チームの関係性を悪化させる「確証バイアス」の罠から抜け出す

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チームの関係性を悪化させる「確証バイアス」の罠から抜け出す

前時代的なトップダウン型の組織から脱却し、チームメンバーのポテンシャルを発揮させるためには、チームにおいて「こだわり」を見つけて育てることと、「とらわれ」を疑い問い直すことを、互いに循環させながら両立させることが重要です。

それはチームの「こだわり」か、あるいは「とらわれ」か?

それはチームの「こだわり」か、あるいは「とらわれ」か?

チームのポテンシャルを阻害する「とらわれ」は、事業や顧客に対する固定観念だけでなく、チームのメンバー同士で働く「確証バイアス」と呼ばれる偏見にもよく現れます。

「確証バイアス」とは、一度「そうだ」と仮説を立てたら、無意識にその仮説を支持する情報ばかり集め、その仮説に反する情報を排除しようとしてしまうことです。

たとえば「あの人はうっかりミスばかりする」と一度決めつけたら、その人のミスばかりが余計に目につくようになり、丁寧な仕事ぶりは目に入りにくくなるような現象です。

もちろんこれらの他者評価は「決めつけ」とは限らず、実際にチームメンバーのパフォーマンスの評価として、ある程度正しい場合もあるでしょう。

しかしこのように誰かを「こういう人だ」と決めつけて「変わらない事実」として固定化させてしまう態度は、チームに「とらわれ」を蔓延させ、関係性を固定化させる要因になりがちです。

“劣等生”ののび太くんと“優等生”の出木杉くん

藤子・F・不二雄の国民的な名作『ドラえもん』に登場するのび太くんと出木杉くんは、確証バイアスについて理解する好例でしょう。

のび太くんは勉強もスポーツも苦手な劣等生の典型です。他方で出木杉くんは学業優秀でスポーツ万能、優等生の典型です。

この「劣等生」と「優等生」という評価は、日々の成績や出来事が示している「客観的な事実」であると同時に、彼らの友人たちが無意識に形成した「バイアス」でもあります。

その証拠に、のび太くんは作中で「劣等生」というバイアスに反するような、優れたパフォーマンスを幾度となく発揮しています。

ところがその度に、スネ夫とジャイアンから「のび太のくせに!」というフレーズとともに、例外的な出来事だと判定されてしまいます。

仮説通りの”失態”ばかりがフォーカスされ「やはり、のび太くんは劣等生なのだ」というバイアスが悪循環的に強化されていき、一度形成された「劣等生」という仮説は、よほどのことがない限り、ひっくり返ることはなさそうです。

一方で出木杉くんは、どうでしょうか。実はあるエピソードで、出木杉くんの自宅にかかってくる嫌がらせの電話が原因で、成績が落ち込んでしまうシーンが描かれています。

ところが周囲は「あの出木杉くんが、成績が落ちるなんて、何事だろうか」といった反応で、それによって評価が揺らぐことはありません。「優等生」にたまたま発生した「例外的な出来事」として判定され、一度形成された仮説に、やはり影響はないのです。

チームに形成された「確証バイアス」を覆すには

チームにおいて一度「確証バイアス」が形成されると、お互いの評価はなかなか変わることはありません。

このバイアスを覆すためには、まずは誰かが「これらの評価は、確証バイアスかもしれない」と、チームの「とらわれ」に疑いをかけることが必要です。その疑念を抱くことが出来る人こそが、チームにおいてファシリテーターの素養がある人だと言えます。

もちろん出木杉くんが「優等生」であることをいちいち疑って、粗探しをする必要はないかもしれません。ところがネガティヴな評価を下されている「のび太くん」に対しては、「果たして本当に劣等生なのだろうか?」「仮にのび太くんに優等生的な要素があるとしたら?」「そもそも”劣等生”とはなにか?」などと、自分自身のバイアスに問いを立てて、疑念を抱いてみるのです。

そこから何か手がかりとしての洞察が得られれば、のび太くんの密かな努力や隠れた「こだわり」が引き出されるような問いかけを、のび太くん自身に投げかけ続けるとよいでしょう。

あるいは、周囲の友人たちに形成された「のび太くん=劣等生」という「とらわれ」に揺さぶりをかける問いかけを、投げかけるにも有効でしょう。

そのように、チームの「とらわれ」に疑念を持つことができたファシリテーターが、「問いかけ」を率先して使って、チームのポテンシャルを解放させていく。これが拙著『問いかけの作法』で提案している問いかけによるチームのポテンシャルを発揮させるサイクルなのです。

チームのポテンシャルが発揮されるための循環(『問いかけの作法』より引用)

確証バイアスは、上司から部下に対する評価に限らず、部下から上司、メンバー同士のさまざまな階層で起こりえます。誰かが誰かを評価する発言のすべてがバイアスによるものだとは限りませんが、日々のチームメンバーの他者評価の発言に注意を払って、それがバイアスによるものになっていないか。関係性のずれを生み出していないかを常に観察しておくとよいでしょう。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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