学習者としてあり続けるための、「探究」のコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第10回

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学習者としてあり続けるための、「探究」のコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第10回

本連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、「明日の実践ですぐ使える」ことをコンセプトに、実践に役立つちょっとしたファシリテーションのヒントを紹介します。第10回となる今回は、ファシリテーターが学習者としてスキルを高め続けるために効果的なヒントをお届けします。

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これまで本連載では、ファシリテーションの実践的な側面に着目し、参加者の学習や創発を促していく上で役に立つヒントをお届けしてきました。ところで、そもそもファシリテーションとは何なのでしょうか。日本ファシリテーション協会のWEBサイトでは、「ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働き*」と定義しています。しかしながら、現在様々な領域で行われるファシリテーションは、今もその実践の幅を広げており、様々な実践者がこの定義自体を問い直したり、独自の定義を掲げながら活動しています

「ファシリテーションとは何か?」を捉える上で、既存の職業との違いから考えていくと、その輪郭が浮き彫りになることがあります。例えば、学校の教師や研修講師など、何かを教える職業とファシリテーターでは何が違うのでしょうか。人の前に立ち、何か活動を促す点で、両者はよく似ています。また、対象が学びを獲得するという目指す目的も共通しています。しかし、ファシリテーターと講師では、学習を促すプロセスと学習者に対する接し方が大きく異なります。

講師は基本的に自身が持っている知識を与えることで参加者に学びを与えます。そのため、数学の公式など、社会的に正しいことが認められている事柄を効率よく学ぶ状況下において重宝される役割だと言えるでしょう。他方でファシリテーターは、場にいる学習者たちが、自身の価値観に基づいた独自のアイデアや気づきを主体的に獲得できるように働きかけることを専門としています。もちろん、この二つの役割は完全に分けられるものではなく、むしろ、特性の違いを理解した上で、場面に応じて部分的に取り入れることで、より大きな効果を生み出せると言われています。

また、個人の学びと創発だけでなく、集団による学びと創発を重視する点も、ファシリテーターの重要な特性のひとつです。一人ひとりの発言を丁寧に扱いながら、新たな思考の材料として編み直して提示する。そしてその集団知に触発された個人からまた新たなアイデアが生み出される。そのように知を生み出し続ける好循環を起こすことができれば、ファシリテーターとして理想的な働きかけができていると言えるでしょう。

既知の知識を教示する講師と違い、ファシリテーターは未知の問いへの探究を通じて学習を促していく存在です。「イノベーションに繋がるような斬新なアイデアを生み出すためにはどうすればいいのか?」や「人間関係上の問題をどうすれば解決できるのか?」といった、容易には解決できない複雑な問題に対して、場における知の循環を発生させることで、社会的には必ずしも正解と断言できるわけではないけれども、あくまでに自分たちにとってはそれが正解だと信じられるような答えを見出す支援を行うこと。それがファシリテーターの本質的な役割だと考えています。

それでは、どうすればそのような働きかけができるのでしょうか。一つには、ファシリテーター自身も一人の学習者として、未知の問いを探究し続ける姿勢を持ち続けることが重要です。ファシリテーターは、学習者の手を引き道を先導する存在ではありません。あくまで自分自身も学習者のひとりとして、並び立ち、肩を組み、他の学習者を支える存在です。学習者が伸び伸びと未知の問いと向き合うためには、そのような意識で場に臨むことが大切です。

しかしながら、学習者の一人で居続けることは、言葉ほど簡単ではありません。探究の姿勢を忘れ、同じ領域で似たような実践を続けていれば、参加者のアイデアもそれほど斬新なものには滅多に出会えなくなっていきます。また、知識も増えていくので、つい必要以上に教えたがってしまうケースもよくあります。そのような振る舞いが身についてしまうと、いつしかワークショップを機械的に”こなす”ようなファシリテーターになってしまうかもしれません。

そこで、今回は、学習者としての姿勢を忘れず、ファシリテーターとしてのスキルと精神を高め続けるためのヒントを5つ紹介します。ぜひご覧ください。

*特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会公式WEBサイト: https://www.faj.or.jp/facilitation/

■今回紹介する5つのヒント
「“第三の道“を信じる」
「ファシリテーター自身が究極の初心者として振る舞う」
「ファシリテーターは誰よりも学習者であるべき」
「ファシリテーターも学習者の一人として、時に個性を出す」
「自分のファシリテーションを撮影し、振り返る」


「“第三の道“を信じる」

【状況】
良いアイデアの創発や、議題にそれなりの結論を出すことを目的としたワークショップにおいては、発散的に出た意見をまとめながら、全体が合意する解へと収束させる必要があります。しかし多くの場合、対立する異なる意見から一つの合意に導くことは容易ではなくAorBの二元論的なディベートに陥ることも少なくありません。民主的に解決しようと多数決で結論を決めようとする場合もありますが、多数決はマイノリティを排除する方法でもあり、注意が必要です。

【行動】
時間の許す限り、ファシリテーターはAorBを「議論」によって焦って決めようとせずに、対立するAとBの意見を持つ両者が「対話」する時間を確保し、両者の価値観を包含するような、AでもBでもない「C」という“第三の道“はありえないか?を模索するとよいでしょう。このとき、「AとBの意見はなぜ、どのような点で相反するのか?」「 共通点はないだろうか?」「 見方を変えれば、その矛盾は解消できないだろうか? 」「同時に実現できないだろうか? 」などのような多角的な視点で検討することを参加者に促し、粘り強く対話をサポートする姿勢がファシリテーターには求められます。そして何よりも重要なことは、ファシリテーターが心から“第三の道“の存在を信じることです。

