グループの求心力を高め、良質なアウトプットに繋げるコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第4回

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グループの求心力を高め、良質なアウトプットに繋げるコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第4回

本連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、「明日の実践ですぐ使える」ことをコンセプトに、実践に役立つちょっとしたファシリテーションのヒントを紹介しています。前回は「グループの多様性を活かす」ことをテーマに掲げ、お届けしました。

グループの多様性を尊重し、豊かな創発に繋げるコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第3回

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第4回となる今回は「グループの求心力を高め、良質なアウトプットに繋げるコツ」をお届けします。前回述べたように、ワークショップの醍醐味は、多様な人がワークを通じて協同し、価値観の異なる他者のアイデアに刺激を受けながら自身のものの見方を拡張させていくプロセスにあります。そのため、「ワークショップをデザインするとは、すなわち、学習と創発のプロセスをデザインすること」だと表現されることもあります。しかしながら、「プロセスさえ充実していれば、最終的な成果がおざなりでも構わない」というわけではありません。むしろ、全員が対等に議論に参加し、多角的な観点から検討を重ねたグループと、そうではないグループとでは、最終的な成果の質に大きな違いが生まれます。

前者のグループのアウトプットは、さまざまな発話が行われた中でメンバーが面白いと感じた斬新な考え方やまなざしが意欲的に反映されていることから、見る人に意外な驚きや気づき、時にはざわつくような違和感をもたらします。他方で、協同がうまくいかなかったグループの場合は、ごく少数のものの見方しか反映されていない、小綺麗にまとまったアウトプットであることが多く、言葉を選ばず言ってしまうと、”優等生的でつまらない”もので終わってしまうケースがほとんどです。

時おり実践者が、「ワークショップを実施しても、その成否をどこで判断すればよいかわからない」と悩む声を耳にしますが、「ワークショップの参加者だけでなく、まったく関係のない人が見ても、何かしら気づきや発見をもたらすようなアウトプットが生まれているかどうか」は、ファシリテーターが自らの実践を測る上で常に持っておきたい指標の一つだと考えています。

また、当然こうしたアウトプットが生まれるかどうかは、ワークショップのプログラムデザインと場づくり、そしてファシリテーションに懸かっています。今回の記事では、グループが協同的な活動に楽しく没頭できるように働きかけ、周囲に新たな考え方を提示するようなアウトプットに繋げていくためのファシリテーションのヒントを、「状況」「行動」に分けて6つ紹介します。

■今回紹介する6つのヒント
「その日の目的とゴールは冒頭で明確に伝える」
「まず個人ワークから始める」
「付箋やワークシートの具体的な記入例を提示する」
「場の“ベクトル“を観察する」
「議論の蓄積を見える化しておく」
「発散でも収束でもない“グローンゾーン“を支援する」

「その日の目的とゴールは冒頭で明確に伝える」

【状況】
ワークショップではほとんどの場合、開催者やファシリテーターが、場を開く目的や意図、伝えたいメッセージを持っています。その際、「少しでも参加者を楽しませたい」という意識が空回りしてしまった結果、ファシリテーターによっては、ワークショップの意図や学習のねらいを最後に伝えようとするケースが見受けられます。しかしながら、目的や意図が明確に伝えられていない中では、参加者は今のワークを何のために行っているのがわからなくなってしまい、目の前の活動に没頭しにくくなってしまいます。

【行動】
ワークショップの冒頭や導入で、「このワークショップは、どういう目的で開催されているのか」や、「どんなワークを通じて、何を学び取ってほしいのか」を明確に伝えることで、参加者が今やっているワークが何に繋がるのか、明確なイメージを持って取り組めるようになります。その際、参加者の行動を規定しすぎてしまうと、自由な活動や発想が妨げられてしまう危険性があるため、あくまでゴールとなる制作物や学習を提示しながらも、そこにたどり着くまでプロセスは参加者に委ねる、といったバランスを意識することが大切です。

「まず個人ワークから始める」

【状況】
ワークショップといえば、多くの人はグループワークを思い浮かべます。それほど、ワークショップでは、グループワーク(少人数のグループによる作品制作やディスカッション、ダイアログ)を多く活用します。しかし、バックグラウンドが多様な参加者で構成されたグループが、テーマや課題に対する思考の準備が整っていない段階で、いきなりグループワークを始めても、一人ひとりの考えが整理されていないがために、ワークがなかなか深まらない場合があります。また、グループ内に強い意見を持ったいわゆる“声の大きな人“がいると、グループの総意がその人に引きずられてしまうケースも少なくありません。

【行動】
グループワークを成功させるためには、まず個人ワークから始めるとよいでしょう。たとえば、ワークシートを用いて個人の意見を整理させたり、あるいは2〜3枚の付箋紙を取ってもらい、1枚に1つのアイデアを書いてもらう、などが効果的です。ここで重要なポイントは、個人ワークの質量をグループ内で揃えておくことです。せっかく個人ワークの時間をとっても、あるメンバーは10枚の付箋紙にアイデアを書き出し、別のメンバーは1枚しか書いていなければ、グループワークの偏りは防げません。短時間の個人ワークの時間をとって、一人ひとりの意見を整理してもらうことによって、それが種まき的な準備運動の時間となり、フラットで活発なグループワークを促進することができるのです。

「付箋やワークシートの具体的な記入例を提示する」

【状況】
ワークショップでは、各ワークの意図に応じて、付箋紙やワークシートなどを用いて、参加者にアウトプットの記入を求めることがあります。しかしながら、ワークの指示が曖昧だと、参加者によっては指示を誤解したり、思い浮かべる書き方のイメージにズレが生じたりする場合があり、その結果、書かれる内容の抽象度がばらばらになってしまうケースがしばしば見受けられます。

