【序文公開】チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方

【序文公開】チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方

2024年5月31日に池田めぐみ(株式会社MIMIGURIのリサーチャー/筑波大学ビジネスサイエンス系 助教)と安斎勇樹(株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO)の共著『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』が発売されました。この記事では本書の序文と、著者の一人である池田めぐみからのコメントをご紹介します。

▼池田めぐみコメント
CULTIBASE で、「チームレジリエンス」に関するイベントを開催してから、早2年。あの時生煮えだった思考を、当時イベントに参加してくださった皆様の意見を踏まえて練り直し、ようやく完成した1冊です。

エースの離脱や理不尽なクレームなど、チームには数々の困難が待ち受けていますが、そのような厳しい状況に直面するマネジャーに寄り添える本を書きたいという思いでまとめました。ぜひ「はじめに」からお読みいただければと思います。


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はじめに

チームの行く手を阻むもの

■チームに降りかかる「困難」を乗り越えるには

早く行きたければ一人で行け。遠くへ行きたければみんなで行け。
(If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.)

これはアル・ゴア元米副大統領がノーベル平和賞授賞式典の演説で引用し、有名になったアフリカの諺です。

一寸先も見えない現代において、これまでのような「個人プレイ」ではなく「チームで成果を出す」ことが、あらゆる職種で求められるようになってきています。

しかし現実には多くの「困難」が降りかかり、チームの目標や基盤を脅かします。

・ロングセラー商品の突然の不振
・業界破壊的なスタートアップの出現
・人手不足に業績不安
・取引先の無茶な要求
・理不尽なクレーム
・SNSの炎上
・ギスギスした人間関係
・コミュニケーション不全
・エースの離脱

一つの「困難」を解決できぬうちに、また次の「困難」が立ち現れる。まさにストレスフルな状態です。
このような「困難」をやりすごす術を、私たちは持っていないわけではありません。

・〝我慢は美徳〟の教えに従って、苦難が去るまで耐え忍ぶ
・誰かを悪者にして、自分には関係ないと言い聞かせる
・二度と同じ過ちを起こさぬように、辞典のようなマニュアルを作成する

しかし、私たちはすでに理解しているはずです。このような場当たり的なやり方では、いつまでも長くは続かず、目の前の「困難」の根本的な解決にはならないことを。

何かある度に責任を取らされるリーダーには、やがて誰も立候補しなくなるでしょう。
不祥事の度に増えるマニュアルの禁止事項は、すでに覚えきれる量ではありません。
ミスをする度に小言を言われていた新人は、いずれ体調を崩してしまうかもしれません。

チームの「困難」を本質的に乗り越えるためには、私たちには何が必要なのでしょうか。


■不確実性が常に私たちをモヤモヤさせる

この「困難」の厄介さに拍車をかけているのが、時代の「不確実性」です。 不確実性とは、未来の結果が予測できず、リスクをコントロールできない状態を指します。

この先どうなるのかわからない。
いま何が起きているかもわからない。

まさに「わからなさ」が靄もやのように立ち込めている状態です。

「困難」と「不確実性」の相互関係は第1章で詳しく考察しますが、ここでは時代の「不確実性」が生み出す人間のストレスのメカニズムについて、整理しておきましょう。

人間のストレスは、外部からの不快な刺激(ストレッサー)に対する脳の反応であることは、広く知られている事実です。

ところが興味深いことに、人間は「予測できる刺激」よりも「予測できない刺激」のほうが強くストレスを感じることが、ある実験によってわかっています。*1

例えば5秒後に電気ショックがくることがあらかじめわかっていれば、それが仮に耐え難い痛みであったとしても、それなりに耐えることができます。

しかし、さほど強い痛みではなかったとしても、それが「いつ与えられるかわからない状況」のほうが、人は大きなストレスを感じるというのです。

予測がつかないだけでなく、刺激の「原因」がわからない場合も同様です。

まったく心当たりがない頭痛や腹痛が不定期に繰り返される状況を思い浮かべてみてください。放っておけば治るのか。すぐに病院にいくべきか。何科を受診すればいいのか。

原因と輪郭が捉えどころのない刺激もまた、私たちにとってストレスフルなのです。

すなわち人間は、自分にとっての「困難」の痛みそのものだけでなく「不確実性」が高まった状況において、強いストレスを感じるということです。外部環境が不確実であることは、私たちに恒常的なストレスを与え、常に「モヤモヤ」させるのです。


