「若手が活躍できていない」
「若手がなかなか成長しない」
「若手をどのように指導すればよいのかわからない」
人事やマネジャーにとって、若手育成の悩みはつきないものです。とりわけ最近は、若い世代の価値観も変化してきており、そもそも若い世代のメンバーとどうやってコミュニケーションをとればよいのかわからない、という人も多いのではないでしょうか。
サイバーエージェントの人事管轄執行役員として長年採用と育成に携わり、2021年に『若手育成の教科書 サイバーエージェント式 人が育つ「抜擢メソッド」』を出版した曽山哲人さんは、「4つのステップからなる『自走サイクル』をつくるだけで、若手は自ら、私たちの想像をはるかに超える成長を遂げてくれる」と断言します。
人が成長するときの「自走サイクル」はどのような仕組みで回るのか。「自走サイクル」を回すための最も重要なステップである「抜擢」を効果的に行うための方法とは。本記事では、曽山さんに『若手が育ち続ける組織の作り方』というテーマでCULTIBASE Lab会員向けに講演いただいた内容から、若手が育ち続ける環境づくりのヒントをお届けします。
■プロフィール(敬称略)
曽山 哲人(株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO)
上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。キャリアアップ系YouTuber「ソヤマン」としてSNSで情報発信しているほか、「若手育成の教科書」「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などの著作がある。
若手がどんどん「育つ」魔法の自走サイクル
「若手育成」というテーマを考えるとき、研修やOJTを通じて「育てる」というイメージを持つ人は少なくないでしょう。一方曽山さんは、「育てる」と「育つ」という概念を切り分けて考えることが非常に重要だと指摘します。
曽山 人事やマネジャーの立場では、再現性のある取り組みをすることが重要なので、研修で「育てる」という発想をしてしまいがちです。一方、人が想像を超えた急成長をするときは、誰かが答えや方法を教えて「育てて」いるというより、自分で勝手に「育って」います。会社の創業者に近いメンバーたちも、勉強会や研修で育ってきたわけではありません。
この事実にずっと違和感があり、サイバーエージェントの役員会でも一度、「育てるのか、育つのか」という議論をしたことがありました。その結果、研修などで「育てる」ことよりも、「育つ」環境をつくることの方が重要である、という結論に至りました。
そうして長年「育つ」環境づくりに取り組んできた結果、曽山さんが辿り着いたのが、「1.抜擢」「2.決断」「3.失敗」「4.学習」の4つのステップからなる「自走サイクル」です。このサイクルがぐるぐると回転する環境をマネジャーが意識的につくることによって、若手の成長が促進されるという仕組みです。
サイクルを回す上でまず重要なポイントは、「抜擢」のハードルを上げすぎないことです。曽山さんによれば、抜擢とは「期待をかけて何かを任せること」であり、課長や部長のようなオフィシャルな役職ではなくても、「抜擢」として十分機能すると言います。
曽山 たとえば、「営業活動に必要な、社会や経済の動向に関する情報収集ができていない」というチームの課題があったとします。そこで、入社1年目で新しく部署に配属された山田花子さんを、“新聞情報責任者”に抜擢します。チームにとって重要な仕事であることを説明し、「責任者」に任命することで、こちらの期待感が伝わりますよね。
“新聞情報責任者”に抜擢された山田さんは、「どの新聞を読むか」という「決断」をします。手始めに家にあった読売新聞と朝日新聞を使って情報収集し、翌日の定例会議で発表すると、メンバーからの反応があまりよくない。そこで「ビジネスに使うんだから、日経新聞に載っているような情報がほしい」といったメンバーからのフィードバックを通じて、自分のプチ「失敗」に気づき、「営業に使う情報収集には、経済誌の方が適している」という「学習」につながります。
その後、日経ビジネスや東洋経済、ダイヤモンドといった別の経済誌を自主的に読むようになってくれれば、成長の自走サイクルが回っている状態と言うことができます。
「まず抜擢」することが重要なワケ
4つのステップの中で最も重要かつ実践が難しいのは、やはり自走サイクルの起点となる「抜擢」です。多くの会社が、「経験や研修を積み、ある程度成長してから抜擢する」という方針を取ろうとします。
しかし曽山さんは、スキルや経験にかかわらず、「まず抜擢」することが何よりも重要だと語ります。
曽山 「育ってから抜擢する」という会社さんは非常に多いです。しかし、「どういう状態になれば、『育った』と言えるんですか?」と質問すると、皆さん止まるんですね。「育った」という状態を、誰も定義できていないんです。
