個の力に頼るのは危険?いま重要な「チームレジリエンス」とは:連載「チームレジリエンスの科学」第2回

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個の力に頼るのは危険?いま重要な「チームレジリエンス」とは:連載「チームレジリエンスの科学」第2回

外部環境の変化が速く、先行きが不透明な時代を生きる上で欠かせない要素の1つに、レジリエンスがあります。レジリエンスとは環境の変化や仕事上の困難に対処し、回復する力(Noe, et al., 1990)*1のことを意味し、レジリエンスが高いと、変化の多い時代においても高いパフォーマンスを発揮できると考えられています*2。これまでレジリエンスは主に個人の問題として研究がなされてきましたが、近年では「チーム」でいかに逆境を乗り越えるのかということにも関心が集まり、「チームレジリエンス」の研究も進められてきています。「チームレジリエンス」という新しい言葉を耳にすると、「なぜ個人のレジリエンスを考えるだけでは不十分なのか?」「チームレジリエンスとは一体何か?」と言った疑問が生じてきます。この記事では、こうした疑問に関する答えを、最新の研究動向も踏まえながら解説します。

『困難さを創造的に乗り越えるレジリエンスの4つの戦略:連載「チームレジリエンスの科学」第1回』より

なぜチームレジリエンスが重要なのか?

そもそも、なぜチームレジリエンスを考える必要があるのでしょうか? 「うちのチームはレジリエンスの高いメンバーしかいないから大丈夫」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はその考え方は危険です。チームが困難から回復していく過程においては、個人が困難から回復する場合とは異なる問題が生じるからです。

個人のレジリエンスに依存するのは危険

チームメンバー個々のレジリエンスが高ければ、チームで困難を乗り越えられると考える立場もあります。確かに、チームでプレッシャーの高い仕事に励む際には、個々人のレジリエンスも重要かと思います。一方で、チームの困難状況の解決を個々のレジリエンスに任せてしまうのには、いくつか危険があります。

第1に、レジリエンスの高い個人は、困難に遭遇すると、焦点をチームから個人に移す傾向があり、チームよりも自分を守るような行動に出る可能性が高くなります(Stoverink et al. 2020)。第2に、個々が対処することを重視すると、解決の難しいチームの課題も、誰か1人が解決することになります。何度かそれを解決しているうちに、解決に向けて動く人は固定化されてきます。いくら、レジリエンスの高い個人であっても、何度も何度も一人で重たい課題と向きあえば、消耗していき、これにより折れてしまうことも少なくありません。第3に、「三人寄れば文殊の知恵」という言葉もあるように、一人の力では解決できない困難も、メンバーの個々の専門性を生かすことができれば、良いアイデアが出て、解決できる可能性があります。

チームレジリエンスが低いと、犯人探しや責任転嫁が起こる

チームで逆境や困難を乗り越え、回復する力*3であるチームレジリエンスが低いと、チームとして出せる成果にも悪影響が及ぼされます。

例えば、イノベーション創出を役割とするチームについて考えてみましょう。イノベーションを起こす上では、失敗や挫折がつきものです。新しいアイデアをチームで考えても、それが却下されることや、アイデアの実現に向け動き出す過程でうまく行かなくなることも少なくありません。

また、こうしたイノベーションに関わる失敗は、無力感や疲労感を産み、次のイノベーションにおける行動や成果にも悪影響を与えることが、研究によっても確認されています(Chung et al. 2017)。チームがアイデアを実現する上で、うまく行かないことに遭遇した時に、チームレジリエンスが低く、困難を解決できないチームでは、しばし犯人探しや責任転嫁が起こります。「Aさんが、仕事ができないから」「C部長のマネジメントがうまく行かないから」と考え始め、チームが回復するどころか、最悪のムードになってしまうことさえあります。

一方、チームレジリエンスが高く、困難を乗り越えるチームは、課題を特定し、個々の専門性や力を最大限に発揮させながら、うまくいくにはどうしたらいいか考え、次の成功につなげていきます。

チームレジリエンスが高いと、危機を学習資源に変えられる

このように、チームレジリエンスを軽視することにはさまざまなリスクが潜んでいますが、それだけではありません。チームレジリエンスには、よりポジティブな効果もあります。

興味深いことに、チームは困難を乗り越える経験をし、それを振り返ることで、レジリエンスの高いチームになると言われています(Stoverink et al. 2020)。チームが何がきっかけで立ち直れたかを振り返ることは、チームで困難を乗り越えられるという自信を育むほか、どのように役割分担をして動けばより効果的に問題に対処できたか考えることも、次の機会により効率的に問題状況から立ち直ることにつながります(Stoverink et al. 2020)。

このように、レジリエンスの高いチームは、危機を学習資源に変え、より困難に立ち向かえるチームへと進化していきます。一方で、レジリエンスの低いチームは、困難と遭遇するたびに、チームワークを悪くして、良いアウトプットを継続的に生み出すことが難しくなっていくかもしれません。

