新型コロナウイルス感染症の影響から、リモートワークへ移行した企業も増えてきたのではないでしょうか。これまで出社が当たり前とされていた企業では、リモートワークに適応した組織にいかにシフトするのかが問われています。
リモートワーク移行時には多くの課題が発生します。特に「人事は組織の戦略部門であるべき」と言われますが、全社組織変革の担い手としてリモートワーク移行を推進する必要があるでしょう。推進にあたって考えるべき役割は主に6つです。本記事では、その6つの観点に沿ってリモートワークの移行時と移行後に考えるべき内容をご紹介します。
目次
A.組織環境の整備:リモートワーク環境の整備
B.社員への支援|日常:社員の就業生活サポート
C.社員への支援|業務:在宅でパフォーマンスを高める支援
D.コミュニケーション:社員同士が健全に業務を進める支援
E.評価制度運用の変革:在宅勤務に対応した評価運営
F.COVID-19への対策:コロナへの組織方針と対応
最後に:リモートワークの成功には、経営の意思決定が必要
A.組織環境の整備:リモートワーク環境の整備
(01).ビデオ会議の準備リマインド
Zoomなど用いたビデオ会議の[マニュアル策定]と[従業員研修]と[事前システムのインストール]が必要です。リテラシー差を埋めることで、円滑な会議運営がなされます。
(02).在宅作業の準備
在宅でも作業できるように、PCやビデオ会議用の機材準備が必要となります。特にマイクやイヤホンの質が悪いとそれだけで会議がスムーズに進まなくなります。
(03).PC環境の準備
作業ファイル/ドキュメントへのアクセス許可、作業するにあたって必要なソフトの使い方研修、システムインストールに対する個別ケアが必要となります。
(04).従業員の在宅環境に対する調査
社員の在宅作業環境の状況(主に机/椅子/WiFi環境)によっては支援が必要となるため、調査を行い支援方法の決定が必要となります。
(05).在宅環境設備への費用負担
1-4と連携して設備に対する費用負担ルールが必要です。調査コストがそれなりに重たいので、「在宅設備金」として一律配布するのも手段です。
(06).帳票管理と稟議システムの変更
在宅で帳票入力や稟議ができるよう、各クラウドサービスの導入が必要になります。こちらに対応しなければ、[ハンコを押す為][帳票印刷と提出の為]に出社する事態となります。
(07).情報セキュリティの対策
在宅勤務時のセキュリティ対策と、在宅勤務に対応した“社員へのコンプライアンス研修”が必要となります。
(08).勤怠ルールの柔軟な対応
個人に合わせた柔軟な対応が必要です。就業形態として<変形労働時間制/フレックス/裁量労働制>への変更も視野に入れつつ、それに即した勤怠管理の整備が必要です。
(09).労働に対するルール決め
労働基準法は在宅勤務においても有効となります。労働時間/有給休暇/割増賃金/労災などの取り扱いルールを決めてアナウンスする必要があります。
(10).就業規則の変更
ルール変更に基づき“就業規則”のアップデートが必要です。大企業では“就業規定”の変更ハードルがボトルネックとなり、ルール変更が進みづらいケースもあります。
B.社員への支援|日常:社員の就業生活サポート
(11).健康に対するサポート
心身の健康管理を、リモートでサポートする対応が必要になります。定期的なヘルス調査と、それに応じた産業医によるリモート面談の仕組みを準備する必要があります。
(12).マネジメントに対するリファレンス
メンターネットワークづくりにより、マネジメントが適切に行われているか“リファレンスチェック”する仕組みが必要です。場合によっては、人事が働きかけを行います。
(13).人間関係が希薄化しない機会づくり
チャットコミュニケーションの練度差が原因で、組織参加が希薄化する人材が発生する可能性があります。接触機会となる「コンテンツ提供」が必要です。
(14).制約により働けない人へのケア
小学校/保育園の閉鎖に伴い、家庭によっては育児によって就業しづらい状態となります。リモートでの保育環境の提供、有給や休業補償等の個別対応が必要です。
(15).心身のセルフマネジメントの啓蒙
在宅勤務により「生活リズムが崩れ、健康を損なう」ことは往々に起こります。組織でどこまで担保すべきか検討の余地はありますが、心身のリズムづくりへの啓蒙と支援も必要です。
(16).意欲・エンゲージメントチェック
