本連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、「明日の実践ですぐ使える」ことをコンセプトに、実践に役立つちょっとしたファシリテーションのヒントを紹介しています。前回は、ファシリテーターが自己紹介やイベントの趣旨などを参加者に向けて語る「イントロダクション(導入)」のヒントを紹介しました。
参加者の集中を促すイントロダクションのコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第1回
続く今回のテーマは「参加者の緊張をやわらげ、関係性を構築するアイスブレイクのコツ」です。ワークショップに限らず、授業や研修、会議などで用いられることもあるアイスブレイクですが、どんな場であれ、「参加者の緊張をほぐし、コミュニケーションを行いやすい雰囲気をつくる」という大枠の目的は共通しています。ワークショップにおけるアイスブレイクでは、まずは参加者が楽しくお互いのことを知り合える自己紹介ゲームなどから始まるのが一般的です。その他にも、参加者間の交流における”はじめの一歩”を後押しするような簡単なコミュニケーションゲームなど、形成を促したい場の雰囲気や参加者の姿勢に加え、ファシリテーターの好み・芸風などに応じて様々なやり方が実践されています。
ただし、関係性が出来上がっていないにも関わらず、むやみに自己紹介を強いると、参加者に不快感や余計なプレッシャーを感じさせてしまう場合があるため、注意が必要です。また、いくらその時間は参加者の緊張をほぐすことが目的だからといって、ただ楽しいだけのワークショップの内容と関係のない活動を組み込んでしまうと、参加者がその活動に取り組む意義を見出だせず、意欲の低下に繋がりかねません。楽しく緊張をほぐせる時間であることを前提としながら、ワークショップのテーマと関連のある問いやワークを設け、参加者の意識を徐々にそのテーマへと向けてもらえる構成なっていると良いでしょう。
さらに細かい注意点ですが、これらの活動を行う際に、「これからアイスブレイクのワークを行います」と言ってしまうと、参加者が”緊張をほぐされる”ことに身構えてしまい、逆に萎縮してしまう場合があります。アイスブレイクという言葉は参加者向けには極力使わないように心がけ、「まずは簡単な自己紹介と、ウォーミングアップとしてミニワークからはじめましょう」など、自然な伝え方を意識することが大切です。
自然な流れでお互いを知り、コミュニケーションを通じて関係性を深め、次第にテーマへの関心も膨らむようなワークを設計する。また、当日は参加者の状態を見守りながら、適切な距離感と言葉遣いで目的に適ったファシリテーションを行う。これらが二つとも達成されていれば理想的ですが、決して簡単ではありません。そのためアイスブレイクは、前回のイントロダクションと並んで、ファシリテーターにとって注力すべき最初のポイントと言えます。今回は、アイスブレイクを行う上で助けとなる3つのファシリテーションのヒントを「状況」と「行動」に分けて紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
■今回紹介する3つのヒント
「アイスブレイクのネタを先出ししておく」
「自己紹介のタイムキープを参加者に任せる」
「若手にグループリーダーを任せる」
「アイスブレイクのネタを先出ししておく」
【状況】
一般的にワークショップでは、初対面の人同士がグループを組み、様々なアクティビティに取り組んでいきます。また、多くのワークショップでは、参加者の緊張をほぐし、円滑なコミュニケーションの土台となる関係構築を目的として、アイスブレイクと呼ばれる活動が設けられます。しかしながら、開場からワークショップが開始されるまでの間においては、参加者同士が顔を合わせたものの何を話せばいいかわからず、手持ち無沙汰になったり、気まずさを感じたりするケースがしばしば見受けられます。
【行動】