チームレジリエンスを高めるために重要な「対話」

では、チームレジリエンスを高めるためには、どのようなアクションを取ればいいのでしょうか? 具体的な対処策については、連載の次回以降で詳細に解説していきますが、ここでは代表的なポイントを紹介します。

個人が困難から回復する際に、自分が何によりショックを受けているのか、ということはある程度明確だと思います。一方で、チームの場合、個々のメンバーによって「なぜ、チームがうまく機能していないか?」という問いに対する見解が異なることが多々有ります。

例えばチームで「エース社員が突然抜け、売り上げ目標が達成できなくなった」という挫折を経験したとしましょう。その際に、マネジャーは「エース以外の社員のスキルが低いこと」を解決すべき課題だと考えているかもしれません。一方で、チームメンバーのAさんは、「ナレッジがシェアされていないこと」を、Bさんは、「そもそも売り上げ目標を達成せよ!というプレッシャーが強すぎてソワソワして働きにくい状況」を問題視しています。

このように、チームで困難から回復する際は、解決するべき課題の認識が個々で異なり、そこに、回復への難しさが生じます。なので、チームで困難に対処する上では、個人とは異なり、まずは、対話によって課題をすり合わせることが大切となります。

チームレジリエンスを考える際には、個々のものの見方の違いを乗り越え、誰か一人のレジリエンスに依存するのでなく、チーム力を高めることが重要になってくるのです。

以上、この記事ではチームレジリエンスの概要や必要性もについて紹介しました。次回以降は、チームレジリエンスの基本プロセスや、困難から学び回復できるチームの特徴について、具体的にまとめていきます。

CULTIBASEで過去に開催したライブイベント「レジリエンスの科学:創造的に困難を乗り越える4つの戦略」では、筆者・池田めぐみがCULTIBASE編集長の安斎勇樹とともに、ストレスとうまく付き合い、レジリエントに創造的であり続ける”長距離走型の働き方”に向けた4つの戦略について解説しています。アーカイブ動画からその様子をご覧いただけますので、興味のある方はぜひこちらもご覧ください。

https://www.cultibase.jp/videos/7310

参考文献
Alliger, G.M., Cerasoli, C.P., Tannenbaum, S.I., & Vessey, W.B. (2015). Team resilience: How teams flourish under pressure. Organizational Dynamics, 44, 176-184.
Chung, G. H., Choi, J. N., and Du, J. (2017) Tired of innovations? Learned helplessness and fatigue in the context of continuous streams of innovation implementation. Journal of Organizational Behavior, 38: 1130– 1148.
Cooper, B, Wang, J, Bartram, T, Cooke, FL. (2019). Well-being-oriented human resource management practices and employee performance in the Chinese banking sector: The role of social climate and resilience. Human Resource Management. 58(1), 85–97.
Noe, R. A., Noe, A. W. & Bachhuber, J. A. (1990). An investigation of the correlates of career motivation. Journal of Vocational Behavior, 37(3), 340–356.
Stoverink, A. C., Kirkman, B. L., Mistry, S., & Rosen, B. (2020). Bouncing back together: Toward thetorical model of work team resilience. The Academy of Management Review, 45(2), 395–422.
*1 レジリエンスの定義は諸説あります
*2 Cooper et al. (2019)
*3 こちらについても定義は諸説あります。

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連載

チームレジリエンスの科学

人生100年時代。働く期間が長期化するなかで、「決められたゴールに向け邁進する、短距離走形の働き方」から、「変化を楽しみ、ストレスとうまく付き合いながら創造的であり続ける長距離走型の働き方」へのシフトが求められています。こうした長距離走型の働き方をする上で外せない要素の1つに、レジリエンスがあります。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、挫折から立ち直り、前進し続けることができることや、それに必要な力を意味します。本連載では、レジリエンス入門をパワーアップさせ、職場において、チームのレジリエンスを高める方法を紹介していきます。

人生100年時代。働く期間が長期化するなかで、「決められたゴールに向け邁進する、短距離走形の働き方」から、「変化を楽しみ、ストレスとうまく付き合いながら創造的であり続ける長距離走型の働き方」へのシフトが求められています。こうした長距離走型の働き方をする上で外せない要素の1つに、レジリエンスがあります。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、挫折から立ち直り、前進し続けることができることや、それに必要な力を意味します。本連載では、レジリエンス入門をパワーアップさせ、職場において、チームのレジリエンスを高める方法を紹介していきます。

著者

筑波大学ビジネスサイエンス系助教/株式会社MIMIGURI リサーチャー
東京大学大学院 学際情報学府博士課程修了後、同大学情報学環 特任研究員を経て、現職。MIMIGURIではリサーチャーとして、組織行動に関わる研究に従事している。研究キーワードは、レジリエンス、ジョブ・クラフティング、チャレンジストレッサーなど。著書に『チームレジリエンス』がある。

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