昨今、リモートワークの普及により急速な業務効率化が進む一方で、メンバー同士が「感情を共有する」機会が失われていると感じる方は多いのではないでしょうか。特に部下を持つマネージャーの方々は、画面越しのチームメンバーの「感情」がわからず、苦労をした経験があるはず。
また、トップダウン一辺倒の組織から脱却し、チームメンバーがポテンシャルを発揮できる状態をつくるには、個々人の心理状態を丁寧に観察することが重要になります。メンバーに自己開示してもらう問いかけは対面ですら難しいにもかかわらず、どうすればオンラインで「チーム内の見えない感情」を知ることができるのでしょうか。
そんな課題に対するヒントを求めて、CULTIBASEでは著書『自分とつながる。チームとつながる。』においてチームが感情でつながる働き方を提案されている中村真広さん(株式会社ツクルバ共同創業者/株式会社KOU代表取締役)と、『問いかけの作法』の著者・安斎勇樹(CULTIBASE編集長/株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO)による安斎勇樹との対談を実施。本記事では、組織において感情を起点に対話を促進するオンラインツール「emochan」の開発も手掛ける両者が、チームメンバーとの対話の場における「感情」との向き合い方について語り合った模様をお届けします。
チームの「見えない感情」を観察・共有するためには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。スタートアップ経営者としての重圧に対峙しながら、自己の内面に向き合いつづけてきた中村さんの体験談をもとに、マネージャーが自分の感情と向き合うことを通して、部下との感情コミュニケーションを円滑にするための技法を深堀りしました。
スタートアップ経営の中で経験した「感情」の問題
今回ゲストにお招きした中村さんは、2019年に東証マザーズへ上場したツクルバの共同創業者です。中村さんは株式会社KOUを2018年に設立。ツクルバの急拡大とともに組織課題が増加し、その過程で”代表である自分はこうあらねば”というプレッシャーから疲弊したことが、自分の感情と向き合うことになった背景にあるといいます。
中村さんは、うまくいかない日々の中で立ち止まって内省をはじめます。そこで、幼い頃から抱え続けてきた「まだまだ自分は不十分だ」という欠落感や自己不全感の存在に気づいたそうです。
中村 ツクルバを創業して突き進んできた原動力には、欠落感と、その裏返しの「まだやれる」という反骨精神があったんです。だから、いくら事業を大きくしても焦燥感に駆られつづけ、プレッシャーから逃れられなかった。さらに内面の深堀をつづけた結果、「誰もがありのままで十分だと言いあえる世界の実現」という、自分の本当の願いに気づきました。そこから、少しずつ状況が好転していったんです。
焦りや恐れからではなく、自分の奥底にある願いが生み出すエネルギーで日々仕事をすることの大切さを再発見した中村さん。しかし、社会全体を見渡したときに、この世界観で仕事をすることは難しいと同時に気づいたそうです。なぜなら、多くの人々が日々を忙しく過ごすことに精一杯で、自分や他人の内面に注意を向けるだけの余裕がないからです。
中村 「自分の内側にある願いとつながりながら仕事する」ことは簡単ではありません。多くの人は、目の前の目標やKPIに向けてやるべきことをこなす「Doing」の世界で生きることで精一杯。自分と向き合う時間も無いし、隣にいる仲間が根幹に持つ生き方や価値観である「Being」や願いに耳を傾ける時間もなく仕事をしているんです。でも、仲間の内側にも自分と同じように願いがあるわけで、それに耳を傾けるためにはどうすればいいのか。その一心で、本を執筆して、「emochan」をつくりはじめました。
またKOUの設立に至ったもうひとつの理由は、資本主義や経済、お金の物差しで測るとこぼれ落ちる価値があることに、株式上場の過程で気づいたからだと中村さんは語ります。「面白さ」「コミュニティの価値」「感謝の気持ち」といった、数字では表しにくい想いを、どうやって掬い上げるか。試行錯誤を重ねた末に、「どうすれば企業内の感情的なコミュニケーションを円滑にできるか」というテーマに手応えを感じ、事業として追求をしはじめたのです。
企業内コミュニケーションは「エモとロジック」の両輪から活性化する
「どうすれば企業内の感情共有を円滑にできるか」──この問いに対して中村さんが問題提起するのは、仕事時間のほとんどが「ロジックを用いて理詰めに考える」頭の使い方に偏ってしまうことです。