開場し、徐々に参加者が集まり始める中で、後で実施するアイスブレイクのネタを先出ししておくことで、同じグループとなった人たちのコミュニケーションを自然に生み出すきっかけづくりに役立てられます。例えば、「この後の自己紹介のお題では、“休日の過ごし方”について話してもらいますよ」と何気なくアナウンスしておくことで、参加者はその問いについて思考し、手持ち無沙汰な感覚を紛らわせることができるだけでなく、それを話題として、参加者同士の会話が弾むこともよくあります。もちろん、すでに場が盛り上がっている場に対してあえてアナウンス必要はありません。あくまで気まずい空気を打破するための手段として、頭の片隅に入れておくと良いでしょう。
「自己紹介のタイムキープを参加者に任せる」
【状況】
ワークショップの自己紹介は、タイムキープが困難です。たとえば「1人1分程度でお願いします」と、目安を決めていたとしても、饒舌な参加者は、それを守ってくれるとは限りません。問題意識や興味関心が強い参加者ほど、自己紹介が雄弁になり、グループ全体の持ち時間が、たった1人の自己紹介で終わってしまうなんていうことも、珍しくはありません。この段階で時間管理に対する認識を希薄にしてしまうと、その後のワークでもドミノ式に時間が延びていき、終了時刻にも影響が生じやすくなります。
【行動】
自己紹介のタイムキープは厳密に行いたいことを参加者に伝え、タイムキープと自己紹介の進行そのものを参加者に委ねるとよいでしょう。全体で輪になって行う自己紹介であれば、例えば「1人30秒厳守」と制限時間を決めて、隣の参加者にきちんと時間を計ってもらうと効果的です。制限時間が過ぎた時点でタイムキーパーにしゃべりすぎであることを肩を叩いて知らせてもらい、自己紹介はそこで終了とします。もちろん、規律的な厳しい雰囲気を生じさせるわけではなく、あくまで時間切れが笑いにつながるような和やかな雰囲気で進行することが重要です。
グループメンバー同士の自己紹介であれば、グループ内にタイムキーパーを設定し、責任を持って進行をしてもらうように指示をするとよいでしょう。より具体的な例としては、まず自己紹介の前にまずグループメンバーの顔を見合わせてもらい、その後「最も時間管理がしっかりしていそうな顔の人」を、一人選出してもらうやり方が挙げられます。多くの場合、「初対面の人を相手に、見た目で人を選ぶ」という行為は、照れくささや面白さを誘発し、自然と笑いが起こるものです。和やかな空気を作りながらも、選ばれたタイムキーパーが責任を持って時間を管理してくれるようになるため、効果的なアイスブレイクの方法として機能するのです。
「若手にグループリーダーを任せる」
【状況】
バックグラウンドが多様な参加者が集まり、多角的な視点が結びついて創発や学びが生まれる過程が、ワークショップの醍醐味のひとつといえます。そのため、ファシリテーターが参加者に対して、できる限り年齢や職業など社会的背景が異なる人同士でペアやグループを組むように推奨する場合も多く見られます。しかしその弊害として、年上の参加者とグループワークする際に、自分の意見よりも相手の意見をつい優先させてしまう、あるいは社内でワークショップを行う際に、役職が上の参加者に対して年下の方の参加者が萎縮してしまい、相手に受け入れられやすいような意見しか言わないなど、自由に発言しづらいような状況が起こりやすくなる危険性が生じます。
【行動】
前提として、ファシリテーターは、参加している全員が心理的に安心感を持って場に臨める環境がつくられているか、常に気を配らなくてはいけません。そして、もしそのような状況に陥る可能性があると感じたなら、年齢が低い人など、状況的に立場の弱い人に一定の役割を与えると状況が好転する場合があります。
その際、「人類が進化していると仮定すれば、若い人のほうが進化していることになるので、グループで一番進化している人に任せてみましょう」や、「新しいアイデアは非日常的な場から生まれることが多いので、ためしに普段とは違う関係性でやってみましょう」と冗談めかして話すなど、違和感なくワークに入れる文脈を用意するとよいでしょう。役割や発言の機会を与えられた参加者は、自信と責任感を持ってワークに臨むことができ、結果として、年齢の差に影響されないフラットな議論の場が生まれやすくなります。
今回は「参加者の緊張をやわらげ、関係性を構築するアイスブレイクのコツ」というテーマでワークショップ実践におけるちょっとしたヒントを紹介しました。ぜひ次回のファシリテーションで試してみてください。