VUCA時代とも呼ばれる昨今は、技術革新の影響を受け、変化が早く、かつ、その変化が読みにくく、複雑で、行き先が不透明な状況にあります。
技術の急速な革新に見られるような変動性は、苦労して得たスキルをすぐに陳腐化させてしまいます(Lim et al 2019)。また、新型コロナウイルスのような、予期せぬ疫病のパンデミックにより、自分の職やこの先の会社の行き先に不安を感じている人も少なくないでしょう。
そのような時には、個々人が高い「レジリエンス」を持つことが重要であると言われます。「レジリエンス」が高ければ、不確かな状況でも、そこに現れる困難に上手に対処し、適応的でいられ、且つ高いパフォーマンスを保てると考えられているのです。
本連載では、「働く人に関わるレジリエンス」をテーマに、大学生のレジリエンスの獲得につながる経験や若手社員のレジリエンスの先行要因について研究を行ってきた筆者がレジリエンスの定義と昨今の研究動向について紹介します。
「レジリエンス」とは何か
「レジリエンス」とは、困難な状況に見舞われた際に、そこから回復するのに必要な個人の力や特性のことを指します(※1)。レジリエンスはいくつかの力や特性から成り立つ概念で、研究により多少異なりますが、例えば、楽観性や未来志向、問題解決力、感情調整や、自己理解などがレジリエンスの構成要素として挙げられます(e.g. 平野 2010)。
不況の影響を受け、自分がやってきた事業のリストラにより、全く新しい部署に配置替えとなった架空のAさんの例について考えてみましょう。
長年取り組んできた事業がなくなってしまうことは、Aさんにとって、とてもショックな出来事です。このような事態に見舞われた際、Aさんのレジリエンスが低ければ、ある程度時間が経っても、ひどい落ち込みが続くかもしれません。加えて、「また、このようなことが起きてしまうかもしれない」と不安な気持ちになり、新しい部署での仕事にも身が入らないかもしれません。
しかし、レジリエンスが高ければ、落ち込みにくかったり、たとえ落ち込んだとしても、精神的に回復することができると考えられています。また、このことを新しい挑戦の機会と捉え、前向きに業務に励むことができるかもしれません。
マネージャーにとってレジリエンスが重要な2つの理由
「レジリエント」とは、高いレジリエンスを保持していることを意味しますが、昨今は、特にマネージャーがレジリエントであることが求められています。その理由は2つあります。
第1に、レジリエンスを身に付けることは、あらゆる仕事に適応的に対処する上で役に立ちます。特に、マネージャーは数字への責任が重く、他部署の人と利害関係がぶつかる中で交渉を行わなくてはならないなど、自分の力でコントロールできないようなことに遭遇する機会が多くあります。このようなストレスが高い状況を乗り越え、課題を解決するには、高いレジリエンスが求められます。
もしレジリエンスが高ければ、そもそもこのような状況に対してストレスを感じにくくなると考えられます。また、レジリエンスが高い人はこうしたストレスフルな状況下で落ち込んだ時でも、そこからうまく立ち直り、課題に対処していくことができると言われています。
第2に、マネージャーは、部下がレジリエントに働ける環境をつくることも重要です。先に述べたように、VUCA時代においては、個々が高いレジリエンスを持っていることが、高いパフォーマンスに寄与します。そのため、一人一人がレジリエントな状態で働ける環境を創出する必要がありますが、部下のレジリエンスは、マネージャーの振る舞いによっても左右されると言われています。
例えば、近年の研究では友好的で支援的な職場環境を提供するような上司のリーダーシップ行動が、部下のレジリエンス にポジティブな影響を与えることが示されています(Cooke et al. 2019)。
ここまで、レジリエンスの定義や、マネージャーがレジリエンスを身に着けるべき理由について紹介してきました。
次回以降の記事では、具体的にどうすれば自身のレジリエンスや部下のレジリエンスを高めることができるのかについてご紹介していきます。
※1:レジリエンスの定義は諸説あり、レジリエンスを回復のプロセスと捉える立場もあります。この立場の研究ではレジリエンスを「個人の能力や特性」ではなく「回復のプロセス」と捉えており、「個人の能力や特性」と、周りからの励ましなどの相互作用により、精神的に回復していく過程を指します。
参考文献
Cooke, F.L., Wang, J. and Bartram, T. (2019), Can a Supportive Workplace Impact Employee Resilience in a High Pressure Performance Environment? An Investigation of the Chinese Banking Industry. Applied Psychology, 68: 695-718
平野真理(2010)レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み:二次元レジリ エンス要因尺度(BRS)の作成.パーソナリティ研究,19(2):94-106
Lim, D.H., Hur, H., Ho, Y., Yoo, S. and Yoon, S.W. (2020), Workforce Resilience: Integrative Review for Human Resource Development. Perf Improvement Qrtly, 33: 77-101.
ライター:池田めぐみ
東京大学 社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター 助教。2020年 東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。主な論文に『大学生の準正課活動への取り組みがキャリアレジリエンスに与える影響:他者からの支援や学生の関与を手掛かりに』(日本教育工学会論文誌)など。