害学などで探求されてきたレジリエンスが、近年ビジネスでも注目を集めています。その理由を端的に言えば、私たちを取り巻く環境がよりダイナミックで予測が難しくなっているからです。

環境の変化が激しくなった原因としては、技術的な進化、グローバル経済の高い相互関連性、さらには拡大する不平等、種の消滅、気候変動といった現象があげられます。今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックでも明らかになったように、私たちの生活は多くの相互につながった複数のシステムに依拠して成り立っており、組織のレジリエンスは組織やつながりあった他の組織の存続にすら影響します。

したがって、現代社会で危機から完全に免れることを志向するのは現実的ではありません。むしろ危機を受け止めつつ機能を維持し、被害を最小限にしていくことが組織の存続には不可欠であり、レジリエンスの概念が役に立つと考えます。

「危機は変革の好機」

レジリエンスを一朝一夕に養う方法があるわけではありませんが、ボストン・コンサルティング・グループのリーブスらは、下記の6つの点をレジリエントな組織になる要件としてあげています。彼らは企業が生物界から学ぶことの重要性を主張しており、レジリエンスも学ぶべきことに含めています。

1. 逆境下で強みを探す

単にリスクや被害を小さくすることは望ましくありません。むしろ新たな現実に適応し強みの創出を目指すことが、レジリエンスを高めるためには必要です。

2.前を見る

長期的に見れば、危機は競争相手の無力化により新たな需要を作り出します。リーダーの重要な役割のひとつに、組織の時間軸を引き伸ばすことがあります。

3.協調とシステムの視点をもつ

安定した時期においては、ビジネスとは規定の文脈とビジネスモデルで最大限のパフォーマンスを上げることと捉えることも可能でしょう。対照的に、レジリエンスはストレス下で環境が変化する中で、ビジネスの構成要素間の関係性に焦点を当てます。するとシステム思考と体系的な解決策が必要となり、うまくいくかは従業員、顧客、その他の利害関係者の間の協働にかかってきます。

4.パフォーマンス以外で測る

ビジネスの状態は後ろ向きに利益だけを測定しても捉えられません。過去の成功は未来を保証しません。持続的な発展のためには、柔軟性、適応性などのレジリスンスを構成する要素の測定も必要になります。

5.多様性を尊重する

レジリエンスは、状況に対して異なった対応方法を生み出せるかにかかっています。そのためには、新鮮な視点でものごとを捉えることが求められます。レジリエントな組織は、認知傾向の多様性を尊重し、変化や逸脱をいといません。

6.変化を常態にする

レジリエンスは極端な状況下での場当たり的な調整ではなく、定常的な変化や試行錯誤を前提とした組織と周辺システムを作ることにあります。組織の硬直性を避け、段階的な調整を繰り返し行うことが一例です。レジリエンスを高める試みは危機が起こる前から始まっています。

まとめ

レジリエンスは生態学的、生物学的にも妥当性が示されており、人類の文明より遥かに長い過程で選択されてきた頑健なキャパシティといえます。レジリエンスを高める施策は企業に限らず組織の危機対応力の底上げ、組織の多様性維持、中長期的な企業価値の上昇、などさまざまな副次的効果を持ちえます。

今後もやってくるであろう危機への備えとして、あなたの所属する組織でレジリエンスを高める方法を考えてみてはいかがでしょうか。

ライター:舟越 優(Yu Funakoshi)
東京医科歯科大学 国際健康推進医学分野 博士課程。東京都出身。私立武蔵高校卒、群馬大学医学部卒、ボストン大学公衆衛生大学院修士課程修了。小児科専門医。沖縄県立中部病院、東京都立小児総合医療センター、国立感染症研究所感染症疫学センターを経て、現在は博士課程での疫学研究とともに、医学教育と都内クリニックでの小児科診療に従事している。ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)では医学と公衆衛生の知見を活かした実践を通して、メンバーの健康づくりを担う。

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