ワークショップをデザインするとはどういうことか

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ワークショップをデザインするとはどういうことか

組織開発や事業開発のプロジェクトを設計する上で、「ワークショップ」を適切なタイミングで組み込むことは有用です。筆者がイノベーションプロジェクトをファシリテートするときには、以下の記事で解説したワークショップのエッセンスをよく理解した上で、必ず複数回のワークショップを設計に組み込みます。

イノベーションになぜ「ワークショップ」が重宝されるのか:100年の歴史から紐解くエッセンス

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学会や大学の授業などにおいて“ワークショップデザイン”という領域が確立して、約10年が経ちました。改めてワークショップをデザインするとはどういうことか、整理しておきましょう。

ワークショップの「企画・運営・評価」のサイクルとして捉える考え方

ワークショップデザインというと、当日のファシリテーションと切り分けて、準備段階の「プログラムデザイン」のみを指し示すケースもありますが、それではあまりに射程が狭すぎます。

ワークショップをデザインする営みを、もう少し広いサイクルで捉えるために、拙著『ワークショップデザイン論』では、事前の「企画」、当日の「運営」、事後の「評価」の3段階にフェーズを切り分け、評価の結果を次の企画に返すところまで含めて、そのサイクルをワークショップデザインとして位置付けました。

ワークショップそのものをデザインする活動の全貌という意味では、単なるプログラムの準備段階を超えて、もう少し大きい流れの中でデザインを捉えることができます。

ワークショップデザインとは、ワークショップの企画、運営、評価のサイクルである。

「経験のプロセス」を促すための学習環境のデザインとして捉える考え方

他方で、このサイクルモデルだけでは、ワークショップデザインとはいったい何をデザインしているのか、他のデザイン領域とは異なる「ワークショップ」に固有のデザインの対象と性質が見えてきません。上記のモデルでいえば、ワークショップデザインとは何を企画し、何を運営し、何を評価すればよいのかを言語化しておく必要があります。

たとえば「ロゴデザイン」であれば、企業のアイデンティティを視覚的に表現することで、社内外にブランドイメージを形成し、コミュニケーションの媒介になることが、ロゴに固有のデザインの対象と性質の説明です。

それでは、ワークショップはどうか。一言で言えば、その特徴は「経験のプロセス」のデザインという捉え方で説明が可能だと考えています。ここでいう経験とは、人が何かに気づいたり、集団が変化したり、新たなアイデアが創発するような「変化のプロセス」を指しています。集団が「日常の経験」から離れて、意味のある変化につながる「非日常的な経験」のプロセスを導くのが、ワークショップデザインの実態です。

経験のプロセスをデザインするためには、どんな参加者が(共同体)、どこで(空間)、何を使って(人工物)、何をどんな順序で(活動)、経験するのか、「学習環境」を有機的にデザインしなければなりません。それを踏まえて再定義をすると、以下のようにまとめられます。

ワークショップデザインとは集団が「日常の経験」から離れ、「非日常の経験」経験を通して変化するプロセスを促すために、学習環境(活動・空間・共同体・人工物)を有機的にデザインすることである。

ワークショップの「活動」の基本構造

前述した定義において、もっとも経験の質に影響を与える変数は「活動」(何をどんな順序でやるのか)のデザインです。

拙著『ワークショップデザイン論』では、ワークショップの理論的源流であるジョン・デューイの経験学習の理論と、それを定式化したコルブの経験学習モデルを参考に、ワークショップの単体の「活動」の基本構造を[導入][知る活動][創る活動][まとめ]の4段階で定義しています。

ちなみにこれは「ワークショップ」に限らず、会議やイベント、授業などワークショップの要素を活用したいその他の活動デザインにも援用可能です。1時間の会議であっても、2時間のトークイベントであっても、50分間の授業であっても、漫然と時間を使うのではなく、使える時間が参加者にとって豊かな経験になるようにプロセスをデザインすることは必須です。※時間の配分は目安です

以上を踏まえて、これまで述べてきた定義を以下にまとめます。

ワークショップデザインとは、集団が「日常の経験」から離れ、「非日常の経験」経験を通して変化するプロセスを促すために、学習環境(活動・空間・共同体・人工物)を有機的にデザインすることである。

このうち「活動」は、特に経験の質に影響を与えるため、基本プロセスである「導入」「知る活動」「創る活動」「まとめ」の4段階に従って、戦略的に構成する必要がある。

活動の基本プロセスをベースにした学習環境を、企画・運営・評価する一連のサイクルが、ワークショップデザインの全体像である。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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