顔が見えなくなり、個人の問題を見逃しがちになります。エンゲージメントサーベイ等の導入により、意欲が可視化される仕組みが必要です。
(17).労務担当による定期的な1on1
リモートワークの仕組みが整うまでに有効なのが、労務担当者による定期的な1on1です。業務・在宅状況・健康面チェックを第三者観点から行うことでリスクマネジメントします。
(18).管理者と社員に対する研修・啓発
1-7を含めた労務管理に対する管理者研修と、社員に対する自己管理への啓蒙を定期的に行う必要があります。
C.社員への支援|業務:在宅でパフォーマンスを高める支援
(19).業務に対するルール策定
リモートワークでは、異なる「ワークスタイル」「コミュニケーション」に対するストレスが発生しやすいため、異なる価値観を受け入れながら健全に業務を進める共通ルールが必要です。
(20).業務課題と管理者と解決する
リモートワークではすれ違いが多く発生し、進捗管理の難易度が高いとされます。社員の悩みの起因の多くはこちらなので、業務管理者と連携しつつ共に解決する姿勢が求められます。
(21).OJTから脱却する
リモートワークでは「上司が並走し業務を教える」OJTが難しくなるため、新人/若手/部下の育成を研修により担保する仕組みを考える必要があります。
(22).リモートの教育研修
教育研修もオンラインで提供する仕組みが必要です。オンラインでは「集中力/参加率」の減少傾向がある為、プログラム設計をオフラインとは変える必要があります。
(23).Pay for performanceの啓蒙
国内マネジメントは長く「Pay for time/place(オフィスに滞在してれば、その時間に応じた対価が支払われる)」でした。しかしリモートワークでは「Pay for performance(成果に応じて支払う)」が基本です。この考えはギャップが発生しやすく、丁寧な解説が求められます。
(24).時間/タスク管理に対する教育
タイムマネジメントスキルで生産性が大きく変わります。管理ツールの使い方から思考トレーニングまで、基本学習を行う必要があります。
(25).意思決定ファシリテーションの教育
(ア)会議に臨む前の「アジェンダ作成」、(イ)会議の意思決定を促す「ファシリテーション技術」、(ウ)会議後の「議事録作成」。基本中の基本ですが、この3つができるかどうかで効率性は大きく変わります。改めて教育する必要があります。
D.コミュニケーション:社員同士が健全に業務を進める支援
(26).管理スタイルの変更
ピラミッド式マネジメントはオフラインで上長が部下を身近に置くのが基本です。しかしリモートワークでは身近におけない為、ボトムアップで自走させる管理スタイルに変える必要があります。
(27).メンバーへの情報開示
情報の対称性と透明性が、自分で意思決定して行動するには必要です。一部の層が情報を占有している状態から脱却する必要があります。
(28).リモートに合わせた稟議のデザイン
チャットコミュニケーションにおける“情報の流通経路のデザイン”はいわば“擬似的な組織デザイン”です。[共有/相談/稟議]の設計をリモートワーク仕様に変える必要があります。
(29).テキストコミュニケーションへの教育
テキストコミュニケーションに慣れていないと高速で飛び交うチャットに対して、「正しい理解」と「正しい伝達」ができず、支障をきたす可能性があり、教育が必要です。
(30).他者受容に対する啓蒙
オンラインであらゆる情報が行き交うことで“異なる価値観”に触れる機会が増えます。他者に興味を持ち、受容姿勢をもつ啓蒙が必要です。
(31).コミュニケーションモラルの啓蒙
(30)で受容が大切としましたが、オンラインでは情報が一方的に発信されやすく、ともすれば「不快に感じる情報」に受け手が晒され続けるリスクがあります。何を「正」とするか決めたうえで、モラル啓蒙が必要です。
(32).組織文化浸透施策
「円座で対話する」組織開発が封印されたなか、オンライン組織開発の取り組みを行い、リモートワーク環境に合わせた「組織文化の浸透」を行う必要があります。
(33).オフィスへで働く意味
リモートワークに多くの社員が慣れると、オフィス就業自体への問いが発生します。「オフィスをどのように活用するのか?」の検討と意味づけが必要です(勿論活用意図がなければ解約も手段です)。
E.評価制度運用の変革:在宅勤務に対応した評価運営