中村さんのこうした問題提起を受けて、安斎は人間のコミュニケーションの様式には「論理科学的様式=パラディグマティックモード」と、「物語様式=ナラティブ」の2つがあると説明します。前者はロジカルかつ科学的で無駄がないコミュニケーションを良しとするモードです。つまり、これこそが仕事時間の大半でフル稼働させる「頭の時間」であり、議論して結論を出して課題解決する「Doing」の場だと安斎は説明します。
それに対して、後者の「物語様式=ナラティブ」は「心の時間」です。論理的整合性がなくても人間的な面白みを感じるモードで、相手に寄り添う共感を生み出します。議論ではなく対話の場で用いられ、相手の「Being」に問いかける時間でもあります。
安斎は、仕事の生産性を最大化させるためには、企業内コミュニケーションを「エモとロジック」の両輪から活性化させることが重要だと説明します。課題解決に向き合う「頭のモード」だけではなく、人間が納得したり、腹落ちしたり、深く物事を理解したりするには、「心のモード」すなわち物語が必要となるのです。この点について、中村さんは「頭のモード」へ偏重する弊害について問題提起します。
安斎 仕事中に「頭のモード」ばかりを使い、イライラや感情を無かったことにしていると、「感情の負債」が溜まります。すると、どこかで歪みが生じて、感情が爆発したり、健康に害が出たりするのです。だから、健康管理の観点でも「感情に蓋をせずに味わいきる」ことが重要だと考えています。そのためには、身近な仲間と接する際に、その人の本当の声や、奥底にある感情と繋がれているのかを意識しながら、日々を過ごすことが大切です。
しかし、リモートワークでオンライン化が進み、きっちりアジェンダが決められた会議が増えると、「頭のモード」への偏りにより拍車がかかると中村さんは指摘します。ナラティブな「心のモード」を意図的に挟むコミュニケーションを企業内に取り入れるには、どのような姿勢や取り組みが効果的なのでしょうか。
マネージャーは「心の鎧」をどうすれば脱げるのか
メンバーが感情に蓋をしない、「心のモード」も取り入れた働き方をするためには、チームを持つマネージャーやリーダーが感情に振り回されず、きちんと自分の感情に向き合っていることが大切だと安斎は語ります。
安斎 たとえば、自分が「恥ずかしい思いをした」「嫉妬した」「怖い」と感じただけなのに、それを隠すためにロジックで相手を詰めたり、怒り出したりする人がいます。それは、自分の感情に気づけていない状態です。こうした人が上司の立場にいると、メンバー間で感情をオープンにできる環境は醸成されず、少しずつ組織から対話が失われていくんです。
自分の感情への解像度が高ければ、相手の感情への解像度も高くなれる。まずはリーダーが自分と対話をする、セルフケアの時間を持つ必要があると安斎は語ります。
安斎 「チーム内の感情をどう観察するか」を考える際には、まずは自分の感情を観察することが大切です。自分が心に鎧を着たまま、相手の感情だけ見抜こうとしても難しい。もし『部下が自己開示してくれない』と悩んでいるのであれば、まずは『自分は鎧を脱ぐことができているか?』と、自分に問いかけてみると良いでしょう。
エグゼクティブ・ファシリテーションとは何か?:不確実性と向き合う経営チームのつくり方
こちらの動画コンテンツでは、経営層やマネージャーが責任による”鎧”を脱ぎ、一人の人間として対話に臨んでもらうためのファシリテーションの実践論を解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。
また、安斎はチームレジリエンスの観点から、痛みと不確実性を伴うストレスフルな課題にチームが向き合い、乗り越えようとする時、対話が必要になると提起します。しかし、チームメンバーたちが普段から感情を自己開示できておらず、自分の感情に蓋をしている状態だと、対話がなされず職場の問題が先送りにされてしまう。
それはメンバー自身が「この問題からなぜ目を背けたいのか」がわからず、ストレスから逃避行動を取ってしまうからだと安斎は指摘します。マネージャーやリーダー、メンバー全員が心や感情のセルフケアを怠らないことで、問題解決に向かう対話がはじめて成立するようになるのです。
なぜ今「チームレジリエンス」が必須科目なのか?:個の力に頼らず、不確実性に対処するための方法論
不確実でストレスフルな時代を迎える中で、個人のレジリエンス(=困難さや挫折から立ち直り、前進し続けられることやその力)をチームで支えるために何ができるか。こちらの動画ではそうした「チームレジリエンス」を高めるための最新講義をお届けしています。
では、「心の鎧」で武装してしまいがちなリーダーは、どうすれば自らの感情に向き合えるのでしょうか。安斎は「怒り」の感情に目を向けることが近道であり、怒りの裏側には別の感情が潜みやすいとヒントを提示します。本当は自分が何を大事にしているのか、「悲しいから怒っている」といった、感情を客観視できる着眼点がそこにあるのです。また中村さんは、自らの感情と対話するために、「感情ジャーナリング」を推奨します。
