本連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、「明日の実践ですぐ使える」ことをコンセプトに、実践に役立つちょっとしたファシリテーションのヒントを紹介します。
グループの多様性を尊重し、豊かな創発に繋げるコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第3回
第5回となる今回は、「オンライン下でもプログラムが効果的にワークする場づくりのコツ」をお届けします。
コロナ禍によるオンライン化にともない、ワークショップを取り巻く状況も大きな変化の時を迎えています。対面(オンサイト)による実践ができなくなって以降、多くの人が現在も試行錯誤を続けている最中にあるかと思います。中には、それまで当たり前に実施してきたワークができなくなり、ワークショップの開催自体を諦めてしまっている人もいるかもしれません。それでもあえてポジティブな側面を指摘するとするならば、いまの状況はある意味、「新しいツールに否応なく触れなくてはいけない状態」にあり、実践者としての幅を広げられるチャンスでもあります。コロナが収束しても、遠くに住む方と気軽にワークショップを実施する場合など、オンラインによる実践が行われるケースは多々想定されます。今後そういった活動もできるように、今のうちに慣れておくことも大切だと考えています。
そうした中で、今後オンライン・ワークショップの実践力を高めていきたい人は、どのようなポイントを重視すべきなのでしょうか。Zoomなどのツールに慣れておくことは大前提として、それ以外のポイントとしては、「従来のやり方の”オンライン化”を目指さない」ことが挙げられます。対面で行っていたワークショップを無理やりオンラインで行おうとしても、おそらく”劣化版”にしかなりません。それならば、オンラインだからこそ新たにできるようになったことを貪欲に取り入れて、「ワークショップの目的は変えないが、プロセスは大きく作り変える」姿勢で臨むほうが、結果的には良い実践になるはずです。そうした転換を行うためには、一定以上のプログラムデザインの技能が求められますが、この技能はコロナが収束した以降、対面でのワークショップを設計する時にも確実に活きるものです。そのように長期的な視点に立って、実施と修正を繰り返していくことが実践者として求められるスタンスと言えそうです。
また、当日のファシリテーションに関しても、確かにツールの操作方法や参加者との関わり方など、新たに学んだり慣れたりしなくてはならないことも多くありますが、「設計したプログラムを前提として大事にしながら、それが円滑に行われるようにサポートする」という基本的なスタンスは変わりません。また、実践者としてはどうしても従来のやり方と比較するかたちで、「できなかったこと・しにくくなったこと」に目が向きがちですが、ファシリテーションの困難さを無理に解決しようとするよりも、その困難さをプログラムデザインや事前のアナウンスなどの場づくり・関係性づくりの観点からカバーしようとするほうが効果的な場合もあります。
料理や演劇などその他の技芸と同様に、ワークショップに”完璧”は存在しません。そのため、実践者には常に自らの設計や振る舞いを振り返り、技能を磨き続ける姿勢が求められます。そうしたプロセスをできる限り楽しいものにするためには、”オンライン化”にまつわる問題も、「今すぐ解決すべき課題」とするのではなく、長期的・総合的な視点に立った上で少しずつ良くしていくものとして捉えるほうが、適切に向き合えるのではないかと感じています。
こうした前提を踏まえた上で、本記事では 設計したプログラムを活かすという観点を重視しながら、オンラインにおけるファシリテーションのヒントを「状況」と「行動」に分けて紹介します。ぜひ参考にしてみてください
■今回紹介する5つのヒント
「プロセスを4パートに分ける」
「必要な環境や機材を事前にアナウンスする」
「サブファシリテーターをアサインする」
「ボディランゲージでわかりやすくリアクションしてもらう」
「休憩を40分から60分に一度取る」
「プロセスを4パートに分ける」
【状況】
ファシリテーションとは、プロセスの設計です。時間が限られているからといって、いきなり本題に入ることは、効果的なファシリテーションとはいえません。むしろ、本題に対してそれぞれの参加者が好き勝手に意見を出しているだけでは、創造的な議論は期待できず、結論もまとまりにくくなります。時間内で質の高いアウトプットを出したいからこそ、プロセスを分割し、本題を深めるための導線を設計し、適切な時間配分を心がけなくてはなりません。
【行動】
まず、使える時間(100%)を4つのパートに分割してみましょう。本題を考える目的や意義について共有し、参加者のアイスブレイクをする「導入」のパート(約10〜20%)。本題に関連する知識を仕入れ、互いの経験や考えをシェアする「知る活動」のパート(約20〜30%)。そして、少人数のグループに分かれて本題に取り組み、解の候補を検討する「創る活動」のパート(約30〜40%)。最後に、グループごとの解をシェアし、吟味しながら活動を振り返る「まとめ」のパート(約15〜25%)。終日のワークショップであっても、数時間の会議であっても、1時間の授業であっても、この考え方は変わりません。
参考:ワークショップデザイン・ファシリテーション入門講座【ベーシック】
「必要な環境や機材を事前にアナウンスする」
【状況】