(34).評価制度の変革
多くの企業の評価は「Pay for time/place」に基づいており「オフライン組織の活性化に貢献している」ことが評価ウエイトを多く占めています。在宅勤務に適した「Pay for performance(成果に応じて支払う)」に移行し、それに適した評価指標・賃金制度が必要となります。
(35).業務分析による指標化
Pay for performance(成果に応じて支払う)に移行するには、“正しく成果が出る業務のあり方の定義”と“指標”が必要です。業務調査分析を通じ、定義と指標化をしましょう。
(36).定量評価の扱い
定量評価にしやすい職務は以下の特徴があります<(ア)外勤メイン、(イ)自己完結できる、(ウ)成果評価が客観的にできる>。こちらに該当する職務は定量評価に切り替えていきます。
(37).定性評価の扱い
(36)と逆に<(エ)内勤メイン、(オ)チーム業務、(カ)成果評価が客観的にしづらい>職務は100%定量にはできません。ただし定性評価でも「成果をだせる業務構造」を特定すれば「Pay for performance」への対応は可能です。
(38).評価面談の運営
評価フィードバックはオフラインに比較して“慎重な運営”が求められます。マネージャー自身の主観ではなく、客観的事実に基づきフィードバックがなされるように組織的な評価を行う必要があります。
(39).リファレンスによる情報対称性の仕組み化
健全な評価制度運用のためには、第三者からのリファレンスの仕組みを基盤にした「透明性の高い評価」が重要です。フェアネスを大切にした制度運営が求められます。
(40).マネジメントに対する説明とケア
評価面談のあり方がリモートでは大きく変わります。マネジメントにもガイドラインを提供し、啓蒙を行う必要があります(対応をしなければマネージャーに大きな負荷がかかります)。
(41).従業員側の評価面談への準備ケア
従業員にも評価面談に臨む姿勢として、自分の果たした“成果内容のプレゼンテーション準備”を充足に行うことが求められます。一緒に“評価すり合わせ”を健全にするためのサポートが必要です。
F.COVID-19への対策:コロナへの組織方針と対応
※下記は4月13日時点での情報を元としています。
(42).行政に合わせた意思決定
行政の随時アップデートされる情報に基づき、リモートワーク期間延長の意思決定、社内啓蒙が必要となります。
(43).不要不急の外出自粛要請
行政要求に従いつつ、3つの「密」(密閉空間、密集場所、密接場面)をプライベートでもできる限り抑制するよう従業員に要請することが必要です。
(44).社外やり取りのオンライン化
当然ながら社外顧客とのやり取りや、採用面接のやり取りは「遠隔」にて対応できるようにガイドラインを策定する必要があります。
(45).国内外への出張の禁止
特に緊急事態宣言が出された地域においては、国内外への出張/渡航/移動を避ける旨を要請する必要があります。(ただし家族環境や在宅環境への配慮は個別に行います)。
(46).感染症予防啓蒙の徹底
体調が悪い場合の検温、外出時のマスク着用、手洗いとアルコール消毒の啓蒙を行い、感染予防と体調管理を徹底する必要があります。
(47).オペレーションの策定
行政のガイドラインに従いながら、体調不良者の検知、感染者が出た場合の対応におけるオペレーションマニュアルを確立し、管理体制を整備する必要があります。
(48).情報のアナウンス
日々アップデートされる情報に対し「正しい情報調査と、定期的な社内アナウンス」を行い社内の動揺を防ぐ必要があります。
(49).緊急出勤する場合のマニュアル
就業上の都合でやむなく出勤する場合の「許諾ルール」の策定と、時差出勤/通勤時における予防措置の徹底が必要です。ただし重ねてとなりますが、基本的にはオフィスへの立ち入りは余程の理由がない限り禁止することを推奨いたします。
最後に:リモートワークの成功には、経営の意思決定が必要
人事の役割として「組織戦略実現と社員配慮」を両立させながら変革を推進することが大切です。変革にあたって、最終的には経営の意思決定が必要です。正確な“課題”を特定しながら「迅速な意思決定」がされる解決方法の策定が重要です。目の前の「リモートワーク化」を乗り越えるだけでなく、状況が中長期化したケースも見据え計画を立てることも求められます。今回の項目が思考の材料となり、役立てていただけたらとても嬉しいです。