「ファシリテーター自身が究極の初心者として振る舞う」

【状況】
ワークショップでは、何かしらのテーマを設定し、そのテーマに基づいてプログラムデザインやメンバーの選定が行われます。特に専門的なテーマを設定する場合には、参加者も専門家が集まりやすく、議論の内容も専門的になりがちです。しかし、ファシリテーター自身が当該テーマの専門家であるとは限りません。場合によっては議論の中身についていけないと感じたり、ファシリテートが困難に感じたりする場面もあるかもしれません。

【行動】
確かにテーマに関して全く前提知識がなければ、ワークショップの設計や進行をすることは困難です。しかしワークショップの本来的な意義は、専門知に基づく「正解」を探究するのではなく、むしろ日常の当たり前を疑い、暗黙の前提を揺さぶりながら、価値観をリフレーミングしたり、思いもよらない新しい視点を獲得するところにあります。そうしたときに、ファシリテーターが「専門家と対等に振る舞うこと」よりもむしろ、「初心者として振る舞う」ことの方が効果がある場合もあります。

専門家のある意味での”狭い視点”を外側から眺め、素朴な疑問を投げかけたり、場の当たり前を問い直したりする姿勢を持つことで、かえって場は創発的な議論につながりやすくなります。またファシリテーターが初心者として振る舞うことで、知識が不足している参加者も安心して発言する雰囲気の醸成にもつながります。

「ファシリテーターは誰よりも学習者であるべき」

【状況】
ワークショップの設計や進行、場づくりなど多くの役割を担うファシリテーターは、問題解決の旗手であると同時に、他の参加者と同じ学習者の一人でもあります。しかしながら、参加者に指示を出しているうちに、自分自身のことを参加者よりも地位が高いように錯覚してしまうことがあります。その結果、参加者に何かを教えてあげようとするような態度になるなど、押し付けがましいファシリテーションになってしまうことがあり、参加者に不快感を与えたり、ワークショップ本来の意義が損なわれてしまったりすることも起こりえます。

【行動】
ファシリテーターとしてワークショップに臨む上での心構えとして、ワークショップ設計で既存の知識をレクチャーする「知る活動」と、参加者とファシリテーターが協同的に新たな意味の生成を目指す「創る活動」を明確に分ける意識を持つことが重要です。知る活動ではワークに必要な基本的な知識の提供を行なうため、事前に関連書籍を数冊読んだり、関係者にヒアリングしたり、自分自身でテーマに関する問いを立てて思考を深めておくといった準備をしておくと良いでしょう。他方で、創る活動以降においては、それらの知識はあくまで前提として扱い、自分自身も含め誰一人発見したことがない新たな気づきを参加者とともに探究するような姿勢で臨むと良いでしょう。例えば、創る活動に入る前に、「このテーマは私自身にとっても探究中であり、ここから先のメインワークを通じて皆さんとともに学び、新しい気づきを得られたらと思います」などと伝えておけば、参加者との協同関係を築きやすくなるので、慣れないうちはぜひ意識的にやってみると良いでしょう。

「ファシリテーターも学習者の一人として、時に個性を出す」

【状況】
参加者から様々なアイデアや考え方が表出するワークショップの場において、一般的にファシリテーターは、特定の立場に肩入れすることなく、常に中立でフラットな立場を心がけることが良いとされています。しかし、あまりにもそうした立場を堅持しようとすると、どの意見に対しても、他人事のような距離感を感じさせるファシリテーションになってしまう場合があります。そうした作業的な態度は、参加者のワークショップに対する意欲を削いだり、参加者が場やファシリテーターに不信感を持ったりする一因となりえます。

【行動】
ワークショップのファシリテーターは、問題解決者であると同時に、他の参加者と同じく、学習者のひとりでもあります。そのため、参加者と共に学ぶ中で生じた新たな考えや疑問、感じたことなどを提示してはいけないわけではありません。むしろ、ファシリテーターという独自の視点から生み出される意見が、参加者に新たな気づきを与えるケースも多く、参加者の発言や成果物に対して、素直に思ったことを言った方がいい場合もあります。ワークショップが目的とする学習や創発を、自分も含めた全員で、かつ高いレベルで実現することを念頭に置いた振る舞いを心がけると良いでしょう。

今回のヒントは以上です。ぜひ次回のファシリテーションで試してみてください。

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ワークショップ・ファシリテーションのヒント

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100年以上の歴史を持ち、コラボレーションを通じた「学び」と「創造」を促す方法として注目される「ワークショップ」。そのワークショップを行うファシリテーションの実践知も多岐に渡ります。CULTIBASEでは、これまで熟達したファシリテーターの実践知を数年に渡りリサーチしてきました。特集「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、こうしたリサーチをもとに、明日の実践ですぐ使える、ちょっとしたファシリテーションのコツを紹介します。

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著者

法政大学経営学部経営学科卒業。大学在学中からワークショップを中心とした対話の場のデザインを学び、2017年より参画。MIMIGURIでは編集者としてCULTIBASE事業におけるコンテンツの企画・制作を担当。創造性の土壌を耕すための知を編み直し、社内外に届ける役割を担っている。

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