なぜイノベーションに「遊び心」が必要なのか?:連載「遊びのデザイン」第1回

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なぜイノベーションに「遊び心」が必要なのか?:連載「遊びのデザイン」第1回

本連載「遊びのデザイン」は、組織イノベーションにおける「遊び」や「遊び心」の有用性と可能性について考察し、具体的な実践方法について提案することを目指しています。

「遊びのデザイン」とはいったい何なのか。正直なところ、その定義や全体像については、まだ体系的に定義しきれていません。それでも、筆者は『問いのデザイン』の探究と並行して「“問い”と“遊び”が、組織イノベーションの鍵となる」と半ば直感的に確信しながら、この10年の間、研究のキーワードとして掲げてきました。

誰しもが子どもの頃に没頭した「遊び」には、ときとして組織を大きく変えるポテンシャルを持っています。組織変革の手法が「ペインフル」なものに偏る傾向があるなかで、いま「遊び」と「イノベーション」を結び付けて語ることが、組織変革の方法論におけるある種の「新結合」だと思うのです。

もちろん、遊ぶといっても、会社のなかで「かくれんぼ」や「鬼ごっこ」をしようという話ではありません。かくれんぼの面白さの本質とは何だったのか。鬼ごっこの無数のバリエーションには、どのようなファシリテーションのヒントが隠されているのか。そのようにメタ的に考察することで見えてくる、遊びのなかに潜んでいた人を没頭させる仕掛けや、枠から飛び出すための思考のエッセンスを抽出し、それをマネジメントや事業に適応すること。それが、遊びのデザインです。

遊び心によって、イノベーションの阻害要因を乗り越える

遊び心がイノベーションの処方箋になることを確信はしているものの、その理由を説明しろと言われると、シンプルな回答は容易ではありません。イノベーションと遊び心をつなぐ導線は、多層的に絡み合っていて、複雑です。

そもそもイノベーションは、なぜ生まれないのか。その阻害要因を明らかにすることで、イノベーションと遊び心の多層的なつながりが見えてきます。組織のイノベーションが阻害される要因については、連載「組織学習の見取図」でも解説してきましたが、この記事でも簡単におさらいしておきましょう。

イノベーションの阻害要因は、大きく分けると「個人」「チーム」「組織」のそれぞれのレイヤーに切り分けて考察することができます。

個人・チーム・組織レベルの要因

個人レベルの要因とは、従業員ひとり一人のアイデア発想の技能不足や、固定観念の囚われなどが挙げられます。

チームレベルの要因とは、イノベーションの大前提となる「コラボレーション」を活かしきれないことが挙げられます。

組織レベルの要因とは、組織の構造や風土によって、思い切ったリスクが取れなくなることなどが挙げられます。

このようにイノベーションの妨げを各層に分解してみると、それぞれのレイヤーに対して、「遊び心」は処方箋を与えてくれることに気がつきます。

遊び心は、個人の思考を飛躍させる

第一に、「遊び心」は、個人の創造的な思考を飛躍させます。遊びに埋め込まれた衝動的なパワーは、既存の枠組みを逸脱し、固定観念からはみ出す力を持っているからです。さらに「遊び心」は、ビジネスパーソンが得意とする「線形思考」から脱却し、「非線形思考」を促進してくれる効果を持っています。

線形思考とは、論理的思考(ロジカルシンキング)を代表とする、誰もが納得する直線的な思考です。「A→B」かつ「B→C」ならば、「A→C」であるとする考え方です。社会人になる前に習得しなければならない基礎的な技能の一つです。

ところが、この身についてしまった線形思考こそが、イノベーションの足かせになります。イノベーションは概して非連続的に生まれますから、「A→B」かつ「B→C」にも関わらず、「C」が正解にならず、想定外の「D」がイノベーションの解になることがあるから、厄介なのです。

この想定外の「D」を生み出す発想こそが、非線形思考です。以下の記事で解説されている「創造的飛躍(Creative Leap)」における「面的なプロセス」が、まさに非線形的な思考といえるでしょう。

デザイン思考の2つの本質的特徴:連載「デザイン思考のルーツから、その本質を探る」第2回

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2つのタイプの思考プロセス

遊び心が誘発する「物語的な思考」や、異なるものの間に類似性を発見する「アナロジー 思考」は、遊びに興じる子どもにとっては「当たり前」の発想ですが、これらが個人の非線形的な思考を促進し、発想を飛躍させるトリガーになるのです。

「この指止まれ」から生まれるコラボレーション

第二に、「遊び心」は、チームの創造的なコラボレーションを促進します。

イノベーションにおいてコラボレーションが重要だと「頭」ではわかりながらも、現場ではそう簡単には創造的なコラボレーションは実現されません。その理由は、コラボレーションには多大なる「コスト」がかかるからです。

意見の異なる他者と衝突し、前提をすり合わせながら新しいアイデアを生み出す作業は、忙しい業務においては「面倒臭い」作業であることも事実です。よほどコラボレーションを推進する必然性や合理的な理由がない限り、人はコラボレーションをしたがらないのです。

創造的なコラボレーションを促進する王道的な手段は、コラボレーションしなければ解決できない課題を設定すること。これが「問いのデザイン」による合理的なアプローチです。けれども人間は、必ずしも合理的な理由がなくても、自ら進んでコラボレーションをすることがあります。それは「一緒にやりたい!」と、内発的に動機付けられているときです。

思えば、子どものころに興じた「かくれんぼ」や「鬼ごっこ」は、誰かの「この指止まれ」という号令から創発した、必然性のないコラボレーションでした。組織の中に遊び心を持ち込むことで、チームの内発的なコラボレーションを促進すること。これが、遊び心がイノベーションに必要な二つ目の理由です。

ボトムアップ型の組織風土を醸成する

第三に、「遊び心」は、組織の創造的な風土を醸成します。

組織のトップダウン型の構造や、チャレンジを阻害する組織風土は、イノベーションの阻害要因になります。

しかしすでに述べたように、遊び心が個人の衝動と創造的思考を刺激し、チームの内発的なコラボレーションを促進したとき、組織はボトムアップ型のエネルギーを取り戻し、失敗のリスクを恐れないユーモア溢れる風土が醸成されていくでしょう。組織そのものが遊び心を持ったとき、自ずと経営のモードは「両利き」となり実験と学習を楽しめる組織となっているはずです。これが、遊び心とイノベーションをつなぐ組織レベルの理由です。

このようにして、遊び心はイノベーションの阻害要因に処方箋をもたらしてくれます。言い方を変えれば、組織全体に創造的なエネルギーを充填させてくれるのです。次回の連載では、本記事でも繰り返し登場した「エネルギー」という観点から、組織における遊びの意義と可能性をさらに掘り下げて考察していく予定です。お楽しみに!

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連載

遊びのデザイン:組織変革のプレイフル・アプローチ

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組織変革の方法論は、組織に潜んだ無意識の病理に迫るもの、危機感を起点に構造を再編するものなど、ネガティブなアプローチに傾倒しがちです。しかし、人と組織が変わる契機は「痛み」だけではないはずです。本特集では、仕事や日常生活に「遊び心」を取り入れることで創造性を高める「遊びのデザイン」に着目し、組織の変化を楽しむ「プレイフル・アプローチ」の可能性と方法について探究していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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