■ストレスから逃げるほど、ストレスを増長する悪循環

不確実性が、なぜ「困難」に拍車をかけるのか。それは、人間は自分自身にストレスが発生すると、ストレスの「根本原因」を取り除くことよりも、ストレス感情を「一時凌ぎ」することを優先してしまう性質を持っているからです。すなわち、肝心の「困難」を解消しようとするよりも、不確実性によって発生したストレスを「とりあえず減らす」ことを優先するあまりに、一人ひとりが「逃避的行動」に走ってしまうのです。

逃避的な行動とは、困難な状況の「犯人」を探して、責任を誰かに押し付けること。それが見つからなければ、組織や社会のせいにして、愚痴を発散すること。困難そのものから目を背けて、逃げたり、諦めたりすること、です。

ましてや現代は外部環境の変化のスピードが増し、慢性的にリソース(時間、予算、人手など)の不足に悩まされています。じっくり腰を据えて不確実性や困難に向き合う余裕がないなかで、私たちは取り急ぎ、ストレス源から退散しようとしてしまうのです。

もちろん「逃げる」ことは、必ずしも悪いことではありません。心身が脅威にさらされた時には、その場から撤退することが必要な場面もあるでしょう。

しかし、チームの全員が自分自身の心を守るために逃避的な行動を取り続けている限り、困難は解消されません。

「この先どうなっていくのか」
「いったい今何が起きているのか」
「どうすればうまくいくのか」

チームにとっての不確実性と困難は、一人ひとりが「逃げ」続けている間に、どんどん 膨れ上がっていくのです。各自がストレスを減らすための行動が、悪循環的にストレス源であるチームの困難と不確実性を助長してしまう。

これが、困難が永久に解決されず、不確実性が低減されない根本的な問題構造なのです。


■チームレジリエンスで困難を乗り越える

本書の目的は、不確実性の中で次々に降り注ぐ「困難」を乗り越える強いチームをつくるための処方箋を、最新の学術研究の成果に基づいて提案することです。

レジリエンス(resilience)とは、「回復力」「復元力」「弾性」などを意味する言葉です。危機的な「困難」に直面した際に、精神的に折れずに立ち直り、回復するための能力やプロセスを指す言葉として、近年注目されています。

元々は戦争や飢餓、幼少期のトラウマなど、逆境体験に関する心理学的研究から発展してきた概念です。*2 その後、災害からの回復プロセスとして社会学や災害学などの領域で発展し、現在はビジネスに不可欠な要素として、キャリア論や組織論で注目されています。

しかし前述した通り、個人が自分の身を守るだけの「独りよがりのレジリエンス」では、 目先のストレスが軽減できるだけで困難と不確実性は低減できません。レジリエンスをチ ームの力によって高めていくことで、一人ではお手上げだった困難と不確実性にも負けないチームをつくることが、本書の提案です。

もしかすると「うちの会社はコンプライアンス体制もしっかりしているし、危機管理は万全だよ」と考えている人もいるかもしれません。

しかし、確かにそれは企業経営のリスクヘッジの観点からは素晴らしいことではありますが、強いチームを作るレジリエンスの観点からは、注意が必要です。

困難を創造的に乗り越えてチームが成長することと、問題を誰かの責任にしてマニュアルを分厚くすることは、まったく別のことだからです。

チームでレジリエンスを発揮することは、もちろん簡単なことではありません。

そのアプローチを紐解くと、心をケアすること、自分の感情に向き合うこと、正しく問いを立てること、対話をすること、良い教訓を残すこと。これらを限られたリソースを使いながら組み合わせて実行する複合的な能力だといえます。