中村 週に1回、毎週土曜の朝に、1週間あった出来事を棚卸しして、感情を書き綴って味わい直しています。紙とペンでバーッと書き綴ると、出来事と感情が渾然一体となった謎のメモが出てきます。でも気にせず、好きに書いて流れるように、まずは感情を出していく。このジャーナリングで感情を定期的に流してあげることで、自分の感情への解像度が飛躍的に上がりました。
中村さんが上場の過程でリーダーとして行き詰まった時に、感情ジャーナリングを始めることで突破口が見えたという経験からは、さまざまな示唆が読み取れます。イライラや不満の原因を他者に求めず、まずはペンとノートを取り出して内省する。そこで自分の感情に向き合って初めて、部下やメンバーとのコミュニケーションの糸口が生まれてくるのではないでしょうか。
チーム内に心の時間を取り戻すツール・「emochan」とは
とはいえ、マネージャーの目標は、自分の感情に向き合うことではなく、メンバー個々人のポテンシャルを最大限に発揮させることです。そのためには、個々人の心理状態を丁寧に観察することが重要となります。しかし、リモートワークが普及したことにより、チーム内でも距離が生まれやすい状況下で、私たちは画面越しの相手の見えない感情をどのように理解できるのでしょうか。
この難しい課題に対して、中村さんと安斎が中心メンバーとして開発に携わったのが、感情を起点とした対話の場づくりツール「emochan」です。
「emochan」は、感情を切り口に他者と対話するきっかけをつくるツールであり、会議の冒頭や1on1などに心で「物語る」経験を挟むことで、ナラティブモードを仕事で発揮する機会をつくることを目指しています。
安斎 マネージャーやリーダー目線で「emochan」を説明すると、メンバーがこのツールをフックにして、感情を出すキッカケづくりをしてくれるツールです。マネージャーは武装していることもあり、ナラティブや心のモードを使えなくなっていることも多い。だから、「emochan」は会議のファシリテーションを進行し、チームがナラティブに語りあえるリハビリやケアをしてくれるんです。
「emochan」の研究開発において採用されたのは、人間の基本感情を8つに分類する「プルチックの輪」という心理学の理論です。
この図では、感情が円環状で8つの領域に分割されており、対角線上には反対の感情が配置されているのが特徴です。たとえば、「喜び」の反対側には「悲しみ」、「嫌悪」の反対には「安心」など、対になっています。大事にしていることが満たされると喜びになり、なくなるとぽっかり穴があいた悲しみに変わるように、感情の対を手がかりに、感情を因数分解して味わい直せたりと、リフレクションできることが特徴です。
利用方法も、会議の冒頭5〜10分で感情をシェアしあう「check」と、30分〜1時間の1on1などでそれぞれが内省をした上で相手と対話するための「dive」というツールが導入されています。
感情の内省は、ジャーナリングを使って1人で実施したり、ファシリテーターが入って感情を共有したりなどさまざまな方法があります。その中でも、チーム内での日々の営みや、ナラティブを共有しあうツールとして「emochan」を活用していくと、メンバーの見えなかった感情が可視化され、チームが円滑に動きだす手助けをしてくれるでしょう。
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現在CULTIBASEでは、会員制オンラインプログラム「CULTIBASE Lab」に10名以上の法人会員として新規登録/切り替えくださった企業様を対象に、「emochan」を3ヶ月お試しでご利用いただけるキャンペーンを実施中です。また、安斎による新刊『問いかけの作法』もアカウント人数分、無料で進呈させていただきます。メンバーの感情を問いかけの力で深く共有し、豊かなチームづくりへと活かしていける内容をお届けしています。関心のある方は、ぜひ下記プレスリリースより詳細をご確認ください。
▼『問いかけの作法』が22,000部突破!増刷を記念して、CULTIBASE Lab法人会員登録/切り替えキャンペーンを実施
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000031576.html
また、CULTIBASE Labでは、今回の対談の模様をアーカイブ動画として公開中です。
チームの「見えない感情」をいかに観察し、共有するか
現在10日間の無料トライアル期間も設けています。よろしければ、上記動画ページより入会をご検討ください。
Text by Tetsuhiro Ishida