結果、育った“ような気がする”タイミングで、抜擢されたりされなかったりする。結局ほとんどの人は抜擢されず、才能は引き出されないまま……。環境が人を育てます。そのためには、「まず抜擢」する必要があるんです。
とはいえ、経験の少ない若手に重要な役割を任せることには一定のリスクが伴います。せっかく抜擢したのに、失敗のリスクに対する不安から上司があれこれ口出しをしてしまい、いつのまにか本人の「決断」の機会を奪ってしまっているケースもあるでしょう。
これらのリスクに対応しながら若手を抜擢するには、どうすればよいのでしょうか。この問いに対し曽山さんは「やればチームにとってプラスになるが、まだ取り組めていないこと」を任せるのがポイントであると言います。
曽山 上司としては失敗はなるべく避けたいと思いますし、本当に致命的なトラブルが起きてしまっては困ります。そこでファーストステップとしておすすめなのが、「やればチームにとってプラスになるが、まだ取り組めていないこと」を任せることです。
まだ取り組んでいないことであれば、失敗しても0に戻るだけ。うまくいけばチームにとってプラスになるので、ノーリスク・ハイリターンなんです。
抜擢を機能させるコミュニケーション方法とは
「期待をかけて何かを任せる」と言っても、それが単なる作業の「命令」になってしまっては、自走サイクルは回りません。そこで重要になってくるのが、「抜擢の内容をどのように伝えるか」というコミュニケーションの部分です。
曽山さんは、効果的な抜擢を行うには、上司の期待や要望を一方的に伝えるだけでなく、「抜擢内容についてどう思うかを本人に言わせる」というプロセスを経ることが非常に重要だと語ります。
曽山 抜擢の内容についてどう思うかを聞いたときに、「私自身の勉強やチームのためにもなると思うので、ぜひやりたいです!」と反応が返ってきたら、よい感じで受け止めてくれたことがわかりますよね。逆に、「そうですね……まあ、がんばってみます」と、あまりやる気や手応えを感じられない場合は、その要因を探ります。
もしかしたら、現在の業務で手一杯で、新しいことをやる余裕がないのかもしれません。そうした障害がある場合は、先に障害となっているものを取り除きます。また、上司の期待のかけ方が足りなかったり、抜擢の意図がうまく伝わっていない場合には、改めて期待の意味づけを行います。
抜擢が機能しているかどうかは、相手の行動変化でわかります。“新聞情報責任者”への抜擢の例でいえば、新聞だけでなく雑誌の情報を集めてきてくれたり、朝の定例会での発信のみならずチャットでの発信も始めるなどが考えられます。最初に依頼した内容の枠を飛び越えてどんどん新しいことをやり始めてくれていれば、自走サイクルは回っており、抜擢は成功していると言えます。
逆に、最初に言われたことを黙々とやり続けていて、変化が生まれていない場合は、自走サイクルは回っていません。そうした場合は、1on1などの機会で、抜擢の内容に関する感想や自己評価について本人に語ってもらい、障害となっているものを確認したり、こちらの期待を改めて伝えたりすることで、修正を加えていく必要があります。
「未来とのつながり」が相手のやる気を引き出す
仮に同じ役職に抜擢するとしても、その「伝え方」によって、効果は大きく違ってきます。
相手のモチベーションや才能を最大限引き出すためには、どのようなコミュニケーションをとるとよいのでしょうか。
この問いに対し曽山さんは、「明るい未来」というキーワードを上げて、抜擢の内容を伝えるときに意識すべきポイントを共有してくれました。
曽山 抜擢の内容が、本人にとって「明るい未来」につながっていると感じてもらうことが何よりも重要です。なので、「これをやってくれることで、あなたや組織にとってこんなよいことがあるよ」と「明るい未来」につながるストーリーを伝えてもよいですし、本人の言葉から「明るい未来」が感じられるのであれば、あえて上司の口から語らなくてもいいと思います。
大事なのは「本人にとって」という部分です。仮に上司の立場でひっかかる部分があったとしても、本人に「明るい未来」が感じられており、迷いがないのであれば大丈夫。自走サイクルは、どんどん回っていくはずです。
講演内では、株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO安斎勇樹や株式会社MIMIGURI HR和泉裕之とのディスカッションも交えながら、若手とのコミュニケーション方法についてさらに深掘り、伸び悩みを感じた際の対処法や、自走サイクルのもう1つのポイントである「失敗」のマネジメント方法、「失敗」を許容する組織カルチャーのつくり方についてもご紹介しています。
CULTIBASE Lab『若手が育ち続ける組織の作り方』より
より詳しく知りたい方は、ぜひ下記のアーカイブ動画をご覧ください。