困難が発生してから対処するのではなく、日頃からチームで連携してリスクに備えておくことも必要です。

しかし、それぞれにはきちんと理論があり、実証された根拠があります。

著者の一人である池田めぐみは、長年レジリエンスに関する研究に取り組んできました。キャリア上の挫折から立ち直るための方法や、起業家が困難を乗り越え成長するために必要な信念などについてです。

これらは「個人のレジリエンス」と呼ばれます。

こうした研究に取り組む一方で、就職し企業で働く同期たちがチームのリーダーとして重要な役割を果たすようになりました。

チームの人間関係のもつれや、予期せぬ困難に巻き込まれ、責任感の強い彼らは個人のレジリエンスを発揮して何とかしようと奮闘します。

しかし、そこで目の当たりにしたのは逆境に打ち勝ちガッツポーズを決める姿ではなく、ゆっくりと疲弊していく同期の姿でした。

池田は彼ら彼女らに役立つ研究知見がないかと模索し始めます。

そこで出会ったのが「チームレジリエンス」です。

最初は個人に関わるものとして捉えられてきたレジリエンスは、近年、チームが持ち発揮するものとして位置付けられていたのです。

そこで本書では、レジリエンスとチームレジリエンスに関する本を超える海外の研究論文を下敷きにしながらも、誰にでも実践可能なかたちでチームレジリエンスを高める方法をまとめました。

読みやすくするため、なるべく本文には研究を引用していません。背景にある理論や根拠を知りたい場合は、注釈を辿ってみてください。

本書が困難に溢れる不確実な現代社会において、チーム運営に悩む皆さまの一助となれば幸いです。

安斎勇樹

*1 De Berker, A. O., Rutledge, R. B., Mathys, C., Marshall, L., Cross, G. F., Dolan, R. J.,& Bestmann, S. (2016). Computations of uncertainty mediate acute stress responses in humans. Nature communications, 7(1), 10996.

*2 村木良孝 . (2016). レジリエンスの統合的理解に向けて : 概念的定義と保護因子に着目して . 東京大学大学院教育学研究科紀要 , 55, 281-290.

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【著者登壇イベントのお知らせ】
「これからの時代のチームビルディング」について『問いかけの作法』『チームレジリエンス』両方の視点で語るトークイベント

池田めぐみ(筑波大学ビジネスサイエンス系助教/株式会社MIMIGURIリサーチャー)・安斎勇樹(株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員)の共著『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方 』(日本能率協会マネジメントセンター)の出版を記念して、「これからの時代のチームビルディング」について、具体的なスキルや知識としての「問いかけの作法」「レジリエンスの高め方」両方の視点で語る、“超解説”トークイベントを2024年6月20日(木)19時より関西大学梅田キャンパス内で開催します。
※チケットの在庫数は残りわずか。ご興味ある方はお早めにお申し込みください。

日時:2024年6月20日(木)19時〜21時 ※開場18:30
会場:関西大学梅田キャンパス内
(住所)大阪府大阪市北区鶴野町1-5
(アクセス)https://kandai-merise.jp/access/
参加費:当イベントでは3種類のチケットをご用意
(1)新刊『チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方』・「問いかけの作法」2冊付きチケット…税込4,000円(当日現金)(※)
(2)書籍なしチケット…税込3,000円(当日現金)
(3)関大生限定…無料チケット(10枚限定、書籍なし)
※チケットの在庫数は残りわずか。ご興味ある方はお早めにお申し込みください。

(※)著者サイン付きの新刊『チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方(税込1,980円)』・『問いかけの作法(税込1,980円)』を会場にてお渡しします

▼詳細・お申し込みはこちら
https://team-toikake2024.peatix.com/view

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著者

筑波大学ビジネスサイエンス系助教/株式会社MIMIGURI リサーチャー
東京大学大学院 学際情報学府博士課程修了後、同大学情報学環 特任研究員を経て、現職。MIMIGURIではリサーチャーとして、組織行動に関わる研究に従事している。研究キーワードは、レジリエンス、ジョブ・クラフティング、チャレンジストレッサーなど。著書に『チームレジリエンス』がある。

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株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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