オンラインワークショップは、対面での実践時と違い、参加者の一人ひとりが様々な機材を駆使して行う必要があります。そのため、個人による機材トラブルが起こりやすく、音声や画面の不具合や、開始時点で必要なアプリケーションがインストールされていないがために、開始や進行が大きく遅れてしまうこともあります。また、必ずしも参加者がオンラインでのコミュニケーションに慣れているとは限らないため、適切ではない環境で参加してしまうことも多く、例えば騒々しいカフェなどから参加する参加者の環境音が、他の人のコミュニケーションや集中を阻害してしまうなどの問題も発生してしまうケースも見受けられます。
【行動】
参加者の機材トラブルや準備不足による遅延を防ぐためには、ワークショップを行う上で必要な環境や機材を、事前に周知徹底しておくことが重要です。具体的には、マイクやカメラのチェックや、必要なアプリケーションのインストール、静かな環境の確保などについて、事前に伝えておくと良いでしょう。また、告知文の段階で、必要な環境をアナウンスしておくことも効果的です。使用するアプリケーションが何か、スマートフォンでの参加も可能かといった点について明記しておくことで、余計なトラブルの防止に繋がる。また、当日を迎えるまでにファシリテーターが使用する機材・機能を試しに動かしてみるなど、操作に慣れておくことが可能となります。
「サブファシリテーターをアサインする」
【状況】
オンラインにしろ対面にしろ、ワークショップにおけるファシリテーターは様々な役割を同時に果たしながら進行していく必要があります。ただし、オンライン上のワークショップでは、参加者一人ひとりが異なる環境から参加し、モニター越しにコミュニケーションが行われます。そのため、些末なトラブルの解決にも時間がかかったり、参加者から得られる視覚的な情報が乏しいためにコミュニケーション量を増やす必要が生じたりと、ファシリテーターに大きな負担がかかることになります。
【行動】
オンラインのワークショップの運営において、チームでファシリテーションを行うことはことさら重要なポイントとなります。全体の進行を主に担当するメインファシリテーターをサポートするサブファシリテーターを、1〜2名ほどアサインしておくと良いでしょう。サブファシリテーターの役割としては、「参加者のトラブルに個別に対応する」や、「チャット上で、随時必要な情報をアナウンスしたり、参加間のコミュニケーションを適度に盛り上げ、場の温度感を調整する」などがあり、事前に分担を決め、参加者に周知しておくことで、メインファシリテーターの負担を軽減することが可能となります。また、運営メンバーだけの連絡チャネルを用意し、臨機応変に対応できる環境を整えておくことも忘れないようにしましょう。
「ボディランゲージでわかりやすくリアクションしてもらう」
【状況】
対面でコミュニケーションを行う際、私たちは言語を介したやり取りを行いながら、目線や姿勢、身振り手振りなど、言語以外の要素からの多くも情報を交換し、相手を理解するための材料として役立てています。しかしながら、オンライン上のコミュニケーションでは、ほとんど上半身しか映らないことが多く、そうした身体による情報が伝わりにくくなります。また、画面に集中する必要があるたことから、常時真顔で、表情や目線の動きも乏しくなりがちです。そのため、オンラインワークショップの中でレクチャーやディスカッションを行う際に、話し手の指示や意見に対して、聞き手が納得しているのか、それとも疑問に思っているのか、リアクションがわかりにくく、結果的に話し手が不安を感じてしまうケースが多く見られます。
【行動】
オンラインワークショップにおいて、それぞれの状態を細かく確認し合い、円滑に意思疎通を図るための工夫として、ボディランゲージを積極的に活用してもらうように参加者に促すと良いでしょう。具体的には、ワークショップの冒頭で、他の人が話している時にはできる限り大きな身振りでリアクションを取ることを求めるとともに、「”わかった・理解した”時は両手で大きく丸をつくる」「考え中の時は顎に軽く手を添えてギュッと目を瞑る」など、コミュニケーションにおいて特に重要な仕草を、この場におけるルールとして参加者に周知しておくと効果的です。また、いきなり導入しても気恥ずかしさなどからうまく浸透しない場合もあるので、ルールを説明する際アイスブレイクも兼ねて実際にボディランゲージを練習してみるワークを設け、徐々に慣れさせていくような工夫も大切です。
「休憩を40分から60分に一度取る」
【状況】
オンラインのワークショップでは、常にイヤホンやヘッドフォンを装着し、画面と向かい合って収集する体勢が長く続くため、対面での実践よりも体が凝り固まりやすく、疲労が溜まりやすい傾向にあります。しかしながら、オンラインではモニター越しのやり取りとなるため、ファシリテーターが参加者の疲れ具合に気がつきにくく、参加者が無理な我慢によってワークに集中できなくなってしまうケースが時おり見受けられます。
【行動】
オンラインの実践ではこまめに休憩を取るなど、参加者の体力に気を配る意識がより強く求められます。一般的に対面形式のワークショップの場合は、60分から90分に一度休憩を取ることが良いとされていますが、オンラインの場合は、目安として、対面でのワークショップの2/3の40分から60分に一度、10分〜15分程度休憩を取ることが適切です。また、参加者が疲労を訴えやすいような場づくりも重要で、例えば、冒頭で「疲れを感じたときは遠慮なくチャットで知らせてください」などとアナウンスしておくことで、参加者が安心して場に臨めるようになります。休憩に入る際には、再開時間をしっかりと伝え、チャット上などにも明記しておくことにも注意しましょう。
今回は「オンライン下でもプログラムが効果的にワークする場づくりのコツ」というテーマでワークショップ実践におけるちょっとしたヒントを紹介しました。ぜひ次回のファシリテーションで試してみてください。