【行動】
書き方の「具体例」がファシリテーターによっていくつか示されることで、参加者がイメージを持ちながら迷うことなくワークに集中することができようになります。付箋やワークシートの具体的な記入例をスライドに投影し、ワーク中にも参照できるように常に表示しておくとよいでしょう。ただし、具体例を示したことで、参加者のアイデアが引きずられてしまい、皆が同じようなアウトプットを書いてしまうリスクも生じます。そうならないように、具体例を示す際には方針が異なるいくつかのパターンを提示するよう心がけることも重要です。

「場の“ベクトル“を観察する」

【状況】
ワークショップにおけるファシリテーターの役割は様々ですが、参加者の状態を観察し、場の状況を把握することは特に重要です。しかし観察した状況に対して、適切なファシリテーションの行動を判断するのは容易ではありません。例えば目の前の4人組のグループのうち、1人の参加者が30分ほど沈黙していた場合に、介入をして意見を求めるべきか、もう少し見守るべきか、放っておくべきか、初心者のファシリテーターは判断に迷うかもしれません。

【行動】
ファシリテーションにおける観察のポイントは、場の“ベクトル“に目を向けることです。目の前の参加者がいま現在どのような状態にあるのか、点としての情報だけでは、適切な介入は判断できません。そのワークショップが何を目指した実践なのかによって、ファシリテーターはワークショップにおいてどのような風景を生み出したいのかを思い描いておく必要があります。その上で、現在のワークショップの参加者は何について試行錯誤をしていて、どのようなモチベーションを持って、どのような方向に向かって試行錯誤が進んでいるか、向かって行く方向(ベクトル)を読み取ることが重要です。ベクトルの先に「生み出したい風景」があるのであれば、ファシリテーターは無理に介入する必要はありません。しかし望ましくない方向に向かって場が進んでいるのであれば、ファシリテーターは直ちに介入し、場のベクトルを軌道修正する必要があります。

「議論の蓄積を見える化しておく」

【状況】
思いついたアイデアを付箋紙に書き出していくブレインストーミングをはじめ、ワークショップでは様々なワークを通じて多くのアウトプットが生み出されます。また、それらのアウトプットは模造紙上でまとめられる場合が多く、プログラムの内容によっては、模造紙が複数枚にわたって用いられるケースも少なくありません。その場合に注意すべき点として、新しい模造紙を敷く際に前のワークで用いた模造紙が参加者によって自主的に撤去されてしまうことがあります。また、オンラインの場合も、例えばZoomとmiroなどのオンラインホワイトボードサービスを併用する際は、一方で残した発話のログが、もう一方のツールを使用する際に参照しづらいという事態がよく起こります。その結果、参加者は先ほどのワークで出したアイデアや話していた内容を振り返る手段を失い、思考を深めにくくなる場合があります。

【行動】
参加者がこれまでの議論のプロセスを思い出しやすくなり、前のワークの内容を踏まえながら思考や議論を発展させていくための工夫として、ファシリテーターは、前のワークで出てきたアウトプットを見える位置に置いておくように、あらかじめ参加者に指示しておくと良いでしょう。その上で、「アイデアに詰まったときはぜひこれまでの議論を振り返ってみましょう」などと促すとより効果的です。オンラインの場合は、主要な意見は他の媒体にも転記するなど、ファシリテーターが率先して過去の発言を振り返りやすくなるレイアウトづくりを行うことも重要です。これらの工夫によって、発散的なコミュニケーションの中でも、話の中心となるテーマや相手の意見の背後にある意図が把握しやすくなり、また、これまでの流れを意識した建設的な議論が行われやすくもなります。

「発散でも収束でもない“グローンゾーン“を支援する」

【状況】
グループでアイデアや意見を出しあって一つのアウトプットを目指す場合、一般的には実現可能性や制約を意識しすぎず多様な意見を「発散」させるフェーズと、さまざまな制約のもとで実行可能な解に「収束」させていく2段階のフェーズでプロセスが区分されることが多くあります。しかしながら、メインワークを明確に二分し、発散のワークと収束のワークに切り分けてしまうと、かえってアイデアが拡がらなかったり、うまく収束できなかったりする場合があります。

【行動】
現実の創造的な思考プロセスは、発散的思考と収束的思考が直線的に進むのではなく、混乱、不安、欲求不満を伴いながら、反復的に繰り返されることによって進んでいきます。こうした段階は「唸りの地帯(groan zone)」と呼ばれ、創造的思考において重要な思考フェーズだとされています。ファシリテーターは、このような複雑な思考段階が存在することを認識し、無闇に発散と収束のフェーズを明確に切り分けようとせず、曖昧なプロセスを楽しみながら異なる意見の統合を促し、粘り強く創発のプロセスを支援する態度を持つことが重要です。

今回はグループの求心力を高め、良質なアウトプットに繋げるコツというテーマでワークショップ実践におけるちょっとしたヒントを紹介しました。ぜひ次回のファシリテーションで試してみてください。

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ワークショップ・ファシリテーションのヒント

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100年以上の歴史を持ち、コラボレーションを通じた「学び」と「創造」を促す方法として注目される「ワークショップ」。そのワークショップを行うファシリテーションの実践知も多岐に渡ります。CULTIBASEでは、これまで熟達したファシリテーターの実践知を数年に渡りリサーチしてきました。特集「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、こうしたリサーチをもとに、明日の実践ですぐ使える、ちょっとしたファシリテーションのコツを紹介します。

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著者

法政大学経営学部経営学科卒業。大学在学中からワークショップを中心とした対話の場のデザインを学び、2017年より参画。MIMIGURIでは編集者としてCULTIBASE事業におけるコンテンツの企画・制作を担当。創造性の土壌を耕すための知を編み直し、社内外に届ける役割を担っている。

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